第参拾参幕:龍貴晶
皆の道案内がとにかく下手だった。
歩けば10分そこそこで着くはずの温泉街に40分ほどかかった。
クリューは私と離れたくないのかタブレットを持たず私にしがみついて、私もそのためタブレットの操作ができず、頼みのクロエはヘトヘトになっていて、、、
輝石メンバー4人に全権が委ねられた。
結果がこれだった。
それでも何とか温泉街に着くとまるで城下街のように賑わう街に、特に灯りの元になりそうなもののない街が自ら発光するように建物の建材自体が輝きそれに、
_下からも?
「ソーマだね」
ラさんの声で足下を視る。
よく視ると石畳の隙間から漏れていく発光流体。
「これが」
カナは初めてだっけ?
そういえばそうだな。
他人のソーマを読むことはしたけど、ソーマ自体がどんなものかはまだ知らなかった。
うっすらした緑色の半流体。
それが蒸気のように空気に混ざっていくものと地面に染み渡っていくもの、、
「こんな色してるんだね」
「すぐにわかりますよ」
え?何が?
私の隣からウェイさんが応えてくれた。
それはソーマ自体の色、人と関わった時とはまた違います。
「人それぞれ」
わぁ!いたの?ティさん。
「ロー」
あ、ごめんなさい。
後生ですから命だけは。
後ろ手を拘束され首元にナイフを這わされた私は身動きがとれなくなる。
「やめな」
それをラさんが助けてくれた。
つまみ上げられてナイフも取られた。
_そんな簡単に。
それよりあれは、、
「精霊ですね」
まだ形になってないみたいですけど。
大地と大気のソーマが反応して元素が生まれそれが高密度に圧縮された時、こうして稀に目の前で精霊になることがあります。
「なかなか見れない光景だよね?」
_こっちがティさん?
「正解だよ」
ニシシッとイタズラっぽく笑うのは間違いなくティさんだった。
これは輝石の中でも彼女しか出せない輝きだ。
「そこに気づくとは流石ですね」
それを見下すでもなく冷静な分析力でそう評するのはウェイさん。
ラは付かず離れず私を見ていて、ローは、、またどこかに消えた。
ともかく私は輝石の後をついて宿舎と同じ名前の建物に入っていく。
_?
「本館と同じ名前にすることでどこの温泉かわかるようにしてあるんだよ。ま、分家みたいなもんだ」
ラさん。ちょっと顔赤い?
_目も逸らしてるし。
中に入ってみると王城のように立派な吹き抜けに大きなシャンデリア、そして恐らく誰かのレプリカであろう絵画がロビーに飾られていた。
「あれは違うよ。本物なんだ。複雑な経緯を経て皇室から公式に贈呈されたものなんだ」
はぁぁぁ...
自然に吐息が漏れたというか、
「だからほら、よーく視て!ソーマのケタが全然違うでしょ?これラ姉が、、、」
んぐぐ。
ラさん。それじゃ首締まる。ラさんは慌てて首に腕を回していた。
それにしてもよく視ると本当に力強いソーマを感じた。
こんなにはっきりしたソーマが視えないなんて私ってばまだまだなのかもな。
入口付近で私達がそんなことを話していると、
「お姉さんッちょっとッ」
一言ごとにとび跳ねるクリューに気づいた。
「これはクリュー様」
紅いスーツの女性スタッフが下を覗きこみ声をかけた。
_言ったからには助けてあげて下さいよ?
ピョン、ピョン、、ドタッ
_あ、コケた。
助けないばかりか微笑ましい空気がその辺りに視えるほど漂っていた。
「まぁ大丈夫ですか」
ほどなくして紅スーツの女性がカウンターを回り込んでクリューに手を差し伸べてくれた。
手続きが終わってまずは宿舎の方の準備が整うまで、温泉に浸かってくることになった私達は揃ってお風呂コーナーに向かっていった。
といってもここは温泉に特化された施設、その内部はお風呂に関するアレコレやグッズ売り場などが豊富に揃えられている建物だった。
「それじゃ30分くらいか?」
どうしよう。ホテル側の時間を確認してなかった。
どれくらいに終わるのか確認してこないと。
「大丈夫ですよ。少し多めにとっておきましょう。一時間で」
「そうか。わかった」
男湯にそのまま消えていくクロエ。
「私達もいきましょう」
とクロエと入口で分かれる。
ところで女湯に入ると早速困ったことになる。
ロッカーは空いていた。
五人なので並びはバラバラだ。
そこはいい。
問題なのは、
脱げない。
脱ぎ方がわからなかった。
こんな複雑な服は初めて着るので、脱ぎ方が全くわからなかった。
よって、
「どしたの?」
ティが寄ってきた。
イヤな予感。
「脱ぎ方わかんないの?」
何だその嬉しそうな顔は?
このドレスはね?
ここをこうしてこうするんだよ?
