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第15話 それぞれの思惑

1


エヴァンは、肩に乗ったファムを重く感じられた。


自分の愛の量に比例して大きくなるのかわからなかったが、ただただファムが成長してくれたことがとても嬉しかった。


エヴァンもとい平均は、ドラゴンが愛で大きくなる意味が少し理解できたような気がしていた。


「ところで、ウェンダ様はどうしてクイールシードにおられたのですか?」


フォンゼルが聞いた。


ウェンダは、魔王を倒して意識を失ったエヴァンをアドヴェント村に届けてからは、世界を旅して回っている最中だという。


魔王がいなくなったとはいえ、世界にはまだ魔王の魔力の影響が残っていた。特に深い森には、まだ魔力が残っており、魔力を保持している魔物も少なくない。ウェンダは、そういった森を訪れ、森の魔力の消し回っているという。


ただ、ウェンダの言う「消す」とは、魔力の「吸収」である。自分の魔力を増やす意図も少なからずあった。


「あと、旅の目的は、いわゆるドラゴンハンター集団を追っている」


ドラゴンハンターには、二種類いる。種を残すために保護したり、ドラゴン研究に活かす善良なハンター。もう一つは、ドラゴンを金銭の売買に利用し、貴重種を乱獲したりするハンターがいる。ドラゴンを殺して、珍しいウロコや牙、ドラゴンの血肉を売ったり、ドラゴンが守っている宝を狙うことも含まれる。


ウェンダは、後者のハンターを追っていた。


「なぜ、そんな輩を……あなたほどの方がどうして?」


また、フォンゼルが聞いた。


「魔王がいなくなって、魔力が消えつつある世界で、次に大きな力となるのがドラゴンだ。単に趣味や金のために集め回っている感じのしない者たちがいてな」


「でも、大型ドラゴンをいくつも集めたところで……」


ミラが言った。


「大型ドラゴンではない。中には強大な力を持ったドラゴンもいるが、その上をいく伝説級のドラゴンやエインシャイント・古代ドラゴンの復活を企てようとしている」


「いやいや、エインシャイントなんて昔の作り話でしょ。実際に、いるわけないでしょ」


ミラは、あきれたように言った。


「今のところはな。ただ、ドラゴン競走の賞品はどうなった?」


「そういえば、卵が盗まれたとか、避難中も大騒ぎでした。でも、トウホウフハイのドラゴン乗りが、盗んだ人を追いかけて奪い返していました」


カーラは思い出すように伝えた。


「あのドラゴンの卵がどう貴重で、どんなドラゴンの品種かは知らんが、アーケオプテリクスが狙っていたのは事実」


「アーケオプテリクス……」


マーガレットが少し驚いたように言う。


「レース中に勇者殿も被害を受けておったようだが、32番のアーケという出場者がそのメンバーの一人だ」


「アーケ……アーケオプテリクス」


マーガレットがハッとする。アーケは偽名であり、アーケオプテリクスをもじった名前だと気づいた。


「まだ目立った動きは見せていないが、各地で活動をしているらしいからな。なので、私は引き続き、森の魔力を消しながら、様子を見ていくところだ」


「ウェンダさん。私もウェンダさんの旅に同行していいですか?」


「えっ、エヴァン?」


カーラは目を見開いた。エヴァンは、急にカーラの鼓動が強く打ったのがわかった。


「なにゆえ、勇者殿」


「私は、エヴァンの記憶を取り戻したい。魔王を倒すまでにエヴァンが歩いた世界を見れば、何か思い出せるかもしれない。元勇者の仲間であるあなたとここで出会えたのは偶然かもしれない。でも、仲間であった人と一緒に旅できれば、もしかすると――」


「その元仲間と出会って、何か思い出されたか?」


ウェンダが、エヴァンの話に割り込んだ。


「え、あ、いや、なにも……」


「もし、ここで私との再会で何か思い出せたのなら、今後も一緒にいれば思い出すこともあろう。だが、その兆候はなく。勇者殿、残念だが、もう仲間を組む期間は終わっている。これは私の旅でもあるので、お断りする」


ウェンダの毅然とした立ち姿は変わらなかった。


エヴァンは、このタイミング以外に言う機会はないと思い、はっきりと言ったつもりだった。しかし、ウェンダの返答に言い返す言葉はなかった。それは、自分の甘い気持ちを見透かされていたからだ。


「もし、私と一緒に旅できれば、この知らない世界をわりと楽に旅できるであろう。しかし、もう魔王討伐は終わり、私は私の旅をする。まぁ、若い勇者殿がそばにいれば若さを保つのに困らないが、毎日かなわんがな」


ウェンダは、不敵に微笑んだ。


「エヴァン、旅に出るなら私が一緒に行くわ。最初に私に言ってくれれば」


エヴァンは、カーラに目を見つめられた。


「それは、魔王討伐に出たままずっと帰りを待ち、帰ってきても寝たきりの私をずっと見てくれていた。またお世話になると迷惑をかけることなるし……それに、私は本当は――」


「勇者殿。それ以上は……」


ウェンダがまたエヴァンの会話を遮った。しかし、エヴァンは、それ以上話すなと言われているのがわかった。


「イヤよ、また私のそばからいなくなるんて。記憶を戻して、記憶が戻ってからも私はエヴァンと一緒にいたいの」


ハッと、カーラの目を見つめ直すと、カーラの目はうるんでいた。


「女よ、悪いことは言わない。勇者殿の旅には同行しない方がいい。知らなくてよかったことを知ってつらくなるぞ」


「大丈夫です。エヴァンのことなら、なんでも受け止めます。今、エヴァンの記憶がないことは、どんな旅をしていたのかも知らない私も同然ですから。私もエヴァンがどんな旅をしていたのか知りたい」


