49 黒いポーション 4
ワインダー男爵の屋敷に女性が囚われていると憲兵の詰め所に連絡が入った。ワインダー男爵の従僕が出頭してきた。乙女亭のお客の女の子を屋敷に無理やり連れて行った。今までも何人もの若い娘を屋敷に運んだ。屋敷から帰った人はいない。それなのに屋敷内に女性の気配がない。
老齢の男爵がいなくなって今は若い男が男爵家を乗っ取っている。枯れ枝のようになった人間を屋敷の庭に埋めるのを庭師が手伝った。変な匂いもするし、屋敷の人間がいなくなる。次は自分ではないか 怖ろしくて仕方なかった。助けてほしいと出頭してきた。
以前より森にワインダー男爵私兵と冒険者が頻回に出入りしていた。そのころから森の異変が現れてきたと冒険者ギルドから報告があった。私兵や冒険者が、何をしていたかわかっていない。貴族の事には手を出せない。屋敷から嫌な匂いが漂って黒い霧のようなものが屋敷をつつんでいる。
若い男に騙されて大金を失ったと何件かの訴えがおきている。街ではここ1年若い娘と薬師が何人も失踪している。
宿の女将から客の女の子がワインダー男爵家の青年に連れていかれた。と報告が上がっている。すべてが男爵家につながっているようだ。
青の森の異変調査が始まって、集まってきた情報は随時、領主に報告した。領主より過去に恐ろしい事件が起きた。禁呪のため極秘案件となっているとなったと説明された。 200年ほど前に起きた事件を知ることになった。呪われた禁術薬の作成だった。いっときの若返りの薬は、人の生き血が欲しくなり血を飲まずにはいられなくなる薬。
200年前に大貴族と教会を巻き込んだ事件であった。世間には公表されていない。事件の主犯が、ワインダー男爵家の者だった。秘密裏に最速に解決しろと直々領主より指令が出た。そんなとき女の子が攫われたとワインダー男爵の年老いた下僕が訴えてきた
少女の救出を第一にワインダー男爵屋敷に10人の騎士と魔法士と向かう。 屋敷入り口で若い男に屋敷に入ることを断られた。主を出せというと自分が主のラストだという。主はラストだが60は過ぎているはずだ。領主印付きの命令書を提示し押し入る。ラストは入れまいと火炎魔法をぶつけてくる。しかし攻撃しなれていないせいか屋敷の壁に穴を開ける。苛立つラストは更に攻撃を仕掛けるもこちらの魔法士が撃退する。数度繰り返すとラストに次第に肩で息するほどの疲労が見えた。
「1班、ラスト捕獲、噛み付くかもしれないから魔法ロープで猿ぐつわしろ」
「2班1階捜索、3班2階捜索 人がいたら確保」と号令をかける
少数精鋭の部下は、速やかに配置に着く。2班より一人の女性と魔法ロープにとらわえれた男性確保、研究室らしい部屋発見。地下に行く階段あり、2階不審者なしの報告を得る。
「2班、研究室の捜索。3班、屋敷出入口の見張り。1班と魔法士は、俺と一緒に地下に」
捜査隊はホコリ臭い地下におりる。魔石ランプに明かりをつけると部屋全体が見えた。少女が倒れていた。各個室はすべて何かがいた跡があるが今は全て空だった。少女たちを診療所に運ぶ。捉えた自称ラストと縛られていた男は、街の警護室の牢屋に魔力封じの首輪をして、放り込んだ。屋敷は、魔法士を中心に隠し部屋も見つける。さらに捜査を続けた
診療所では、救助された女性の対応に追われた。一人の女性は失血がひどく、もう少し遅れていれば死ぬところだった。街の商人の娘だった。行方知れずになって半月、変わり果てた姿に親でもわからなかった。ややふくよかな快活な子だったらしいが、見る影がない。意識もない。
もう一人は、地下で倒れていた少女、魔力切れだそうだ。魔力枯渇による意識消失。意識がないので魔力ポーションが使えない。自然回復を待つようだ。二人とも 事情聴取には、時間がかかるだろう。
