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如何物喰い  作者: 蓮の華
遭遇、変異。そして、切り裂くもの
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遭遇、変異。そして、切り裂くもの 壱

段々と早くなってきた夜明けに負けることなく、惰眠を貪って起きると昼前。


いつもの俺の部屋。半分ずれていた毛布を引き寄せ、再び惰眠を貪ろうとするが、冷たい室温に目が冴える。


毛布にくるまったまま、エアコンをオンにして部屋が暖まるのを待つ。


昨日はあの食器を意味もなく眺めてみたり、磨いてみたりしてみたが、ただのタオルでは最初の輝きとは程遠い結果しか残らなかった。

そんなこんなでゲームをしてるより夜更かしをしてしまった。気づいたら日を跨いで暫く経ってしまっており、風呂から上がる頃には夜半を過ぎて最早朝に近い時間に寝床に着いたのだ。如何に自分が浮かれていたのかが分かる。


まぁ、休日は正義ということで。





部屋が暖まり、ようやく活動を開始する。

今日も今日とて、ディナーからバイトだ。それまで申し訳程度の家事をこなしておこうと決意し、まずは朝飯兼昼飯だとキッチンへ。





部屋干しした服はエアコンの力もあってか、それなりに乾いており、皺を伸ばして畳んでいく。

昨日そのままだった風呂の水を抜き、寒い寒いと呟きながら掃除して夜に備える。


家事も一息つくと、バイトの時間まで中途半端に時間が余る。

普段ならゲームしてるが何故か今日は食指が動かない。


部屋のテーブルに揃えて並べた銀食器。

それを見て、今日は早めに出て磨く物を買ってこようと思い立つ。


とりあえず、買い物をするとはいえまだ出るには早い。シルバーの磨き方を検索し、なにが必要な調べておく。


調べていると、シルバー用のクロスはわりとどこでも売ってるようだが、なんとなく100均とかのだといまいちな気がする。

こういうのは形から入る派なのだ。


ワクワクを押さえきれないから通販も待ちきれないし、百貨店に行けば何かしらあるかと百貨店行きを決意する。


いつものリュックに財布やスマホ、Yシャツを詰め、リュック脇のポケットにマスターから預かった食器を布に包んで御守り代わりに入れておく。

食器なら銃刀法に違反しないよな?たぶん。刃渡りはそんなにないし。

足取りも軽く外出へ。






結論から言うと、銀用のクロス自体はあった。シルバーアクセサリーの店に色々と置いてあった。

しかし、店員に話を聞いてみると、どうも食器とシルバーアクセサリーは違い、あまり黒ずんでいない限りは研磨剤が入っていない方がいいらしい。


よくはわからんが研磨剤が入っていない拭き上げ用のクロスを三枚買った。お値段もそんなに高くはなかった。

他にシルバーアクセサリーも勧められたがくっそ高くて財布の中身に一桁足さないと買えない、そもそもアクセサリーとかあまり興味がない。……それでも精一杯、今欲しいデザインがないとか良いのがあれば買いますよアピールしてしまう俺は見栄っ張りなのだろうか。オーダーメイドを勧められた時は白目になったが。



なんとかのらりくらりと必要な物だけ確保し、アクセサリー店を後にする。


百貨店の中を足早に歩く。


上階は高級なブランド店が多く入っているのでジーパンにそこらで売ってそうなジャケットにコートではかなり浮いてる気がする。周りのマダムやジェントルマンが俺の場違い感を鼻で笑われてる気がする。

今の財布の中身では到底立ち向かえそうにない店々に被害妄想が捗る。


なんとかエレベーターまでたどり着きホッと一息つく。


残念ながら催事場は北海道展とか九州展とか興味が湧きそうな催し物はやっていない。

時間はまだまだ余裕があるので、地下の食品売り場を冷やかそう。


エレベーターで降りた先は、人人人で賑わっている。流石に休日ともあれば盛況ぶりは別格だ。

置いてある惣菜はスーパーで買うのよりとても割高で高級だが、食品売り場だと場違い感を感じないのは何故だろう。


うろうろと惣菜を眺めながら歩いていると、良い匂いのせいか小腹が空いてくる。


ただし、値段はお察しである。


チラッと覗いたパック寿司。スーパーで買ったら二人前食べられる。そりゃ中身はキラキラと光っているし、イクラなんてスーパーより倍近い粒の大きさ。旨そうだが…よだれを…じゃなくて涙を飲んで諦める。