嬉々として脱がしにかかるティ。
「ちょ、、やッ」
抵抗は無駄に終わり、あっという間に私は脱がされた。
ティはそれをテキトーにロッカーに突っ込む。
と、
「カナちゃん早く!」
向こうからクリューの声がした。
「ほら、ルゥが呼んでるよ?」
ティに手を引かれて私達も浴場に向かっていった。
まず、目に飛び込んできたのは正面の龍。
ドンと壁一面に描かれているのはトカゲ型の大きな龍が魔族と人間の間に入って人や建造物を守る姿。
_アレは何?
「アレは有名な龍貴晶」
龍が私達人間を魔族から守ってくれた時の話を描いたものですね。
この絵はその第一章。まだ長いお話が、、、
「あ、わぁわわわわ」
「どしたのカナちゃん?」
やっちまった!
無我夢中とはいえ龍を殺してしまった!
助けてくれたとも知らずに、、私ってばなんてことを!
これまでに覚えいる限りで二体は殺している。
片方は食べちゃった。
_エライこっちゃ。
「落ち着けよ?アレはお前を試すためにやったんじゃねぇのか?」
クロエ?いやここにいるワケないし。
腰までの黒髪とスラッとした体躯にふっくらした胸元。
くびれた腰。
_良かった。
フサフサの尻尾。
フサフサの尻尾!?
よく見ると耳が横じゃなくて頭の上から生えてる。
しかも髪は艶のある漆色の藍。
ピコピコ
動いた。
えっとこういうの何て言うんだっけ?
「彼女はウェアウルフよ」
ラさんが教えてくれた。
「それよりカナちゃん早く入ろうよ!」
ティとルゥが競うように私を招く。
_珍しくハモってんな。
ちょっと待ってね今かけ湯するから。
_あと体洗ってからね?
私は龍の壁画やウルフの人も気になったが、とりあえず洗い場の方へ向かった。
洗い場で一人体を洗い始めると両隣には肌の色が違う人や肌の質が根本的に違うことが目で見てわかる人が座り自分の体を洗い始める。
_まぁそうなるわな。
質が違う人はもう形状が人間の肌とは違うので、タオルとか優しいものは使わない人もいるようだった。
_人のことはいいんだよ。
私は自分の体をクリューがカバンから出してくれたスポンジにフロントで買ったボディソープ<人間用>を含ませて洗い始めた。
それを流し、頭に取りかかる。
少し伸びた髪に苦労しながら洗っていたら、、
「カナさん」
ほどなくして後ろから誰かに声をかけられた。
「親友の方、残念でしたね?」
きっかけは些細なこと。
ウェイさんから声をかけられて私は初めて自分が泣いていることに気づいた。
静かに流れる涙はソーマを辺りに散布していたらしい。
_恥ずかしいな。
まだ泡だらけの頭を上に向けて、お礼を言おうとするも掠れた喉は声を枯らしてしまって、
ツー
代わりに違うものが違うところから流れた。
血?何で?
あぁウェイさん。
なんでスタイルいいんですか!
鼻血出ちゃったし。
せっかく大事な話してたのに!
台無しじゃん私!
血の匂いを嗅ぎつけた異種族の方々はキラキラした目でこちらに寄ってきた。
「どうした?こんなとこで流血騒ぎたぁ」
い、いえこれは。
祭とばかりに騒ぎ始めた方々は
「まぁ大変その方、勇者様ではありませんか?」
「勇者だって!?」
誰だ勇者に膝つかせたヤツぁよ!?と大騒ぎになった。
「カナちゃん!お姉ちゃん何したの!?」
クリュー違うの!
これは殴られたとかじゃなくて!
私はそう言いたくても言えなかった。
意外によく出る血に困っていると、
「仕方ありません。少し退いていて下さい」
と最初に勇者と気づいた人<?>耳尖ってるしたぶん違うんだろうけど。
が私の鼻に手を翳して治してくれた。
コォォォォ
何かキラキラしたものが目の前を掠めた。
「ここには魔素が豊富にありますから、即席でこんなこともできます」
あぁそうですか。
_だから暗唱もしないで。
龍貴晶ツアー開幕!
千切り絵のようにハウザウネ鉱石を散りばめた銭湯の絵は実は、、、
こっから少しずつ難しい話が混ざってきます。
落ち着いて描きたいので、その時間を頂いています。
悪しからず。
次回第参拾肆幕:異種族交流
朝食で発覚する羽根の生えた人の正体とその彼が語る種族の歴史、その末路。
「あんなものはまやかしに過ぎないよ」
温泉で会った人達との再会。
「よ、久しぶりだな」
物語が大きく動き出します。
以下続報です。
「カクヨム」様で同時連載を予定させていただいております。
そちらではカナかなクロニクルリペアの外伝と昔書いていた犬の話。
それから折りを見て未発表のものを載せていけたらなと思っています。
よろしくお願いいたします。