46 謎の黒いポーション 1
メメとゼリーが、寝ているうちに、水鏡で泉の女神に連絡を入れた。水鏡の中に女神の顔が現れた。青の森の様子やギルドの情報を伝えた。今は街で、情報を集めている。ポポとコロと連絡が取れてない。セバスチャンが必要な物はないかと、ジュモーとモッジはお店は大丈夫だと、ベガがワンピースを見せてくれた。5分もしないうちに水鏡は普通の鏡になった。
少しでも顔を見せれてよかった。みんなも変わりないようだ。不思議な鏡。部屋のドアをノックする人がいた。
「あのーお客様に面会の方が見えています」
おどおどした声。メメと顔を見合わせた。
「どんな方ですか」
「なんか若い男性で身なりの立派な方です。下に来てください」
言い合っても仕方ないので、階下に降りていくことにした。メメは陰から見ていている。ゼリーは、カバンのポケットに収まった。階下に降りていくと、うやうやしく頭を下げる見目の良い青年がいた。
「お初にお目にかかります。ギルドで他所から来た薬師様が、いると聞きました。お助けいただけないかと伺いました」
言葉は、丁寧だが胡散臭い雰囲気満々。
「まだ未熟者ですので力不足かと思うのですが」
丁重に断る。
「いえいえ、納品された薬草も素晴らしいものだったと。そのような方は、薬師としても腕が良いに違いありません。実は私が仕えているところの奥様が、体調を崩されております。治療士や医者にも診てもらったが、なかなか良くならず。特別なお薬が必要なんです。
街に薬師が少なく、腕の立つ者が居ないのです。奥様を大きな街へ連れていくには、体力が無く思案したときに。神様のお助けか、あなた様の事を伺い、不躾と思いましたがお訪ねさせていただきました」
冒険者ギルドから情報が洩れている。
不審な相手ではあるが 嘘とも言い切れないが…
「お礼は十分させていただきます。もし奥様が、治らなくても責は問いません。今までも多くの薬師に世話になっています。どうか お助け下さい」
そう言うと乙女亭の前にとめてある馬車に引き込もうとする。引き止めたそうなおかみさん。
「今日、街に着いたばかりだから、明日ではだめですか」
「早く、奥様を助けたいのです。女将からもお嬢さんを説得してください」
その声に青年はにっこり微笑む。その微笑みが怖い。ここでもめては、目立ってしまう。
「女将さん行ってみる。必ず戻ってきます。荷物残しておくので、お部屋取っておいて下さい」
「わかりました。どちらへ伺うのですか」
「この街の北側にお屋敷があります。夜には宿に戻れます」
高齢の御者が馬車の戸を開けてくれたので青年に手を引かれララは乗り込んだ。
馬車は流れるように走り出し街の北に向かった。初夏に近いのに寒々しい空気が漂っている。しばらくすると坂を上り高台に向かった。まだ日が高いのに霧に包まれた風景が現れた。さらに馬車は走り大きなお屋敷の前で止まった。誰の迎えもない。大きなドアを青年自ら開け私に入るようにうながした。こんな大きな屋敷ならメイドや従僕や執事がいないのがおかしい。そういえば名前を聞いていない。私も名乗っていなかった。
応接間に通された。年配のメイドがお茶を持ってきた。押してくるワゴンの音がやけに大きく響いた。それだけ静かな屋敷だった。お茶を出すメイドは緊張してるのか指先が震えている。ララの耳元に『眠り薬だ飲むふりしろ』メメの声がした。
「お疲れさまでした。お茶でも飲んで一休みしてください。奥様のお部屋にご案内します」
メイドに下がるように指示をだし、まずは若い男性がお茶を飲んだ。
ララは飲もうとカップを口元に持っていくとゼリーの細長い指がカバンのポケットから背中に伸びてほほを伝わってお茶を飲み干してくれた。丁度髪で隠れて青年には見えない。メメが隠匿をかけて背負いカバンを取り寄せてくれた。
『薬が効いたふりしろ。寝た振りした方がよい』メメの指示に従い眠くなったふりをする。
「寝たようだな。あいつの薬は良く効く」
ニヤニヤしながら暫くして青年はささやいた。ララに近づく。
「色の白いきれいな子だな。こんな子供の血なら上手くいくかもしれない。薬の効果が、弱ってきた。早く血を飲まないと」
ぶつぶつ言いながら部屋をでていった。
俺はブラウニー領の青の森の近くに住む ワインダー男爵。数代前までは青の森を管理することで多くの収入を得て豊かなものだった。魔法も使える高貴な身分だった。中には国に仕えた魔法師もいた。 それなのに、森は領の管轄となり冒険者ギルドが幅を利かせてきた。本来青の森は個人のものではなかったが魔法を使って森を自由に出入りでき収穫物が手に入った。荒らしすぎたのか森に魔物が増えた。
