22 薬学科に進級 初めてのエロア軟膏作成
後半ネイルとジーク視点
ララは薬学の座学を受ける。学問としては学んできていなかったのでとても楽しい。驚いたことに、購入した数冊の教本の中にマーガレット様の著作の物が4冊。師匠のところにあった本が幾つかあった。
私はマーガレットさまを家事の苦手な優しいおばあちゃん師匠と思っていた。しかし薬学では有名な人らしい。師匠の弟子だとは言わない方がいい。
薬学基礎講義が終わったら、薬草関係の講義。
私と双子のネイルとジークは基礎知識があるので、試験を受けて調剤へ進むことになった。残った3人は不満顔。経験のあるなしで差が出るのは仕方ない。
「頑張るからあまり先に行かないで」
ダリアは泣き顔。お菓子の差し入れで許してもらった。暗記するしかない頑張れ。
正確な調剤技術を身に着けるためには、ランクC等級の薬を作る。商品として販売もできる。お金を得られるのは嬉しい。学園の購買で買取して販売してくれる。
初期製剤の製品である傷薬の中でエロア軟膏は、切り傷・小さな火傷に効果的である。騎士や戦闘職に喜ばれる。講義で習ったものを手順に従って作成する。
調剤室には、一人一人の大きな机と魔石コンロと流しがある。机の下には引き出しがあり調剤に必要な道具が入っている。卒業まで同じ机を使用してその周りの備品管理までが、試験の一つになっている。いずれは錬金薬剤の作成にはいる。
必要な道具、すり鉢・すり棒・ナイフにまな板・軽量コップ・計測天秤・調合鍋3個・へら3本・軟膏壺3個・きれいな布・水性洗剤と油性洗剤。すべてを確認する。
調剤机から道具にわたりクリーン魔法をかける。一つ一つ洗ってる時間は勿体ない。一応前任者がきれいにしてくれているはずだ。
薬草は中央テーブルに置いてある。軟膏壺3個分を自分で用意する。薬草が新鮮であるか、色や成長の度合いを確認する。この世界の動植物は多少の差はあれどマナがある。含有マナは、収穫した場所や採取後の時間収穫方法で大きく変わる。それを踏まえて調剤する。B等級の薬が作れると言われている。 出来るところから最善を尽くす。
師匠や母に教わったこと、カレン様に採取に連れて行ったもらった時の新鮮な薬草を思い返す。
アオ草を6束選ぶ。水と軟膏基材はソル油脂を用意した。アオ草を丁寧に洗い水切りする。布で余分な水分を拭きとる。葉は丁寧にちぎり茎はみじん切りにして、先にすり鉢ですりつぶす。
茎がつぶれたら葉を入れて、さらにすりつぶし水を加える。さらに磨り潰す。その後、布で越して鍋に入れる。
魔石コンロを弱火にして沸騰させず、ゆっくり水分を飛ばす。その間に計測したソル油脂をもう一つの鍋で湯煎しながら柔らかくする。水分の少なくなったアオ草を合わせて、滑らかなペースト状になるまでかき混ぜる。
最後にやや強火でいっきに水分を飛ばして、軟膏の硬さを調節する。出来上がった軟膏を風魔法で冷却しながら、固くなる前に壺に詰めて密封する。
3時間ほどかかって出来上がり提出した。器材等は使用前のように洗浄して、風魔法で乾かし既定の場所に戻す。
双子の姉であるネイルは、調剤は得意であった。何度かエロア軟膏は作ったことがある。商品として店に出されなかったけど、家族や従業員には喜ばれていたので自信がある。さっさとアオ草を選ぶ。いつもの手順で作成し4個の壺に軟膏を詰め提出した。
双子の弟ジークは、いつも姉の手伝いをさせられていた。作り方は本と照らし合わせ確認しながら 作ることが出来た。二人は基本兄弟子たちの準備したもので作っていた。正確な材料の選別や量がわかっていなかった。それでも姉ネイルに遅れてたが順調に作成できた。
調剤室には製品の鑑定器具が設置されていいる。大きな商店や薬剤を扱うギルドにも設置されている。ネイルの製品は5段階 E判定。
