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第4話 竜の巣穴・ファフニールの店

1


朝早く、エヴァンとカーラはそれぞれ早乗りドラゴンに乗った。


早乗りドラゴンは、村に三匹いる移動用の小型ドラゴン。二足で立ち、馬のように背に乗って、手綱で指示することで自由に動­いてくれる。


村の中央広­場に建てられた小屋で共同で飼育されていて、主にカーラが管理、面倒を見ていた。普段は、レナや子供たちが隣村の学校へ乗って行っていた。


エヴァンは、この数日間、乗る練習をして一日目で、早乗りドラゴンにほぼ乗りこなせるようになっていた。平均に乗馬の経験は皆無だった。それで­も驚くほどに、ドラゴンに乗る感覚が研ぎすまされていったのだ。


さすがエヴァンね、とカーラに褒められたエヴァン自身もさすがだと思っていた。エヴァンの身体の奥底から、ドラゴンに乗る記憶がよみ­がえったようだと、平均は感じていた。自分の記憶や経験ではないが、さも自分のもののように。


並ばせた早乗りドラゴンに、荷車をくくりつけられている。カーラの案内で町を目指し、村を出発した。


荷車には、ドラゴンのエサを入れる空の樽が二つ、ロープで固定してある。いつもの買い出しであれば、樽は三つで、ドガーが荷車を引いていた。


そのドガーは村を襲ったドラゴンに負傷して動けずにいた。エサの買い出しと、ドガーをドラゴンブリーダーに見てもらうお願いをしに、町まで向かう。そして、カーラはもう一つ、ファムもブリーダーに見てもらおうと密かに考えていた。


舗装などされていない硬い土の道を進んでいた。村を出た時は、早乗­りドラゴンの息も白かったが、日が昇り暖かくなっていた。


ドラゴンに乗って風を切ったエヴァンは、清々しさを感じていた。


林の木々の間に、いくつもの日差しが差して白い光のカーテンが広がっていた。そして、林を抜けると、いっきに視界が開け、どこまでも見­通せるほどの草原が広がっていた。空はどこまでも晴れていて、遠くにあるにもかかわらず、大きい山が続いていた。


――こんな広い大地と空を見たのは、いつぶりだろうか。


元の世界でも探せばどこかで見れたかもしれない景色。しかし、何も考えずに、ただ目の前の仕事に忙殺され、世界に何があるのか考えもしなかった。電気もネットも携帯電話もない世界で不便さを感じつつも、ないからこそ、体でそれを味えていた。


ククーと、ファムがエヴァンの肩ごしに鳴いた。朝日と爽やかな風を浴びてしっかり目が覚めたようだった。


川を渡るところで、休憩した。


ドラゴンたちは、勢いよく川の水を飲んでいた。カーラも両手で水をすくって飲んだ。エヴァンも真似た。


「おいしい」


エヴァンは思わず言った。


「ただの水よ」


「えぇ、はい」


カーラは少し首を傾げたが、微笑んでいた。


その笑顔とただの水は、全てを失ったからこそ、いいと平均には思えていた。ここで生きていくしかないと理解はしていたが、元の世界での生き方を少しばかり悔やんだ。




2


「見えたわ。フレステットの町」


カーラの声と同時に、視界が開けた。下った坂の先に、森を背にした町が広がっていた。


アドヴェント村の何倍も広い町だった。高い建物はほとんどなく、民­家も立ち並んでいて、煙突からは煙も昇っている。


丘をいっきに下って、町の入り口に到着した。


町を囲う壁はなく、建­物が町全体を取り囲むようにしていた。町の入り口に男性が二人立っ­て辺りを見回していた。見張りにしては頼りない。町に入るエヴァンたちを引きとめる訳でもなかった。


「ちょっと早く着いちゃったね。さすが、早乗りドラゴンね」


お店が並ぶ広い中央通りをゆっくり進みながら、カーラが言った。店々は開店前の準備に追われていた。


「お店やってるかな......ここよ」


カーラが手綱を引くのを見て、エヴァンも手綱を引いて早乗りドラゴ­ンの歩みを止めた。


ドラゴンから降りて、再度ドラゴンを少し歩ませて、歩道に並んで打­たれた杭に手綱の紐を結んだ。まるで駐車スペースのようにドラゴ­ンを止めた。


――ドラゴンパーキング、か。


「竜の巣穴・ファフニール?」


エヴァンは店の看板に書かれた字を読んだ。


「そう。ドラゴンの餌や飼育用品、ドラゴンの飼育登録代行所もかねてるの。ここが、村から一番近いドラゴンのお店なのよ」


看板は、樽から溢れる餌に並んでドラゴンが描かれていた。見るからに、店構えはペットショップとその用品販売店だった。


カーラの後に着いて、エヴァンも店の中に入った。


「シグルズさん、おはようございます」


「おお、カーラちゃん、おはよう。今日は早いねえ」


商品棚の商品を並べていた男性が振り返った。カーラは、村にドラ­ゴンが現れたことやドガーが怪我してしまったことを伝えた。


シグルズは、いぶかしげに整えられた髭を触りながら、近頃、町の付近でも野良ドラゴンが目撃されていると、言ってきた。


それを聞いたエヴァンは、背中がゾッとした。


通って来た道や休憩していた川で、ドラゴンとはち合う可能性もあったのかと思った。帰りに遭遇しないことを願った。


「今日もいつものブレンド飼料、中樽三つ分だね」


「いえ、今日は樽二つでお願いします」


「あ、そうか。ドガーじゃないからね」


早乗りドラゴン二匹の力では、餌が入って重くなった樽二つ分しか引­けないと、カーラは考えていた。


「あとファム用の、小さいドラゴン用の少し栄養価の高い餌もお願いしたいんだけど、ブ­リーダーの方と相談してからでもいいかしら?」


「もちろん。ドラゴン・ガーデンに行くのかい?」


「えぇ。樽に餌を入れてもらっている間に行こうと思って」


「あぁ、かまわないよ」


エヴァンは、二人が話をしている間、店内の商品を見て回った。


革製の立派な首輪や鞍などが多種多様あり、大きな瓶が並んでいて、様々な飼料が入っていた。


その飼料の札には、『ロイヤルドラコ社製・栄養剤入りフード・陸生小型・幼ドラゴン向け』と書かれていた。


――やっぱり字が読める。知らない字だけど、文字を認識できる。これもエヴァンの体だからか……。


さらに隣の見ただけで高価だとわかるきらびやかなガラスに入った同­じような商品には、


『バビロニア社製/神話飼料シリーズ……』


ロイヤルドラコ社製のものより、札に書かれた値段が高いことだけは読み取れた。


「エヴァン、行くよ」


「はい」


ククーとエヴァンの肩にいたファムも鳴いた。


店を出て、早乗りドラゴンの手綱を引いて町の裏手へと移動した。


そこには、牧場にある飼料を置いておく大きな筒の塔、サイロのようなものが建っていた。その脇に、また早乗りドラゴンを待機させた。


あとでシグルズが荷車の樽に、注文した飼料を投入してくれる。


「私たちは、ドラゴンガーデンに行きましょう」


エヴァンは、カーラに従うほかない。町のことは当然わからない。た­だ、「竜の巣穴」で販売されていた商品をもう少し見ていたかった。元の職業柄、他社の商品が気になっていた。そしてもう一つ、気にな­ることがあった。


エヴァンは、この町に入ってからどこからか視線を感じていた。辺りを見回しても、気にな­る人物はいなかったが。


ククーと、ファムが翼を広げて飛んで、エヴァンらとともに森へ向か­った。

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