市街地にも魔物が来るようになり領主自ら魔物討伐を行う。青の森は正式にブラウニー領直轄になった。そのころから男爵家に魔法使いが生まれない。森の恵みも手に入らなくなった。青の森の怒りを買ったなんて馬鹿なことを言われた。無策な男爵が続いた。
私は頭も良く見目も良い。それなのに文官として仕事をしたが出世することがなかった。結婚さえできなかった。誰もが俺の優秀さを分からなかった。屋敷のメイドでさえ俺に色目を使ってくるのに。
文官の仕事を辞めて商売に手を出した。思うようにいかない。頭が良かったが剣術はいまいちで騎士になるほどの腕はなかった。何もうまくいかない。これは俺のせいではない。祖父たち先代が悪いのだ。
俺たち男爵家の者を森が拒んでいる。森の恵みで栄えているこの土地で我が男爵家だけが落ちぶれていった。金に換えられるものがないかと我が家の蔵書をあさった。何冊か選んでいると本の間に紙が挟まれていた。魔法大全集と書かれた本だった。持ち主はブレンダー国家魔法士になった者だった。今は使えない魔法の本など売ってしまおうと思い手に取った。
古くなったボロボロの紙に薄くなった文字が浮いていた。ブレンダーの弟が、男爵家を継いだ。本人は嫡子であったが国に勤めながら魔法薬の研究をしていた。そこまで有名ではなかったのかどんな研究だったかは知られていない。200年前のことだと思う。破れないように紙を広げると驚く内容が書かれていた。
俺は大魔法師だ。永遠の若さと美貌これさえあれば時間は永遠に自由になる。治療薬などいらない。どうして理解しない。これがどれほど価値があるのか。黒のポーションのすばらしさになぜ手に取ろうとしない。後悔するだろう。この優秀な俺を失うことがこの国の大きな損失だ。弟よ、これを使っていかに素晴らしいか証明してくれ。黒のポーションは己の研究の集大成だ。
己の優秀さを讃えていた。そして魔法大全集の奥に隠されるように木箱があった。木箱は魔法箱で血と魔力で開けることが出来る。書架台に置いてナイフで指に傷をつける。一滴血を垂らし魔力を込めると木箱は開いた。これは魔法師の弟に残したみたいだ。だが弟は知ってか知らずかこの箱を開けなかった。
箱の中に小瓶が5本 真っ黒な液体が入っていた。シルクの布に包まれていた。小瓶を取り出して、シルクの布を手に取る。箱の底に【ポーション10、妖精、処女の血5】と書かれていた。このポーションレシピか?執務室には領主記録があるはずだ。何か詳しく書かれていないか調べる。魔法師がいたのは15代目の頃だ。
兄ブレンダーは、男爵家より除籍後処刑と記録されていた。あらゆる記録を読み漁った結果ブレンダーは大魔法使いであったが禁術の何かの薬の研究に没頭した。多くの処女の生き血をあさり王都を恐怖に陥れた。大貴族も関与していた。秘密裏に関係者は処罰された。研究書類は何も残されず燃やされた。かかわった貴族は病死による代替え、爵位降格処分。
わが男爵家はブレンダーを除籍し、突き出すことで男爵位は保たれた。悪魔を出した家として肩身の狭い立場であった。このことは男爵家の汚点として口を閉じた。忘れ去りたい事件だった。ブレンダーは、早くから王都で学んだ。そのまま王都で魔導師として国に仕えてた。ブレンダー自身地方の男爵家の出だということは汚点にしかならなかった。彼が処罰されるまでブレンダーは高位貴族の出だと思われていた。
研究は、青の森から始まりその後王都で研究を続けていた。だから 我が家に魔法師の記録がない。 若さが永遠に続くなんて素晴らしい。今の俺は金もなく年老いた。ブレンダーの時代以降男爵家は斜陽なのだ。自分の後を継ぐ者はいない。男爵家は終わりだ。
俺は頭もよく、魔法は少し使えた。大魔法師が出る一族なら俺はもっと魔法が使えたかもしれない。大成したかもしれないのに…そう思ったら黒いポーションがきらりと光ったように見えた。
手に持てば一口で飲み終えそうな量だ。残り僅かな人生だ。今死んでもあとで死んでも変わらない。ポーションのふたを開け飲み干していた。どろりとした甘い液体が喉を流れていく。苦しくない。まずくない。反対に濃厚な甘さが心地よい。でも何も変わらない。
「やっぱりな…そんな薬あるわけない」
と独り言が出た。その日は残りの4本が入った箱を鍵のかかる引き出しにしまい寝てしまった。
誤字脱字報告ありがとうございます。




