第参拾弐幕:ロックグラスの宿
それから私がどれくらい寝ていたのかはわからないが、目を覚ますとホテルらしき部屋の一室にほぼ全員が私のベッドを取り囲むように揃っていた。
_誰だクリューを足元に追いやったのは。
何かごそごそやっているのが嫌に不気味だった。
石像を除くあの時のメンバーが揃っていた。
王城ほどではないがそれなりに大きいベッドを取り囲んで私が目覚めるのを待っているようだった。
クリューを含む輝石メンバー、クロエ、それから、、誰!?
見たことのない人が私を覗きこんでいた。
「目覚めたようだね」
彼はクロエが召喚されたグジルティア公国から遣わされたという使者の方で、クロエから報告を受けて事態を重く受け止めた皇室からの勅命により、私達が宿泊するこの宿舎に顔を出したのだという。
しかし、
「勇者が倒れたと聞いた時は驚いたよ」
髭のおっさん、、あ、いや使者の方は私を覗きこんだままそう言った。
「カナちゃん」
足元にいたクリューが我慢しきれずに髭を押し退けるように割り込んだ。
_ごめんなさい。
クリューはやおら手に持った鏡を私が映るように掲げてきた。
薄い水色の細かな装飾が入ったドレス。
所々に宝石のようなものもあしらわれている。
「これは」
「カナちゃんの最初の服だよ?」
正直めちゃくちゃ嬉しかった。
こんなに綺麗な衣装が自分のためにオーダーメイドされたかと思うと、
カナちゃんまた泣いてる。
クリューに笑われた。
「手首のアミュレットは鍛冶屋さんの手作りな?
ソーマをたっぷり仕込んでくれたらしいぜ」
そこまで手塩にかけて、、、おぃ。
待て。私は気を失ってたんだよね?
これ着せてくれたの、、誰?おっさん!?
「まさか。私は今ついたばかりだよ」
「私じゃないよ?」
思わず反射的にクリューを見た私にクリューは泣きそうな顔で言った。
「安心して下さい。
クラeムガードのスタッフに聞いて駆けつけた私達が宿舎のスタッフと共謀、、、いえ協力して部屋まで運び最初の装備を見繕って着替えをすませました。
ですからクロエ様とルゥには何も見られていません」
何か気になる言葉が聞こえた気がするがまぁいい。
要するに貞操は保たれているんだね?
「いいえ?」
なん、、、だと。
ウェイさんは可愛らしげに小首を傾げて、
「少なくとも私達とスタッフには隅々まで見られていますよ?」
あぁそういうことか。
あんまりよくはないがいいってことにしておこう。
「それよりお疲れでしょう」
えぇ色んな意味で。
「この近くにいい温泉があるんだって。
カナちゃん一緒に入ろうよ!」
意外なことにクリューではなく、ティに誘われた。
「クリューも?」
存外もじもじしているクリューは黙ったまま頷いた。
そうか。そういうことか。
私のを見れるのは嬉しいが、自分のを見られるのは恥ずかしいんだね?
「カナちゃんになら」
うぃ?そっちか!?
いじらしくも仄赤く頬を染めながら、目を泳がせて言うクリューの姿は私でさえもドキドキさせた。
女の子同士、女の子同士、女の子同士だもん!
そ、それにクリューはまだ子供だしさ。
ムッとしたクリューは急にこっちを向かなくなった。
ごめんなさいクリュー。
キミを彼女にしてあげることはできそうにないよ。
ってか同性だからね?
もう一回ムッとされる。
「そんなことよりさ早く温泉行こ!」
ティに腕を引っ張られクリューが私に絡めていた指が一瞬離れた。
その一刹、クリューは私のもう片方の腕をムッとしたまま、抱きしめるようにして自分の胸を寄せてきた。
_素直じゃないなぁ。
私も少しだけクリューに押し当ててみる。
_赤くなってる。
クリューは嬉しいのか赤くなって俯いていた。
次回やっと温泉街に向かいます。
ファーリア正史「龍貴晶」の真実に初めて触れたカナは慌て始めますが、地元の異種族の方々に宥められて、、
近日公開!
これより「龍貴晶」ツアーに入ります。
様々な形で各地に遺された「龍貴晶」の全貌を追う物語です。
異世界の現実が元世の現実と被り始めるその頃元世では、、、