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第12話 早乗りドラゴン競走

「クイールシード・ドラゴン品評会二日目。まもなく早乗りドラゴン競走部門がスタートします。


指定されたコースを回って、一番早くゴールしたものが優勝という、いたってシンプルな競技。そして、こう言ってはあれですが、品評会で一番盛り上がる部門です。


競走部門の実況は、この私、テオ・クラッセンが、コース上空の飛竜からお送りします。


そして、私が乗る飛竜を操るのは、昨日飛竜飛行演技を行ってくれた一人の、マーガレット・キャベンディッシュ。よろしくお願いしまーす。


はーい、みんな、手を振っていただきありがとうございます。しっかり見えてますよー。


広場のスタート地点に、八十九もの出場者の乗る早乗りドラゴンが集まり始めています。


ところで、この声がどうして広場だけでなく、町中に届いているかというと、私の握るマイクと広場や町に設置したスピーカーに組み込まれた魔石が、魔法でつながって、私の声が届けられています。


このレースのために、魔石の提供、設置にご協力してくれたクイールシード魔法古物店さん、ありがとうございます。


それでは、ここで簡単にコースをご紹介しておきましょう。


広場をスタートし、クイールシードの町の中へ入っていきます。九番街あるブロックを通り抜けて、町の外へ出ます。ぐるっと外を回って広場の横を通り、上空からは確認しずらい森へ入ります。森の先にある丘を越えて、また森を抜け、広場へ戻ってきてゴールというコースです。


優勝者と準優勝、第三位までには、豪華な賞品が送られます。


優勝者には、貴重なドラゴンの卵です。卵は虹色に光っていて、見ていると吸い込まれてしまう卵です。


今、スタート地点横に屈強な戦士に守られて、置いてあります。


この卵を育て上げると、未来永劫幸せになれると言われています。売ると、とんでもない値がつくとか。


そして、準優勝者には、ロイヤルドラコ社のエサを盛りだくさん。


第三位には、同じくロイヤルドラコ社の栄養剤エサパック。


豪華賞品をめざすドラゴンの競争が、まもなく始まります。


それでは、スタートの準備が整ったようです。


みなさんでスタートのカウントダウンを五秒前からいきますよ。


はい


5


4


3


2


1


スタート!


九十もの出場者が、今、スタートしました。


と言っても、四列でのスタートで、最後列も今スタート。ちょっと不利かもしれません。


町へ向かって、土煙を上げてドラゴンが走っていきます。


今回は、飛び入り参加が可能で、聞くところによると、魔王を倒し、世界を救ってくれた勇者様が参加されているとか。昨日、突然もたらされた情報で、聞いた方も少なくないのではありませんか。


んー、まだ集団のどこにいるのか、はっきりとはわかりません。


オーっと、一組だけまだスタートできていません。


真っ黒なドラゴンが、動いていない様子。ドラゴン乗りの言うことを聞いてくれないのか。大丈夫か。


さぁ、先頭集団は、細長になってクイールシード三番街へ入っていきます。広場側に位置する三番街、六番街、九番街はドラゴンの襲撃を受けて、その面積は半分以下になってしまいました。


整地されて今は広場の一部になっていますが、クイールシードの民は大被害にも負けず、今日ここまで建てなおしてきました。復興した全番街を通るコースとなっています。


町中は、ただ走り抜けるだけではありません。


多くの商店が軒を連ねていて、ドラゴンを誘惑するエサも所々置いてあり、オーっと、早速、走るのをやめてエサにくらいつくドラゴンが何匹かいます。


先頭集団が減っても、続々と後ろからエサのトラップに引っかからないドラゴンたちが追いかけていきます。


最初に町を抜けるのは、誰か。


八番街、七番街、一番街、真ん中の二番街、六番街を折れて、五番街、四番街から町の外へ。


実は、この四番街で、竜人と勇者が戦っていたという目撃証言がありました。確かに、通り沿いの建物の壁が壊れてしまっています。


さぁ、そこをトップで駆け抜ける一匹のドラゴン!


