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ララと師匠
ララの一日は、朝日とともに始まる。身支度して、きれいに花を植えた花壇と裏庭の畑の野菜と薬草に水やりと草取りをする。玄関の掃き掃除したら朝食作り。パンにベーコンに目玉焼き、野菜スープ作っただけで師匠は大喜び。朝からニコニコ、ご機嫌がいい。
師匠は元々料理は苦手。食べれればよいとポーションを飲んで過ごすこともあるらしい。弟子の中には料理出来る者がいたらしく、弟子のご飯を頂いていたこともある。その弟子もすぐにやめた。一時期通いメイドを雇っていたらしいがいろいろ五月蠅いからと雇うのをやめた。料理できない弟子が来てもメイドを雇わない。弟子が外食するついでに商店街のお店や屋台で買ってきてもらう。
母様が言っていた。仕事は優秀だけど家事は壊滅的だと。神は二物を与えずと言うから?仕方ないと言っていた。 二物って何? 意味わかんない。母様は、いずれは師匠を呼び寄せて、森の家で暮らすつもりでいる。師匠はとても大切な人、家族だ。魔力が多いと、老化が遅い。師匠も、母様も長生きらしい。
魔力の量は、魔力の器の大きさが基準になる。両親の魔力が多いほど器が大きくなる。体がある程度できた7歳の生誕の儀は子供の魔力の器の成長が分かる。だからこの儀式は、子供の将来に大きく影響する。
庶民は魔力自体もともと少ないので、魔力の器は小さい。使える属性も風や火・土がわずかである。属性さえない人の方が多い。属性があれば仕事につくのに有利になる。最低限の生活魔法が使えれば、メイドとして貴族のお宅で働くこともできる。
たまに、魔力の器が大きく、魔力を育てることが出来そうな子供や貴重な回復魔法が使えたりすると教会に取り込まれる。修練したのち見どころがあれば、貴族に養子に入ったり、教会の牧師やシスター・治療士として教会で働く。
師匠の魔力量は桁違い。母も結構多いらしい。魔法のカバン作ったり、錬金したり、転移ができる。国の中でも数えるほどしかいない。一緒に暮らしていると、そんなにすごい人とは思えない。美味しい美味しいと言いながらご飯やお菓子を食べる姿はララのおばあちゃんそのものだ。
朝食が終わったら、師匠は調剤室に引きこもる。依頼品の作成に入る。ララは部屋の掃除・台所の片づけ・洗濯をして、昼夜の食事の準備をする。母様が作ってくれた調剤服に着替えて、師匠のもとに向かう。
師匠がそろえてくれた調剤道具を使い、母様に教わった傷薬や胃薬を作る。時々、気が向くと薬草の選別や切り方、刻み方、すりつぶし方、煮詰め方、混ぜ方などを教えてくれる。今は魔力を使わず調剤をしてレベルを上げている。
師匠の作る薬は、きれいに透き通って、ガラス容器の中でキラキラしている。1本1本から柔らかな魔力を感じる。高品質なのは見ただけでもわかる。師匠の薬は薬草等の材料とともに依頼内容が届く。できた製品を執事のような紳士が箱詰めにして受け取り運び出す。
夕飯後はリビングで、薬師の講義や魔力操作を教わる。繊細な魔力操作は薬の効果を高めることが出来る。魔力を頻回に使うと魔力量を増やすことにもなるらしい。
調剤自体は魔力を加えなくてもできるが、ある一定の基準以上は魔力が加わるほうが製品のランクが上がる。体への効果を高める。
師匠の家には本が沢山ある。師匠はどれでも読んでよいと言ってくれたので、
薬草の本、薬師の心得を書き写している。紙もインクも貴重なので無駄にはできない。夜の講義が終わったら、お風呂に水を汲んで魔法で温める。入浴して入眠となる。
お風呂は母様のたっての希望で作ってもらったようだ。生活魔法で身ぎれいになるので、師匠はお風呂を利用していなかった。久しぶりの入浴に師匠は体がホカホカしてよく寝れると喜んだ。湯につかると、体の中から疲れや緊張が抜けていく。子供の時も体調が良いとき、母様に見守られながら湯につかっていた。
入浴剤欲しいな。シャンプーも欲しい・・・肌に優しい石鹸も・・・最近ふと頭に浮かぶ知らない言葉が増えてきた。料理も、母様に教わってないものも なんとなく作れたりしたことがある。過去の記憶か・・・。
5歳で死んでしまったララ。ララからもらった花冠は今も私の胸にある。ララであってララでない事も今は関係ない。母様と暮らしていくうちに、私自身がララになる。ララを大切にしてくれる、母様や師匠に感謝している。母様のところで感じるやすらぎ、家族のぬくもり。師匠のところで過ごす、楽しくも充実した時間。どれもララにとって、大切なものだった。
そして、いつも私のそばにいるポポ。子犬なのに犬らしくない。母恋しくなった夜は一緒に寝てくれる。商店街の買い物も一緒に出掛ける。街の子供たちに名を呼ばれ撫でられるポポは、人気者なのだ。人見知りのララがポポのおかげで街になじむのに時間はかからなかった。
ララは薬師になると固い決意をした。
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