第肆幕:可哀想な羊
腕のいい鍛冶屋というと種族が違ったり、やたら筋肉のついたという勝手なイメージがあったが、腕なんて私と大差ないような女の子が頭をしている工房がこの街の筆頭鍛冶屋だった。
そこに堂々と向かっていくクリュー。
山の薫り漂う街中をもう少しゆっくり観光してみたかったが、私は泣く泣くクリューを追いかけた。
緑の衣装に身を包んだエルフのような格好をした女の子が快活な声で
「らっしゃい!」
台無しもいいところだった。
可愛い娘なのに、ドスのきいた声で発声されて可哀想になった。
_羊っぽい角や毛は優しそうに見えたのに。
くるくるの角もふわふわの髪の毛も立派な子羊ちゃんという感じなのに、、、
クリュー曰くアレは趣味で、彼女はれっきとした人間だそうだ。
_趣味で角が生えてるの?
まさかそんなワケはなかった。
彼女は帽子を脱いで胸に抱えるとペロッと舌を出した。
_キュンッ。
その仕草に私は一撃で落ちた。
ところで素材も何も持ち合わせがない私にはクリューが何を目的に工房にまで入り込んだのか首を捻るばかりだった。
_売り場なら入口にもあるのに。
見ているとずだ袋的な袋からクリューが素材らしきものを羊の目の前にぶちまけた。
きらびやかな宝石や鉱石の類が見る間に作業台に広がっていく。
「いいんですか!?」
野太い声で驚く娘の反応を見るにかなり高価なものらしい。
忘れてたワケではないけどびっくりした。
そういやこんな声だっけ?
「いつものおまけ」
違った。卸の報酬だった。
しかも臨時の。
「これからやってもらうことの前金」
それから別の物を背負ったミニリュックから探り出した。
「これ、打って」
しかし、これは彼女では使いこなせないですよ?とヒソヒソ。
_それ聞こえたらダメなんじゃ、、、
「いいの。残りの素材取りに行くついでにレベル上げするから」
ふぅ。と上にため息をついた彼女は覚悟を決めたように、
「じゃあ、私も着いていきます」
鉱山都市ロックグラス。
いきなりその由来を登ることになった。
とりあえずの初期装備として、入口の店の在庫を持っていくことに。
王家の紋章がついたものなので加護もあり攻防申し分ないものだと聞いてはいるが、
実戦なんて初めての私は足元から震えが止まらなくなっていた。
勇者カナ初めての戦い。
ちょっと怖さを覚えはじめているところです。