町の最初に抜けたのは、エントリーナンバー1番。なんとクイールシードいちの若きドラゴン乗り・ロドルフ!


ロドルフに続いて、第二集団三組が、町を抜けて畑や平原が広がる道を走って行きます。


大きくカーブを描くように走っていくと、川を渡る橋が見えてきました。


ここでコースは二つに分かれます。


一つは橋を渡って、ジグザグにうねった坂道。


もう一つは、川の浅瀬コース。川は走りにくさあるものの、上流にある橋の合流地点までショートカットできます。


ただ、早乗りドラゴンは水の中を走るのは苦手。しかし、中盤に入るこの地点で、一気にトップに躍り出ることも可能です。


さぁ、ロドルフはどうするのか。橋を渡り、うねった坂道コースを選びました。賢明な判断といったところか。


第二集団はどうかー。


一組だけ川のコースを選びました。ここでトップに出る作戦か。


おっとおっと、第二集団を追いかける二匹のドラゴンがうねった坂道に入りました。なんと、坂道をもろともせず、どんどん第二集団と距離をつめて行きます。


そのうち一人は、女性のドラゴン乗りだー。


エントリナンバー88番、カーラ・シンクレア。


えっ、あっ、今、マイクを落としそうになりました。出場者名簿を見て、驚いてしまいました。


なんとなんと、カーラと並んで走るのが、最終エントリー89番のエヴァン・サンダーボルト・クリストフ。


その名を知らないものは、いないでしょう。本当にこのクイールシードにいらしていたんですね。勇者エヴァン・サンダーボルト・クリストフ。


さすが勇者様とそのドラゴンというべきか。カーラのドラゴンもすごいです。くねった坂道をどんどん登っていき、このまま行くと次の橋で第二集団に追いつくでしょう。88番カーラも勇者に引け取らない綱さばきで、横並びで前を追っています。


