48 黒のポーション 3
ララはワインダー男爵とポインドの話をドア越しに聞いていた。しばらくすると二人は部屋の前からたちさっていった。話の様子では、二人とも魔法に疎い。ソファーから起き上がり魔力を薄く巡らす。 屋敷の奥の方に魔力の塊がある。
「ララ、ここだな。瘴気が漂っている。動物は逃げ出すはずだ。人にも少しずつ影響が出る。狂気に走り、思考力が落ち、欲求に従うようになる。動物が、瘴気に侵されると魔物になるように。人も狂っていく。どうするか」
「まずはポポ達を助けないと」
「あのー」
小さな声が聞こえた。驚いて飛びあがった。
「今良いですか?宿から勝手にいなくなるから探しましたよ」
「アルマン、ごめんね。急に連れてこられたの」
「うん。分かってる。宿のネズミが教えてくれた。街の北側から瘴気が流れてきてる。森の妖精も精霊も隠れている。森が怒っている。泉の女神が震えて泉に閉じこもった。それに人が何人もここの庭にうめられてるって。それと屋敷のネズミがこんなもの持ってきた」
紙の端くれに黒いしみがついていた。どす黒くいやらしい甘い匂いをさせていた。メメが唸った。
「それ、禁術の若返りの薬か?血と妖精と黒くて甘い液体…薬師の七不思議だ」
「メメ何か知ってる」
「200年ほど昔。国家魔法師が若返りの薬を作ったんだ。もちろん失敗したんだよ。教会の禁書に書かれていたかなんかで、彼はそれに夢中になり、多くの少女と妖精を殺した。錬金術で薬を作ったらしい。事件が発覚して処刑された。研究自体も破棄されたはずだ。何か記録が残されていたのか?」
と思案気につぶやいた。
「錬金をそんなことに使うなんて許せない。完成したのその薬?」
「失敗と言えるか… その薬を飲んだものは一時には若返ることは、若返る。しばらくすると元より老けてしまうんだよ。若さを保つには、薬を飲み続けなければならない。でも薬は簡単に作れない。処女の血を飲むと若さが長く保てる。王都で若い娘ばかりの失踪事件が起きたんだ。
一度若さを取り戻すと薬が辞められなくなる。そして生き血を飲むと若返りが続き、生き血が欲しくてたまらなくなるらしい。」
ブルッと震えた。吸血鬼製造薬。カバンからゼリーが出てきた。メメに何か言っている。ゼリーは一度ララの方にお辞儀するようにペコリと丸い体をおりまげた。水たまりのようにペタンコになって、ドアの隙間を抜けて出ていった。
「ララ、ゼリーが、ポポ探しに行ってくれると言ってる」
「ゼリーは強いから大丈夫。ゼリーは攻撃全部はじいちゃうし、壁や床と同化してるから人には気づかれない。何処へでも侵入できる」
「最強じゃない。スライムって最弱じゃないの?」
「ララに体を治してもらった時から最強になった。だから森には帰らずララを守ることにしたと言ってた」
コツコツと靴の音がした。慌てて寝たふりをしていると先ほどの薬師が、ララを抱きかかえて部屋を出た。
「子供からはどのくらい血を取れるんだ? まあ全部貰っておこう。次にも使えるから。ここでの研究も今日で終わりた。それにしてもおいしそうな子だ。薬を作る前に少し頂こう。これで意欲も若さも高まる」
ぶつぶつと独り言を言いながらララを運んで移動した。もう狂っている。
次に連れてこられた部屋は、寝台が4台ある。一人だけ寝ている。ララはその近くの寝台に寝かされた。薬師の男は、隣の女の人の方を何か見に行ってのち部屋を出ていった。
すぐにララは起き上がり隣の人を見たら真っ白な顔色をしたやせた女性だった。腕に大きな切り傷に ストローの木のツタが差し込まれ ぽたぽたと血が垂れていた。容器に少ししかたまっていない。
死んでいるように見える女性は意識はないが胸が浅く動いている。慌てて蔦を引き抜き傷を布で圧迫した。それでも動く気配はなかった。
魔法カバンを取り寄せ初級ポーションを刺し傷に垂らし、残りを口に少しずつ垂らす。喉元が動いているので上手く吞み込めているようだ。急激な回復は弱った体に悪い。
「ララ あいつ戻ってくる」
「任せて」
女性に敷布をかぶせ外した採血用の管を偽造した。ララは寝台に横たわり寝たふりをする。薬師がナイフとコップをもって舌なめずりしながらララに近づいてきた。
「美味しそうなお嬢さん。ラストに飲ませる前に俺が飲まないと力がわかない。黒のポーションを作れるのは俺だけだ。あいつは金と女を攫ってくるしか能がない。妖精だって捕まえられない。それなのに、レシピ教えたから出来るだろうと気やすく言いやがった。
