47 黒いポーション 2
俺はいつも通りゆっくり起床して洗面所に向かった。屋敷にはメイドは通いの者しかいない。金がない。昨日帰りがけにメイドが準備した水で顔を洗い布で拭きながら鏡を見た。
そこには髪が輝くような金髪の好青年が映っていた。今から40年前ならこんな姿だった。その時よりも好青年だ。あの黒い液体か・・慌てて執務室にむかった。鍵を開け木箱を見れば、昨日と同じように4本残っていた。
夢ではなかった。昨日より小瓶はさらに光って見えた。ブレンダーは若返りの薬を完成していたんだ。処刑される前に実家に持ち込み自分が使うつもりだったのかもしれない。飲んで姿を変えて逃げるには好都合な薬だ。俺はもう一度人生をやり直せる。
街に出てみた。歩けば若い娘が俺を見つめている。女の方から声をかけてくる。社交に出れば淑女から妖艶な未亡人までが誘いをかけてきた。涙を誘う話でもすれば、有り余っているお金を貢いでくれた。なんと素晴らしい薬なのだ。俺は今からやり直せる。
意気揚々と出かけ楽しんだ。そして半年過ぎた頃体力が落ち顔のしわが現れた。慌てて2本目を飲めば元の好青年に戻った。安心したが残りが3本。これがなくなったら元の生活に戻る。戻るなんてできない。一度作れた薬なら必ず作れるはずだ。黒のポージョンは半年ぐらいしか効果続かない。
ポーションの入っていた箱をよく調べてみると二重底になっていた。古い紙が出てきた。
処女の血を飲め。老化が現れたら黒のポーションを飲む。それを繰り返せば永遠の若さが手に入る。これは戯れの薬。溺れるのも利用するのもお前が選べ
これは兄を売った弟男爵に対する報復なのか幸運な贈り物か。俺に薬の知識などない。協力者が必要だ。欲深く、腕が良く、秘密が守れる者を探さないと。我が家には年老いたお抱え薬師が街にいる。重用することはなかった。『俺は王都で有名な薬師だったが、陥れられて都落ちした』と来るたびに話していた。ほら吹きだと思っていた。欲深い男だ。すぐに彼を 屋敷に呼び出した。
「お初にお目にかかります。およびたてにより伺いましたが旦那様はいらっしゃらないのですか」
と尋ねてきた。見知らぬ若造が対応してるのに驚いているようだ。
「ポインド、分からないか俺だラストだ」
「えっ、冗談を言わないでくださいよ。ラスト様は60代ですよ」
「俺は、王都で有名な薬師だった。陥れられて都落ちしただよね」
「えっ・・・」
「俺は腰が悪い。50の時右膝を悪くして回復魔法をかけても良くならなかった」
「ど・どうして。どうやって」
ギラギラした目になっていたポインド。俺は、おもむろに黒い液体の入った小瓶を見せた。
「これを飲んだ。我が家の秘薬だ」
「もしかしたらブレンダー様が作った若返りの秘薬」
「何で知っている」
こちらが驚いてしまった。
「王都にいた頃薬師の七不思議という話がある。まあろくでもないことが多い。死者が生き返る、性別を変える、魅了の薬、不死の薬、その中にブレンダーの若返りの秘薬というのがありました。ブレンダーは青の森の出だと。どうせ王都を出されるなら何か情報がないかと青の森の街に住むことにしたんだ。でもこの年まで何の情報もなかった。ここの一族だったんだ。知らなかった」
前のめりになって 小瓶に手を出そうとする。
「飲ませてくれませんか」
「飲ませても良いが手伝ってもらいたいことがある」
「分かっています。この薬を作るんですね。やります!やらせてください!レシピが残されているのですね」
話は進み古老の薬師は調剤に必要なものをすべて運び込んだ。ポインドは客間で寝る前に薬を飲んだ。
「素晴らしい!意欲も気力もみなぎってきた。若さとは、素晴らしい!」