二手に分かれていたコースの合流地点を先に駆け抜けたのは、ロドルフと32番アーケ。


アーケは、川のコースを上り、1位のロドルフと並びました。


ここからいったん広場の脇を駆け抜けていきます。みなさん、後半戦に入るドラゴン乗りとドラゴンに大きな声援をお願いします。


おっとおっと、これはいけない。観衆がざわめくのも無理はありません。


広場横を駆け抜けていく32番アーケが、横のロドルフのドラゴンに体当たりをしてしまった。


えー、ルール上、ドラゴンの体がぶつかってしまっても問題ありません。失格にはなりませんが、ドラゴンライダーとして品格を問われてしまいます。


大勢を少し崩したロドルフでしたが、すぐに追いついて二匹同時に森の中へ入っていきます。


続いて、勇者と88番カーラが合流した第二集団も広場を駆け抜けて行きました。


後ろを見てみますと、バラついていますが、大きくみると第三集団が橋を渡って広場に入ってくるところですね。


それでは我々は、森の上の丘へ向かいます。


上空からは森のコースを伺うことができません。途中の丘の上を通過するのを待つほかありません。


丘上まではそれほど長い距離はありません。しかし、コースの道幅は狭く、早乗りドラゴンが一匹走れる程度。そこで抜くのは至難の技。


さて、丘上での通過順位を伝えて行きます。


最初に姿を現したのは、32番アーケ。


続いてすぐに1番ロドルフ。


おっ、なんと、ここに88番カーラ。


そして、89番勇者様だ。


その後の集団がなかなか来ませんが、先へ向かいましょう。


丘を通り過ぎると、今度は下ってまた森の中へ入って行きます。こちら側のコースの方がさらに道幅が狭く、くねくねとしています。


さて、森といえば、今もなかなか近づきたくない場所ではあります。そう、まだ魔王の影響が強く残っていると言われている一つが森です。


魔王がいなくなって一年が経っても、いまだ森には魔力が溜まっています。そのため、魔力の影響を受けた魔物が住んでいたり、被害が出ていたりもします。


もちろん、今回の競技開催にあたり、森のコースは問題なく通れることを確認しています。


ん、森から鳥が集団で飛び立ちました。


おそらくコースに沿ったところだと思うのですが、何かあったのでしょうか。


その地点まで来てみましたが、深い森の木々に遮られて、コースの状況がわかりません。


森を抜けたところへ回ってみましょう。


さて、森を抜けてくるのは〜〜〜


32番アーケ。


続いて89番勇者様。


少し遅れて、ロドルフだ。


ゴールの争いは、この三人に絞られたようです。


森の先は、急カーブが三つ。そこをどう上手く走り切るかで、勝者が変わります。


早速、直線から最初のカーブ。


32番アーケは、無難にカーブを通り過ぎるも、まくって勇者が頭一つ先に出たー。


あと追うロドルフも、んっ!


これはこれは、なんという猛追だ。


真っ黒のドラゴンだぁ。スタート地点で止まってしまっていたあのドラゴンだ。


えー、エントリーナンバー55番。トウホウフハイ・アッヘンバッハ。


すごい追い上げだ。地上に黒い線が引かれていくようです。


そんなスピードで、最初の急カーブを曲がりきれるのか。


曲がり切れたぁー。


なんというライダーのボディーバランスとドラゴンの脚力。


あっという間に直線を走る三番手のロドルフに追いついた、追い抜いた。


先頭は二つ目のカーブを抜け、最後のカーブに向かって直線を激走する。


だが、その後ろをトウホウフハイ・アッヘンバッハが追いかける。


観衆の声も一段と大きくなっています。それもそのはず、広場からその姿が見えているからです。


観客の目の前にある二つのカーブもなんなく曲がるトウホウフハイ・アッヘンバッハ。


直線に入ってまた速度が上がったようだ。


このままいくと、三つのカーブで追いつくことは、私の目には見えてしまっています。


おーっと、またもや32番アーケが、勇者様のドラゴンに体当たりした。


しかし、さすがは勇者様。まったくブレず速度も落ちない。


さぁ、最後のカーブに入る。内側に32番アーケ。インコースは有利だ。


な、な、な、アーケと勇者様の外側からトウホウフハイが駆け抜けるー。


そして、先頭争いから勇者が一歩遅れてしまいました。


トウホウフハイとアーケの速度が上がったみたいです。


さぁ、最後の直線、トウホウフハイとアーケ、ほぼ横並び。


広場、中央のゴールへ向かって行く。


このままいくと、同時ゴールかぁ〜。


あーっと、32番アーケが必死の体当たりに出ました。


が、え――、な、なんということでしょう。


トウホウフハイ・アッヘンバッハは、一瞬止まったかのように、アーケの体当たりを避けました。


アーケは体当たりの勢いで、バランスを崩して、ドラゴンもろとも倒れて落竜。


一瞬止まったかのように見えたトウホウフハイは、まったく速度を落とさず、そのままゴール!!!!


早乗りドラゴン競走の優勝は、エントリナンバー55番トウホウフハイ・アッヘンバッハ!


続いて、第二位は89番勇者様エヴァン・サンダーボルト・クリストフ!


第三位は、ロドルフ。


そして、第四位は88番カーラ・シンクレア。


続々と森を抜けて、最後のカーブコースへやってきます。


『ね、ねぇ、あれ!』


ど、どうかしましたか、マーガレット?


ん、えっと、まだ、ドラゴンファイトの時間にはまだ早いですよ。


『でも、どう見たって……』


どういうことでしょうか。品評会最後の目玉、ドラゴンファイトでデモンストレーションをする二匹の大型ドラゴンが町へ向かってきています。


よ、様子がおかしいようで……


まずいですね、表皮が赤くなってます。


み、みなさん、逃げてください。


みなさん、逃げてください!


そして、勇者様、助けてくださーーーい!」

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