だからボンボンは、ダメなんだ。俺があっての黒のポーションだ。あいつ本物の黒のポーションをまだ隠しているかもしれないからご機嫌は取っておく。早くポーションを完成させて俺は大金持ちになるんだ。自分でできないくせに威張りやがって。完成の暁は俺一人のものにする。あいつは切り捨てる」
ぶつぶつ言いながらコップを寝台の横に置き 右手にナイフを持つ左手でララの右腕をつかんだ。その間ララは、静かに魔力を左指に集めた。腕に傷をつける瞬間、男の胸がララに近づく。その時を待っていた。メメもゼリーもアルマンもいるので怖くはなかった。彼の左胸に向けて左指から魔力弾を撃ち込んだ。声をわずかに上げ薬屋は倒れた。
「うっ」
「ララ、ベガ特製布ロープで縛って。こいつ吸血衝動が抑えられない。今に暴れるから」
「分かった」
白い布を男にかぶせて魔力を込める。布は男に巻き付き首だけ出してた。意識のない男にアルマンが眠り薬を口に押仕込んだ。とりあえず男を部屋の隅に運び毛布を掛けておく。
「ララ誰か来た」
慌てて再び寝台に横になる。入ってきたのは先ほどの若い男だった。
「ポインドは、何処へ行ったんだ。先に生き血をくれるといったのに。自分だけ飲んだのか?まだのようだな。実に美味しそうだな子だ。子供はみんなこんなに美味しいそうなのか?今度は子供を攫ってくるか。でも子供だと数がいるな… 黒のポーションに足りないのは、魔力か。そうならあと少しだ。あれだけ金を使った。
あいつに2本も飲ませた。早く完成させないと俺が死んでしまう。若ささえあればあとは俺の思うままだ。売れば大金が手に入る。地位だって金で買える。作り方さえわかれば、ポインドはいらない。あいつは欲が深すぎる。作った薬を勝手に飲ませて人を死なせてばかりだ。あいつも焦っている。血も飲みすぎだ。完成までは、頑張ってもらわないと。いったい何処に行ったんだ」
そう言って部屋を見まわして出ていった。苛立ちが足音に出ていた。男が閉めていったドアから、ゼリーが入ってきた。メメに向かい何か告げている。
「ララ ポポ達は、地下の魔法封じの牢にいる」
「すぐ行こう」
「待て待て、焦るな。ポポ達は必ず助ける。それと誰かが屋敷に入ってきているらしい」
「じゃ今なら研究室に入れるかな?」
「今なら大丈夫だ」
ゼリーに誘導されて罠を避け地下に向かう。ゼリーがドアの隙間から入って、かぎを開ける。そこには製薬の道具が並んでいた。部屋全体から、どす黒く嫌な匂いと禍々しい瘴気が漂っている。さらに黒い液体が小瓶詰めされていた。
「メメこれ魔法カバンに仕舞っていい。この小瓶から濃い瘴気が出ている。放置できない」
「ララらしいな。カバンに仕舞っていい」
適当に捨てられない。ゼリーが口?を開けた。
「ゼリー、無理だ。魔物になるぞ」
ララは、禍々しい小瓶を2本、魔法カバンにしまった。研究書類をメメが見繕っている。アルマンとゼリーは、隅々まで部屋の中を物色した。
「ララ、急げ。人が来る」
「回収した。研究書類は?」
「必要なものは、持った」
「ゼリーが階下に降りた。行くぞ」
ゼリーの後について、埃だらけの階段を下りていった。
降りたところに、大きな木の扉があった。体を縛るような重苦しい魔力を感じる。ララは、魔力を込めて扉を開ける。ララの体から恐怖があふれる。濃い瘴気が溢れている。
「ポポ!」
『うーんララ?』
ポポの念話が弱弱しく届く。
この禍々しい瘴気を消さなければポポ達は助けられない。ここまで濃いものは自分の力で、祓えるだろうか。ララは手を床につき、聖魔力を流していく。
「ララ無理だ」
メメが声を上げる。ゼリーがララの手の上に触手を載せて一緒に魔力を流す。アルマンもララに魔力を送る。それでも聖女でないララには濃い瘴気を祓えない。メメもララの手の上に魔力込める。すべての魔力が一つになり大きな渦になって黒い瘴気を飲み込んでいく。部屋全体の瘴気をゆっくり消滅させていく。
暗闇に包まれていた部屋の様子が現れていた。左右に頑丈な扉がついた小部屋が6部屋左右に3部屋ずつある。真ん中が通り廊下になっている。ララは、魔力を使い果たし動けない。メメとアルマンが、小部屋の扉を開けていく。一つ目は空き部屋。次の扉を開ける。白い羽根の妖精が倒れていた。メメが救い出し森に転移した。
次の部屋には何もない。5つ目の扉の向こうにポポがいた。アルマンが駆け寄った。最後の扉を開けるとコロが倒れていた。メメがコロを抱き上げた。
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