「おかしいじゃない!どうして私のが Eなのよ。家ではとても上手だと言われてたわ。お店には出されなかったけど褒められていたわ。ジークそうでしょ。鑑定機の故障じゃないの」
真っ赤な顔をして声を荒げていた。ジークの判定もE判定。ジークは声を荒げることはなかった。ただ、何が悪いのかが解らなかった。最後にララの作品の鑑定をすると、C+の判定がでた。
「どうしてよ!何が違うの!同じ器具だし薬草も同じ、作り方も同じ。Cなら薬師2級合格基準じゃないの」
自分より子供のような子がCランクを取ることがネイルは納得できない。
「まず、鑑定機は故障していない。教科書通り作ってD判定取れれば講義は合格。でもそれでは、薬師の資格は取れない。
薬は正確な計測・繊細な技術が必要だ。座学と実地の違いは自分の手と頭で学びなさい」
ネイルとジークは、実家が薬師だけにいつも薬に触れていた。薬草や薬の作り方は見ていただろう。見よう見まねで調剤をやらせてもらっていただろう。それだけのことだ。
「本当の調剤は埃一つも立てず、風の揺らぎで計測器が揺れない環境で量を測る。磨り潰す力加減・火の強さ・時間等すべてがそろわなければ薬品はできない。薬師は真摯に薬を作っている。
見て覚えた程度で作れる薬はない。納得できないだろう。君たちの作った軟膏を明日の休日、実家に持って帰って両親に見せなさい。
今日の実習はこれで終わり。1年以上お世話になる自分の机や器材をきれいにしてから帰って下さい。そこまでが薬師の仕事です。
ララさん、片づけ済んだら軟膏をもって教務室に来てください」
ネイルとジークは自分の机の散らばった薬草屑、汚れたすり鉢、こびりついた鍋、汚れた魔石コンロ、いつも兄弟子が片づけてくれていたので、自分でやったことがない。
「ねーどうしてあの子の机汚れていないの?こすっても落ちないんだけど」
ネイルは声をあげた。ジークは散らばった薬草を集めゴミ箱に入れていた。
「アオ草は色が付きやすいから、使ったらすぐに洗って拭きとるとすり鉢が汚れにくい。あと沸騰させなければ薬液が飛び散らない。アオ草は水性汚れだから水性洗剤で、早めにふき取る。時間が経ったものは洗剤液につけた布で、湿布すると落ちやすくなる。油脂系は油脂洗剤で、温めた布を使うと落ちやすいです」
ララは、二人に声を掛けて教室を出た。掃除もしたことない人がいるとは思わなかった。そういえば、ダリアもスカーレットもできなかった・・・これが普通か?
ぶつぶつ言いながら、どうにか片付け終わった。双子は外出届を出して、実家に帰った。
「お帰り。学園はどうなの?成績優秀でステップしたらしいね。自慢の子供たちだよ」
満面の笑みで両親が迎えてくれた。これが自分達の評価だと思っていた。
「これ見て!私達が作ったエロア軟膏。E判定だった。鑑定機壊れているんじゃないかと思った」
父は軟膏壺のふたを開け、軟膏を手に取る。色・匂い・粘度を確認したのち鑑定機にかけた。
「E判定で間違っていない。色・匂い・粘度すべて粗雑に作った製品だ。何が悪いか解らないようだね。不満か?」
「父さん、同じ材料で作った子は C+だった」
父は驚いた顔した。
「先生が作ったのでなく、生徒が初めて作ったのか。それは先が楽しみだね」
「何が違う?」
「まあ、慌てるな。今はそこまでは望まない。今日はゆっくり休んで今度、兄さん達の調剤を見せてもらいな。解ることがあるだろう」
そう言って父は仕事に戻っていった。何が悪いのか、何が不足しているか、解らず悶々として二人は床に就いた。
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