だが、口はすでに寿司になってしまった。鮮魚の寿司以外にも助六寿司が置いてあるのを見つける。

背に腹は変えられんと助六寿司をワンパック買い、人でごった返す百貨店をいそいそと出る。




途中の自販機でメジャーなお茶を買い、どこか食べていても顰蹙を買わなさそうな場所を探す。


バイト先から離れないように道すがら探すが、百貨店の方面から来る事がないのでこのあたりの地理にはあまり詳しくない。

最悪El Doradoで食えばいいかとのんびり構えていると、街の一角に神社があった。

鳥居の前には狛犬ではなく対の狐。

寂れた稲荷神社。


周りは住宅地で百貨店周りの喧騒とは程遠い。

人通りも多くないし、ちょっとばかり軒先を借りてもいいかなと軽い気持ちで鳥居を潜る。


人っ子一人おらず、石畳はからは雑草が伸び、あちこちに苔の生えた像がこちらを見ている。なるほどこれは寂れている。

参道の脇にお誂え向きに備え付けてあったベンチに座り、助六寿司を開く。

表からは雑木林で目隠しされており、ちょうど良い。


鮮魚の寿司を見た後では些か物足りないが、助六でも充分旨い。

街中の自然を満喫しながら取る食事もこれまた良い感じだ。人工物に囲まれた中で自然と言って良いのかは分からないが。


小腹を満たすと、いなり寿司が最後に残る。

稲荷神社にいなり寿司。これまた何故か運命的に感じて、最後の一つを神前にお供えする。

パックのまま置いておくと、なんだかお供えというより食べ残し置いとくみたいでなんだか微妙な気がしたので、包み紙を破いていなり寿司を置き、最後に5円を賽銭箱に投げ入れておく。


就職戦線に一縷の希望が出来た今、特にこれといった願い事もないために適当に良いことありますようにと願っておく。











今日のバイトはいつもより盛況だった。

少ない客席ながら満席のまま時間が過ぎていく。

マスターはキッチンに釘付けだったし、俺も食器洗いにテーブルセット、会計にと奔走した。まぁ店は広くはないから本当に走ってはいないが。


休日のディナーとはいえここまで盛況になるのはあまりない。

強いて言えばクリスマス等イベントの時には予約も沢山入り、満員御礼になる。なので年に何回もないバイト二人体制でマスターの奥さんも参戦する。バイトが捕まらない時には客席を制限して対応していたらしい。


ちなみにバイトの一人は近所の奥さんで昼専門のために、必然的にイベント時は俺はシフト入りしてる。去年のクリスマスも無論バイトだった。


他の現代怪奇研究部の面々もクリスマスというイベントは全くもって興味がないようで、話題にも出なかった。遠征も終え、二人とも既に話題は年末年始のオカルト談義だった。

危うく年越し廃墟巡りツアーになるところだったが、俺は里帰りと華麗にスルーした。



どうにかこうにか客を捌いていき、時計を見る暇もなく仕事をこなす。普段ならとっくに閑散としてクローズの作業をしているはずの店内には、まだ食後のコーヒーを楽しんでる人が残っている。


ようやくカウンターに立てるようになったマスターは疲れも見せずにシルバーを磨いている。

その手つきを洗い物をしながら凝視する。なるほど、とは言えないが、指紋が付かないようにクロス越しに持つのかと、見とり稽古に励む。興味を持って見るとやはり印象も違う。


溜まりに溜まった洗い物をやっつけ、最後の客を見送ったあとに、いつものようにクローズ作業を開始する。








昨日の今日で流石に今日は賄いはなかった。というか、食材がほとんどすっからかんになった。

いつもより時間が遅くなったが、それでも日付が変わるほどではない。


マスターが金庫を閉めるからさきに帰って良いとジェスチャーしたので、お先に失礼しますと挨拶して店を後にした。


夜道は街灯でところどころ明るいが、寒すぎる気温に誰しもが早々と帰宅したのかすれ違う人はいない。


歩を進め、リュックが揺れる毎にチャキリチャキリと鳴る金属音。お守りの銀食器が擦れる音。

自分も早く帰って、せっかく買ったクロスでシルバー磨きしようと考えながら、寒さを堪えて歩き出す。

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