第七幕:呪紋失敗
黒い龍が鎌首を持たげた。
推定属性闇。
「私に何の用ですか?」
大剣を軽々と肩に担いだクロエは
「悪ぃな。話すことはない!その石もらいうける!」
他のと違って三合目だけはボスが持ってるんだ。
「いいでしょう。かかってきなさい」
言葉と同時に辺りがより深い闇に覆われた。
かと思えば、ちゃんと相手は見える。
属性の空間ってだけで目眩ましではないんだね。
_私には見えないけど。
カンカンッ
ガンガンッ
「ッ堅ぇなやっぱり」
そこそこ離れたこの位置からでもわかるほどの火花が散ってクロエの姿がその度に見える。
_?
クロエは黒髪じゃなくなっていた。
真っ白に染まった髪に混じって見えたのは藍色の髪。
_それにあれは目?
閃光のような二つの蒼い蛍火が揺らめく。
それで大体の動きはわかった。
そこに火花が散って花火のようになっていた。
「手伝ってくれよ!」
あ、ごめんなさい。
私も微力ながら戦闘に参加する。
「勇者の呪紋。使い方は?」
何それ。
「もういい。あとで復習な?」
言って彼は首に手を当てた。
ヌルッとした自分の血を見て、
「ッ少し食らったか」
さっき食らった吐息が避けきれなかったらしい。
_そんなもんですむんだ。
「受け継いではいるよな!?」
龍の攻勢を巧みに避けながら私に声をかけるクロエ。
今サラッと消えなかった?
自信のない私は
「王家の紋章なら」「それだよそれ!」
見事にハモった。
かつての勇者は各国の代表みたいなものだったので、それから
王家の紋章が勇者の証になっているらしい。
それよりあんまり人に見せられるとこに貰っていないので、
「ほらっ」とは見せられない。
_右胸付近。
黒子みたいに色んなとこにつくらしく、意図的にそこにつけられたワケではない。
と言い訳じみたことを言っているが、要するに谷間だ。
わざわざそんなとこにつけられていたら、王様は変態ってことになる。
「俺が触りにくいようなとこか?」
察してくれたクロエは助け船を出してくれる。
_やっぱ全部聞こえてるワケじゃないんだ。
黙って私は頷く。
「仕方ない」
コイツの目は俺が引きつけておくから、そこに指二本で触れて王様から教わった言葉を思い浮かべろ!
したら背中が熱くなって下から光に照らされるようになる。
最後に髪の色が変わって終了だ。
その間指を離すなよ?
呪紋の使い方は以上だ。
おっと危ねぇ!
「試練だと言ったでしょう?
そんな素人を連れてきて一体どういうつもりですか?」
クロエは嘲った。
「ッ随分喋るようになったじゃねぇか?」
余裕ないんじゃないの?
と言ってクロエはさらに攻勢を強めた。
クロエが足止めをしてくれている間に、私は胸に指を当ててみた。
じっとりとした嫌な汗が指に絡む。
_これ大丈夫なのかな。
暗唱し終わる頃に、背中がじわりじわりと熱くなってきた。
しかし、嫌な熱さではない。
むしろ、体が軽くなる感じの熱で気持ち良かった。
コォォォォォ
下から光もきた。
気を落ち着かせて最終工程に入る。
と光が消えた!
「何やってんだ!」
少し圧されながらクロエは私の状況に驚く。
えっともう一回。
私はまた胸に指先を当てて最初からやる。
しかし、キャンセル。
_アレ?
マジで?
勇者の呪紋使えないんですけど?
おかしいなぁ。
言ってる間にクロエが吹っ飛ばされて私のところまで転がってきた。
髪の色が元に戻っていた。
クロエが倒れて私に目を向ける黒龍。
「ふぅ」と鼻でため息。
「勇者気取りがこんなところまで連れてこられて大変でしたね。
貴女はかかってこないのですか?
呪紋に頼るより、まずは自分の力だと私には思えますが」
全くその通りだった。
瞬間、深く頭を下げた私は
「勢いできてすみませんでした出直します!
強くなって私一人でも貴女に勝てるくらいに!」
言葉と同時に私は部屋を出た。
「期待してますよ?」
黒龍は勇者カナのいなくなった部屋で呟くようにそう溢した。
「がんばれよ」
クロエはうつ伏せのままでその言葉に継いだ。
黒龍は輝石を呑み込んでいます。
その上で二人を相手に稽古をつけています。
勿論素人発言も挑発のためわざとです。