集まった書類の中にリストの日記があった。なかなか生真面目であったようだ。子供の頃から色々書かれてあった。この一年ぐらいのものは、日記というより記録のようだった。黒のポーションの発見から内服した様子、ポインドとの黒のポーション作成に取り組んだ過程、関わった人間、支払った金額、買った人間の日付、死亡した日付けが書かれていた。
この半月は字も乱れ、完成しない、生き血がほしい、血が飲みたい、これが呪いかと何度も繰り返し書かれていた。さらに集められた物の中に書類以外に ポーション・人血・人血と何かを混ぜた物・薬草液等いろいろな物が入った小瓶があった。
薬師の研究記録には、研究経過は、書かれていたが、完成した記録はない。これから二人の聴取で、何かつかめるだろう。すべての小瓶は、鑑定にかけなければならない。
牢に収監したリストは、騒ぎ立て続けた。翌日には、枯れ木のような老人になっていた。昨日の者と同一人物とは思えない。ギラギラした目だけは同じだった。薬師も同じだった。老化が一気に進み動くこともできない。口だけが動く。
「血をくれ!血をくれ!血をくれたらしゃべる」
どうにか椅子に座って居られる老人、ラストは叫び続けていた。
「喋ったら血をやる」
声を掛ければ、すらすらと供述した。話す言葉は支離滅裂だが日記に沿って聞いていく。
「先祖が作った若返りの秘薬を手に入れた。飲み続けないと効果が消える。それどころか老化が悪化する。俺は秘薬のレシピを知っていたからポインドに協力を頼んだ。ポインドはもうすぐ完成する。出来上がるまでは、血を飲んでしのいだ。偉大な薬なんだ。俺は選ばれた人間なんだ。しゃべった血をよこせ」
ぶつぶつ文句を言うラストは、椅子に座っていても体は震えていた。しばらくするとしわしわの枯れ木のような指が先から徐々にボロボロと崩れていく。見る間に体は灰の塊になっていた。まるで悪夢を見ているようだ。ここには自分と魔法士のみしかいない。魔法師に後を任せ薬師のもとに向かったがすでに牢屋の中で灰になっていた。神の怒りを買ったのだろうか。二人の灰は魔封箱に入れ聖布で包み集めた資料とともに領主に報告・提出した。ラストの供述ですべての内容が分かった。これ以上の調査はしないことになった。
領主はすべての書類と証拠物件と死者の灰を教会で燃やし戯れをはらった。このことは、領主から教会本部と国の主要機関に報告された。事件は、終了となった。すべてが消滅したころには街も森も木々は芽吹き、風は爽やかになり、森が生き返っていた。下草は花を咲かせるよう蕾を蓄えて、泉は淸水を湧き出していた。
原因はわからないが森は生き返ってきたと街の者は喜んだ。雇われた闇ギルドの冒険者はすでに死んでいた。貧血の少女は意識が戻り少しずつ食事が取れるようになった。彼女からは、仲良くなった青年に誘われて屋敷に向かったがその後の記憶はなかった。男爵の屋敷の森に9体の死体が埋まっていた。全て枯れ枝のようになっていた。
もうひとりの少女は、まだ意識がもどっていない。彼女は、攫われてから見つかるまで数時間なので 何も知らないだろう。地下室は、魔力を奪う部屋の作りをしていたようだ。魔力を集めて何かに使っていたのかもしれない。知らずに逃げ込んで魔力を吸われたのではないかと魔法士が言っていた。
ワインダー男爵には跡取りが居ない。二度も大罪を起こした家は取り潰しとなった。さらに屋敷はすべて取り壊すことになった。何か隠されていないか調べながらのため、多くの時間を要した。全てが終わった頃意識の戻っていなかった女の子を思い出した。診療所に行くと女の子は元気に退院していた。まあ事件は解決し森が元気になったから良いかと思うことにした。
地下室から 捕らわれていたポポを連れてメメは、森に倒れこむように転移した。ポポ達は、魔力を奪われながら監禁されていたので、体力魔力を失っていた。隠れていた森の妖精や精霊がわさわさと顔を出してきた。
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