翌朝、ポインドは鏡を見て大騒ぎした。自分の体で効果を実感したポインド薬師は精力的に研究を始めた。元々ポインドは王都でいかがわしい薬を高値で売って王都の薬師ギルドを追われた者だった。そのくらいの方が仲間には都合が良い。
ポインドは薬草を多量にかき集めた。多量のポーションを作成した。中級ぐらい作れる技量はもっていた。処女の血は、お金と一緒に集めることが出来た。妖精だけが集めることができない。ポインドが闇ギルドを紹介してくれた。金はかかるが、青の森で捕まえてきてくれる。
回復ポーションと血の配合を試みるも上手くいかない。手が足りないので、街の薬師を誘拐して働かせた。黒のポーションのレシピを繰り返し繰り返し試していくうちに時間が経った。
やっと妖精らしきものを捕まえたと連絡が有った。次の段階に向かう。詳しい手順が無いのでポインドに任せるしかない。
なかなかできない黒のポーションの代わりに、ポインドと二人で血を飲む機会が増えた。最初は嫌悪したのに今は美味しいワインのように飲み比べをするほどに幸福感に満たされる。処女の血は美味しく、飲めば若さがよみがえる。
完成したポーションを屋敷の年よりのメイドに飲ませた。一人は苦しんで死んだ。二人目も死んだ。 三人目も死んだ。四人目も死んだ・・・さらに試作を進めて庭師のじいさんは若返ったが苦しんで死んだ。まだ完成ではない。
もっと金が必要だ。街に出て金持ちの娘に声かければすぐに金が集まる。顔が良いだけで人生は変わる。薬師は3人に増えたがその間に2人死んだ。ポインドは、欲が絡んで血も妖精も薬草も矢の催促だった。最後は攫った薬師に薬を飲ませた。一人死に、二人死んだ。そしてもう一人死んで、薬師は、ポインド一人になった。
森から妖精がいなくなった。薬草がなくなった。お互い焦ってきた。処女の血だけでは、若さが保てなくなってきた。俺はポインドに隠れて4本目の小瓶を飲み干した。しかし俺の若返りに気が付いたポインドは、残りの1本をよこさないと研究を止めると脅し5本目をポインドが飲んだ。あと半年は、若さが持つが、それまでに完成しなければ終わりだ。
そんな時珍しくギルドから 新鮮な薬草が入ったと。手なずけていた女から連絡が入った。薬師でもある若い女の子。良い拾い物だ。女の失踪が噂になってきていた。薬草も妖精も限界にきていた。これでだめなら、街を出て他で研究を続けるしかない。
早速、迎えに行けばまだ15・6歳の女の子だった。美味しそうな血を持った子。無理やり馬車に乗せ屋敷につれてきた。
「ポインド、この子薬師だけど血の方を利用しよう。この子でだめなら、この街を出る。他の街で研究を続けるしかない。失踪が噂になってきている。捕まっては身の破滅だ」
「血が、美味しそうだ。いつも通り寝ているよな。まずは血を飲んで妖精のかけらが最後の1回分だから大事に調剤しないと」
「いい加減に、完成させてくれよ。俺の出来る事はしているだろ」
「何言ってる。俺という薬師がいなければ最初から黒のポーションなんて作れないくせに」
「ところで、ポインドは錬金薬作れるか」
「出来るにきまってるだろう 俺はこんな街で終わる薬師じゃないんだ 俺の才能をねたんだ奴らに陥れられたんだ」
「まあ興奮しないで。ブレンダーは魔法師だったから、単に薬を作るより魔法を使って、作ったのでないかと、昨夜本を読んで思いついたんだ」
「思いつかなかった。ではこの子の血を使って黒のポーションを錬金しよう」
成功すれば国王だって頭を下げる。ふたりには、未来が輝かしく思えていた。
誤字脱字報告ありがとうございます。




