第参拾壱幕:服飾雑貨店クラeムガード
服屋さんは積層型の塔で何階かに分かれていて、各階の内装はファッションブティックのようになっていた。
下から四階までを男性スタッフのいる男性用フロア。
五階から八階までを女性スタッフのいる女性用フロア。
四階までを暗い目の紺を基調とした店内に同じ色の間接照明、おそらく魔素だと思われた。
五階から八階までに薄黄の内装を魔素が漂っていた。
クロエ達は一階で早々に黒服に取り囲まれて連れ去られた。
「クロ、、、」
名前を呼ぶ間もなく忽然と消えるクロエ。
大丈夫だよね?服選びに行っただけだよね?
そして五階。
私はウェディングドレスのような制服の女性達に取り囲まれている。
そしてセンターにいた女性が指を鳴らすと、その周りにいた女性達が手に持っていた道具で私のあちこちを計りはじめ、何やら色のついた棒を私の横に並べて比べだした。
これが何をしているところかはさっぱりだったが、オーダーメイドするための準備なんだろう。
_そういえば。
お金はどうするんだろうか?
元世の通貨がきくとは思えないが。
「安心して下さい。これで払います」
ウェイがカードを見せた。
_!
げ!ブラック!
よくは知らないけど聞いたことはある。
スゴいって。
「ここ全部ルゥの支払いなの」
_クリュー様ぁぁぁ!
よく聞いてみるとポケットマネーではないらしい。
_そ、そうだよね。
皇室勤務の上級スタッフにはもれなくこのカードが支給されるんだとか。
_経費で落ちるのか私達の装備は。
勇者ということもありその辺は落ちるんだそうだ。
_いやに現実的だな。
因みに手数料やポイント分は市民に還元されているんだとか。
_ファーリアすげぇ。
ところで何でティは自分のも買ってんのかな?
_経費で落とすなよ?
あ、使ってる。
おぃおぃ。どう見たってそれ普段着ですよね?
妹のカードで姉が買い物、、、いいのかな?
「いいの。いいの。沢山買った方が還元されるし」
不気味な微笑みでその姿を見守る妹。
_ってクリュー!?
「こっちきちゃいけないんじゃ…!」
「いいんだあっちは何とかなってるし」
_目が死んでるよ?
ラがクロエの着せ替えにハマってしまったらしい。
他にやることないから黙って上がってきたとか。
_ダメじゃん。
「カナちゃんはまだこれからだよね?」
「う、ぅん」
その死んだ目でこっち見ないで怖いから!
_その瞳の奥の輝きはどういう意味かな?
深くは考えないことにしよう。
「大丈夫だよ」
「ぅん」
まだ何も言ってない!
言った覚えもない!
どうしようもなく助けて欲しい気持ちになった。
今ほど自分の気持ちが聞こえてしまうのが怖いと思ったことはなかった。
「下着、選んであげるよ」
頼む!頼むから声は元に戻して!
それじゃ怖くて頼めないよ!
「......」
黙っちゃヤダ!
「じゃ、いこっか」
_あ、戻さないんだ?
クリューをこんな風にするって姉さん達何したの助けて!?
「サイズを教えて」
青くなりながら私はクリューに耳打ちする。
「わかった!」
_あ、戻った。
_ふぅ。
胸に詰まっていた何かが取れた気がした。
店員さんのとこに駆けていったクリューが、
「お姉さん!Cカップのブラどこですか!?」
ぎゃぁぁぁぁぁ!
_あの娘何言ってんの!?
どきどきしながら私はクリューを止めに行った。
_ここで慌てたら私のだってバレる。
後ろから抱きしめるように口を塞ぐと、クリューは楽しそうにジタバタした。
_コイツ、わざとやったな?
再度、秘密の言葉を耳打ち。
「二人だけの秘密でしょ?皆に言っちゃダメ」
三度瞬きした後、
「ごめんなさい」
_ふぅ。
クリューの殊勝な表情はこれが初めての気がした。
「お客様、ご案内致します」
_バレてるわな。
ついでに視線も感じた。
恥ずかしくはないんだよ?女同士だもんね?
_誰に言い訳してんの私?
「こちらになります」
_おぉ。
霞むほど長い列のブラ。
_まさかワンサイズじゃないよね?
「こちらはサイズ別のコーナーになります」
_マジか!?
まぁ4フロアほど専用にしてるし、ありえるか?
これ倉庫じゃないよね?
「全て商品でございます」
「お客様。こちらでの準備が整いました。
ご試着はなさいますか?」
「お願いします」
それよりソレなんですか?
右手に飛んでるちっこいの。
おそらくスタッフなんだろうけど。
漉き通る羽根をはためかせ小指ほどの生き物がスタッフさんに耳打ちしていた。
試着室も沢山あるのかと思ったらそうでもなかった。
五つくらいの部屋の中から一つ選び入って、、ついてくるなクリュー。
押し戻すと至極残念そうなクリュー。
普通に入ったらバレないとでも!?
そうだね女の子同士だね?
言い訳になるか!
これから私が脱ぐと知ってついてこようとしたクリューは最後まで抵抗していた。言い訳まで用意して。
やがてスタッフのお姉さんに連れていかれるクリュー。
ズルズル
そしてお姉さんの耳打ちはしっかり聞き取れた。
「心中お察しします」
ちょー待てぇ!
スタッフは私の敵だった。
ところでこの商品は悪くない。
肌触りもよく、この柔らかい布地は恐らく上質の素材を使っているだろうことを肌で感じる。
「気に入って頂けましたか?」
_!?
うぇい!?スタッフか、何だ。
開ける時は言って下さいよ。
こっちは半裸なんですから。
ためつすがめつ薄い黄色の下着姿の私を見るスタッフ。
_何だ。
緊張感みたいな何かが私の肌をすり抜けていく。
「いいんでしょう」
_何が!?
「うん。ばっちり」
クリューまで!?
_ねぇ何がなの!?
単純にサイズの話をしているようには見えない。
まさか、、、
いやいやいや、、ないよね女の子同士だもん!
ないって言って!
「 」
クリュー先輩黙っちゃ嫌ぁ!
「正常に機能しているようで何よりです」
へ?機能?スタッフさん何言ってんの?
これただのブラだよね?
「いいえ」
その瞬間、全身から血の気が引いていくような感覚がした。
そっから私はまた説明の大部分を聞き逃す。
去り行くソーマの中、聞こえたのはこれの素材が
「白銀龍の鱗と原生鱗神龍の、、」
それを最後に私の意識は一度途切れている。
「大丈夫ですかカナさん!」
心臓は動いているもののソーマの流れが感じられないカナを視てウェイは
「私がソーマを注ぎます!それから宿舎に連絡を!すぐ宿泊の手配をして下さい!」
下着姿で横たわるカナに手をかざしソーマを注ぎながらスタッフに指示を出すウェイ。
一通り応急処置を済ませるとウェイは輝石メンバーと手を繋ぎ、いつかのようにクリューに紋章を集めて、カナの身体を宿舎まで転送した。
ファーリア観光の回です。
あと文化も含めます。
新技連発してすみません。
次回、転送先は宿舎の一室です。