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森の家から馬車に乗って、ララとポポはやっと家に着いた。書類机の鍵に魔力を込めて引き出しを開けける。紫色の手帳が出てきた。読み終わるのに時間がかかった。ポポは私の膝の上で寝てしまった。
師匠の部屋は整頓されたせいか、別の部屋のようであった。師匠がいないとは思えなかった。一人になったことがまだ実感がない。
玄関の花かごの裏の小さなドアを開けて、水晶に魔力を補充する。以前から 時々私が補充していた。そのためか薄緑の水晶が濃い緑色に変わった。これで 正式にこの家の魔法関係は私の管轄になった。師匠はスムーズに管理者が変わるように、ララに魔力の補充をさせていた。
師匠は、ロバート様が亡くなってからは、防犯の魔法を強化した。部屋の入口の認証魔法や薬品や保管庫の保存魔法。どれだけ魔力があるのか、師匠は凄い。次々に書かれている内容に驚いた。これらすべてを譲り受けていいのか不安にもなった。落ち着いたら母に相談しよう。
師匠がいたから薬を作って売ることができた。これからはそれが出来ない。薬師ギルドに登録して、第2種の試験を受けなければならない。さらに他の薬師に弟子になって3年後に、第1種の試験を受けることが出来る。
あとは、魔法学園に入って学ぶ方法もある。卒業後の弟子入りはマーガレット様のところでの5年が加味されるの。ほかの薬師に弟子入りする必要がない。母様は学校には行かず、薬師試験を受けて第1種免許を持っている。今更ほかの薬師の弟子になるのも考えてしまう。学校に行けば、錬金薬師の勉強が出来る。この家でお店を開くことが出来る。学校に行くなら、ポポは連れていけない。
あっ、商店街の人に報告してない。ドアがノックされた。びっくりしたが 結界があるので、少し落ち着いてドアを開けた。雑貨屋さんのエリーさんの声がした。
「マーガレット様からお手紙いただいたわ。しばらく、お家に明かりがなかったので心配していたの。昨夜は明かりがついていたから、マーサさんとモーリーさんと三人で来てみたの。ララちゃん大丈夫?このままララちゃんがこのお家に住むとは書いてあったけど一人で大丈夫?」
「モモが今は帰ってきてるから、泊まりに来るかい」
優しい言葉に涙がにじむ。
「ありがとうございます。マーガレット様はとても穏やかな姿で亡くなっていました。驚きはしましたがお迎えが近いと話していたから。ロバート様の近くに師匠を送り届けていたので留守にしていました。お薬はおろせませんが、これからもお世話になります」
疲れているだろうと果物を置いて早々に帰っていった。
ポポを抱きしめてお布団に入った。翌日も紫の手帳に書かれていることをもう一度読み返した。魔力の器が小さいのに魔力量が多い。魔力暴走を起こしやすい。複合属性魔法は一般的でないので、気をつけて使用すること。薬師試験の時は聖魔法を使ってはいけない。意識して制御しないとララは聖魔法を使ってしまうから。聖魔法は教会の管轄だから知られないように。
家を長期留守をするときは、保存の魔法を起動してくれれば家は保持される。半年に一回は魔力の補充をしておくか、魔石に魔力を入れて水晶に添えておけば一年ぐらいは持つ。調剤室の物はすべてララに譲ります。今までのように使用してください。
錬金を学ぶなら古い錬金窯がいいので大切にしてください。ララが第1種の免許が取れたら、調剤室の奥の魔法のトランクを開けてください。ララへのご褒美が入っています。もし私を訪ねてくる人がいたら、結界を通過できた人とはお話ししてください。通過できない人は、私の薬をあなたに作らせようとするかもしれない。あなたは悪意の経験が少ないから気を付けなさい。
何ページにもわたるララへの助言に涙があふれてしまう。心配かけてはいけない。独り立ちしてもおかしくない年齢だ。まずは薬師の免許を取るか、学校に通うか、それを決めないと。まずは腹ごしらえに、師匠の好きだったおにぎりとみそ汁、ベーコンと目玉焼き。ポポにはミルクと肉入りおにぎり、お腹を一杯にした。掃除をしよう。初めて来たときのようにピカピカに。
お昼過ぎ、玄関のドアがノックされた。開いたドアの前には、年配の白髪の女性が立っていた。
「こんにちは。ララさんですね。私はマーガレット先生にお世話になったカレンといいます。手紙を先生からいただいたの」
確かに先生の文字だった。リビングに案内して、紅茶とクッキーを出した。
「美味しいお茶ですね。先生の作ですか」
「これは、私が先生に教わって作ったものです」
「なるほど、このお茶は先生のブレンドなの。作り方が難しいのよね。ごめんなさい。変なこと言ってしまいましたね。錬金薬師に興味はありませんか?もし学ぶ気があるなら手助けします。今のままでは薬師の仕事をすぐには出来ないでしょ。王都の私の所に来て、受けたらどうかしら」
カレンさんの手紙には、私が独り立ちできる手助けを頼んでくれていた。カレンさんの手指は、師匠や母様と同じ薬草の色が薄っすらついていた。錬金薬師を目指すなら、学校に行った方がいいかもしれない。
「学校のお金は心配しないで、その時のために先生から預かっているの。あなたの事、孫のように思っていたのね。この家も残しているようだし。ソフィーにも学校を勧めたけどソフィーはマーガレットのそばを離れなかった。あの子は人見知りが激しかったのよ。薬師試験は優秀な成績で受かったけどね」
よく考えてと言って、後日また訪問すると帰っていった。母より手紙が届いた。魔法学校に行きなさいとかかれてあった。今思えば、学校に行けばよかったと思うことがある。ララなら大丈夫。母様は 勇気が出なかった。広い世界を見ておいで。
学校の資金は、カレンさんに預けてある。いつの間にか師匠と母は私のために準備してくれた。ポポは一度森の守りの里に帰るよう話してくれてある。あとは私の決意だけだ。
一か月後、ポポは森転移していった。家の水晶に魔力を充電して、魔石もセットした。保存の魔法を始動する。お世話になった商店街の人に学校に行くこと、家を不在にすることを話した。保存の魔法の事を話す。さすがマーガレット様だねとカレンさんに言われた。これからカレン様と一緒に王都に向かう。
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