カーラも毅然として、ウェンダに言い返した。


「そうか。なら無理に止めやしない。勇者殿、もし、旅に出られたら、またどこかで会いましょう」


ウェンダは、そう言い残して、その場からパッと姿を消した。


「カーラさん。こんなところで、伝えるつもりはありませんでした。申し訳ございません」


エヴァンは、頭を下げた。肩に座っていたファムは、瞬時に飛び上がった。


「まさかそんなことを考えているとは思わなくて驚いたの。でも、伝えてくれてありがとう」


クグー


ファムが叫んだ先から、大勢の人が押し寄せてきた。




2


ウェンダが去ったあとは、品評会の主催者やクイールシードの町長や商店の代表などからお礼を言われ続けた。広場のお立ち台に立って、多くの人から拍手をいただいた。


エヴァンは、その拍手を自分がもらっていいものかとも思っていた。ファイアードレイクを止めただけで、町をドラゴンの暴走から守ったのはウェンダなのだ。


ドラゴンの暴走で軽傷の人はいたが、大きな怪我をした人はいなかった。また、町への被害はなく、エヴァンはホッとしていた。ただ、竜人との戦闘で、壁を壊してしまったことは心残りであった。


それから品評会では、総合優勝のドラゴンを発表して幕を閉じた。ミラは、ムシュフシュ部門で優勝したものの、総合優勝はできなかった。悔しがってはいたが、父から譲り受けたドラゴンが優勝したことを誇っていた。


品評会の大目玉にしていたドラゴンファイトのデモンストレーションは、言うまでもなく中止になった。デモンストレーション以上のことが起きてしまったからだ。デモンストレーションとはいえ、またドラゴンが戦う姿をすぐに見たい者はいなかった。


「もし、旅に出られる際は、王都に寄ってください。歓迎いたします。ハインツにも会ってやってください」


フォンゼルはそう言い残して、ヴァラと飛竜で王都に帰っていった。


マーガレットは、もう数日クイールシードでの仕事があり、町に残るそうだった。マーガレットに見送られて、エヴァンたちはクイールシードをあとにした。


ディリィは、初めての遠出と町の刺激で疲れて早乗りドラゴンの上で眠ってしまっていた。ひと山超えて、フレステットの町までもう少しのところ、夕日を遮る大きな影がエヴァンたちの上を通り過ぎた。


それは、飛竜の影だった。


「良かった。間に合って」


飛竜が目の前に降りてくると、マーガレットが飛竜の背中から飛び降りてきた。


「忘れ物でもしたかしら?」


ミラが聞いた。


「勇者エヴァン様。旅に出られるのであれば、この私マーガレット・キャベンディッシュもお供させていただけませんか?」


「え、えっ? なんで、また急に」


エヴァンの前で深々とマーガレットは頭を下げた。


「勇者様に助けていただきたいことがあり、私は海を渡ってきたのです。偶然にもここで出会え、旅の途中で構いませんので、私の話を聞いていただけないかと。飛竜でのご要望が何なりとお申しつけてください」


エヴァンは困りながらも、ひとまず了承する形でその場をおさめた。おさめる他なかった。断ることもできた。しかし、こうして勇者の力を頼ってきて、エヴァンもとい平均は無下にはできなかった。


そして、ミラとドラゴンファームで別れたあとのことだった。


「エヴァン、旅に出るの? 私も行く」


そう言ったのは、エヴァンの前に乗るディリィだった。ディリィを森奥の家に送る早乗りドラゴンの上でのことだった。


「え、どうして? 別にみんなに合わせる必要はないんだよ。ディリィはまだ小さいし……」


「私も行く。だって、お母さんとお父さんに会いたいだもん」


「ディリィがもう少し大きくなってからでも」


「エヴァンは、そのとき、すぐにもどってくる?」


「そ、それは……」


森奥の家の老婆に伝えて説得しても、ディリィはかたくなに行くと言い張った。老婆は日が経てば気持ちも変わると思っていた。


翌日、マーガレットがドラゴン競争の賞品を届けに来てくれた。旅への日取りを話し合った。ディリィのところにも話を伝えにも行ってくれ、しかし、ディリィの考えは変わっていない様子だった。


エヴァンとカーラとの旅立ちについて、村の人々からいいとも悪いともなにも言われなかった。二人の意思を尊重すると。


ただ、唯一、エヴァンの妹レナが反対するだけだった。


カーラが旅に出て、村のドラゴンの世話をやるのが嫌だと言うも、魔王討伐から戻ってきて意識を取り戻した兄エヴァンが、また自分の元を離れていくのが悲しかった。


それでもエヴァンは、このままずっと村にいても記憶は戻らないと考えていた。ウェンダに言われたように、元の仲間に会ったところで何も思い出さないかもしれない。


しかし、ただここにいるよりはいいと思えた。


カーラも世界がどんなところなのか、エヴァンが歩いた道を辿り、ずっと離れていた時間を埋めようと旅への気持ちは高まっていた。


そして、旅に出る日がやってきた。

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