第弐拾八幕:VS輝石の勇者<覚醒>
それが体にぶつかるような感覚があった。
それは段々と鋭くなってきて、熱い感覚まで戻ってくると声が遠く聞こえてきた。
「クワァァァァ!!!」「ゴァァァァ!!!」
ずっと一緒に戦ってきた不死鳥と風鈴虎が全力で体当たりを何度も何度も何度も繰り返していた。
お互いにいつ死んでもおかしくないダメージに覚悟しながらそれしかない二人は繰り返し体当たりをしていた。
不死鳥のレベルは既にカンストしている。
だが、
_避けて!
瘴気が不死鳥を蒸発させる。
彼は風鈴虎を庇ったのだ。
しかしそれを後ろから支えるように風鈴虎の風が吹いて不死鳥の焰を活性化させる。
精霊と精霊の併せ技による攻撃でも、今のカナを止めることはできなかった。
「カナちゃん!」
_!?
聞き覚えのある、しかしいるはずのないクリューの声が聞こえて動揺したカナは、
「何で!」
発声できたのはやはり、旋基を帯びた声。
「来ちゃダメ!?」
「カナちゃんはそんなことで堕ちる人じゃない!」
「私のカナちゃんはそんな意気地無しなんかじゃないもん!
勇者カナしっかりしろ!」
_!?
最後の言葉は姉たちを罵った時の声で聞こえた。
「誤解していました。勇者カナのこと。
大した力もないクセに、たまたま勇者に選ばれただけで私達を代表する人になり、あまつさえ私達からルゥを奪った人だとばかり」
片目を瞑ってラ
「ずっとカナの話しかしないんだよ?
ま、私達とは暫く離れてたから仕方ないんだけどね」
拗ねたようなティ、
「........」
無口なロー、
「ちゃんと試練は乗り越えてきましたよ」
結果を報告するウェイ、
「いくよ!カナちゃん!」
そしてルゥ。
え?何?何されるの?
それぞれの輝石が応えるように輝き出す。
目を閉じたままのルゥが儀式に入る。
五つ、その全てがルゥの元に集まり、見たこともない古代文字がルゥの額に刻まれていく。
「 」
何事かをルゥの唇が紡ぎ、額の文字をばら撒くようにして両手を広げた。
するといつかのタブレットのように地面に文字が並び魔法陣を形成していく。
私はそれによって動きがとれなくなり、
「長くは保たない。カナちゃん早く」
「私達が手伝います」
残る四人の姉たちがルゥの魔法陣をさらに強化して私を弱体化させる。
「この程度で何とかなるなんて思っていませんよ!それなら精霊達で十分でしょう!?」
そう言って彼女らはそれぞれの武器を手に攻撃を仕掛けてきた!
ちょッこういうのは闘って弱らせてからっていうけど!
4VS1ですか!?
それもう勇者じゃねーよ!
いくら私が暴走してるからってやりすぎ!
何その無駄にカッコいいフォーメーション!
「それほど本気でやる必要はないようですね。
ですが、興味があります。貴女に芽生えたその力に!」
わ、ラさんスイッチ入っちゃってる!
「残念だけど、ちょっと闘わせてネ?」
ハートでも出てきそうな色気づいた声でティが言った。
_闘えと?
誰かに横から肩を叩かれた。
正気か!今の私に触れるなんて!
_一体誰!?
クリュー、、もぅ!
どうなっても知らないかんな!
「漸く闘う気になってくれたようですね」
「いっちゃうよ?」
_楽しそうだなおぃ。
技で身を隠していたウェイとローがそれを合図に背後で閃き、私を取り押さえた。
_!?
あっという間に捕まった私はこのまま倒されるのかと思えば、、、
「よしましょう。正気に戻っている貴女に乱暴すると、私達がルゥに何をされるかわかりませんから」
_え?でも本人もやる気だったよ?
残りの二人もサッと手を離した。
ほどなくしてクリューが
「カナちゃぁん」
大泣きしながら抱きついてきた。
_え?ウソ!?
その頃には私の体も元に戻っていて、
「クリュー」
声も普通に出せるようになっていた。
ことの顛末を話す。
元に戻ったのを確認できた二人の精霊は私のそばにいたいらしく、
円陣に加わっていた。
焚き火を組んで六人と二人で囲みそれを眺めて、
「ではグラムフェルトは貴女のご友人だったのですか」
たぶん。
いや絶対そうだ。
本人でないと知らないことも言ってたし、いやでも記憶だけ吸い上げてるってことは、、、
相手は悪魔の将だ。
それくらいは普通に、、、
「待って下さい。それはないと思います」
私の危惧を遮ったのはウェイさん。
まずはご友人の言葉を信じる方向から考えてみませんか?
貴女はこの世界の王のこともまだよくわかっていない。
ならまずはご友人の言葉を信じましょう。
「うん」
よほどうるうるしていたのかクリューが丁寧に私の涙を拭ってくれる。
その間ゆっくりと話を進めていくと、
「魔素とソーマの成り立ちですか」
前にクロエが言っていた龍脈の話もしてみた。
「クロエ様はそこまで」
感嘆とした表情でラはそう溢すように呟いた。
それで思い出した!
「そうだ!クロエは!?クロエに会わなかった!?」
近くで魚っぽい何かを焼いて食べていたティが咥えたままで、
「知らないよ?どうかしたの?」
マヌケ面晒してる場合じゃないんだってば!
_そんなもんいつの間に。
あぁそんなことより、
「さっきクリューをお願い!って先に行かせちゃったの」
そうですか。と頷く姿勢でラは
「では急がなくてはいけませんね。この遺跡長くは保ちませんよ?」
顎に当てた手を解いてラは顔を私にまっすぐ向けて言った。
急がないと出られなくなるという。
詳しく聞く前に私は一人立ち上がる。
「私達もいきますよ?」
「カナちゃん!タブレットは?」
クリューがクロエに渡してたじゃん。と指摘するとペロッと舌を出して謝るクリュー。
_ちょっとキュンときた。
「お姉ちゃんアレやるよ!」
よし!と嬉しそうにラが答えて、
「クロちゃん見っけ!」
姉たちと手を繋いで暫く目を閉じたあと、クリューが目を見開いて言った。
「カナちゃんこの上早く早く!」
姉の手を振り払う勢いで私を呼ぶクリュー。
_可哀想だからやめたげてよ。
名残惜しそうにティがクリューの手を見つめるのを私は見逃さなかった。
_繋いだの久しぶりだったんだろうな。
入口で繋いだのとはワケが違う。
魔法のためとはいえクリューが自分から繋いできてくれた手は、きっと新鮮なんて言葉では追いつかないものだったことだろう。
_入口のは半強制だった。
ともかく私はクリューの案内で、
_また登るんだ。
_山頂だと思ってたのに。
そこからの道は道ではなかった。
_せめて登山道にしてよ!
「クァ」
_任せて!
嫌な予感がした。
番組はここからさらに盛り上がっていきます!
ここでカナちゃんが話した内容について触れておきます。
まず、魔王側に召喚された人間がいること。
その中に自分の知り合いがいた、らしいこと。
それらが自分から魔王側に味方していること。
そうしたことを話す中で、ゆうちゃんの正体の裏づけを探るカナちゃんにウェイさんが
「待って下さい。それはないと思います」と声をかけています。
輝石の龍が崩落の危機を迎える中、クロエ捜索のため一行は龍の首の部分へ上ります。
次回、クロエVSアリエスの遺作