第弐拾七幕:風浪祐奈-二人きりの血闘-
その姿は勇ましく、人々に勇気を与えるものだとされてきた。
その勇者が目の前の現実にうちひしがれていた。
「ゆうちゃん」
涙は止められなかった。
焦げたゆうちゃんの体を抱き起こして泣き崩れる勇者カナ。
ゆうちゃんの体のあちこちに残る龍の鱗がカナの肌を切り裂くがカナは構わず抱きすくめた。
思えばゆうちゃんと出逢ったのは幼稚園の頃。
小学校までは一緒だったが、それも途中でゆうちゃんが引っ越すことになり最後までは一緒にいなかった。
そこからは一度も会っていなかった。
それがなんで、、、
なんでこんなことになってんの!!
心を妬き尽くすような感情が喉を突く。
煤けた体には自分が与えた傷がそこここに残っていた。
グラムフェルトがゆうちゃんだとわかったのは最期の声と、所持品についた見覚えのある赤いチャーム。
_モスグリーンのパンツスーツによく映えてたのに。
わざと見落としてたのかもしれない。
無意識に。
そんなワケないって。
「思い出の品、まだ持ってくれてたんだ、、、」
ゆうちゃんが咄嗟にかけた魔法防御が効いていたのか、ゆうちゃんは即死には至らなかった。
チャームも焼かれずにすんだ。
だが、問題なのはそこではない。
「なんで!なんで魔族なんかに手ぇ貸すのゆうちゃん!?」
「懐かしい名前ね」
死んだと思っていた彼女の口から言葉らしい言葉を聞けると思っていなかったカナは、
「ゆうちゃん!」
「そこ痛いんだから揺らさないでよ」
昔よく二人でヒーローごっこやったっけ?
次にいじめられたらやっつける練習だって言って。
結局身に付かなかったけどね、、、
懐かしい話のはずなのに、全然頭に入って来なかった。
相槌もなく涙が溢れるばかりだった。
そして、彼女は死期を悟ったように話を切り上げて、
貴女は異世界に騙されているわ。
優しい貴女にそれを伝えるには私がこうするしかなかった。
誰がやってもきっと信じなかったでしょうから。
どこか満足そうに鍾乳洞の天井を眺めながら、とつとつと彼女は自分なりの魔族の見解を語り始めた。
曰く魔族はそんなに悪いヤツばかりではないという。
俄には信じ難いそれを口出しせずにいると、
「驚かないんだね?」
「あ、うん。ゆうちゃんの言うことだし」
「何で私、そっちに召喚されなかったのかなぁ」
その後悔を最後に話を変えた彼女は、
「魔素とソーマの成り立ちを思い出してみて。
大地のソーマは生き物に取り込まれて魔素に変換され大気に発散されていく。
勇者、及び人間はその魔素を精霊と協力して使い魔法を行使する。魔族はその一手間がいらないの」
_!
彼らはソーマを持たないから、魔素を直接行使できる。
その裏付けをとるために私は魔族と契約をした。
いくら考えても魔族を倒す理由にはならない。
魔素を直接行使できる?ただそれだけの違いで種族ごと、、、
ごほッ
夥しい量の血がゆうちゃんの口から吐かれて、彼女の手から体温が急速に失われていくのがわかった。
ソーマの気配も引き潮のように消失していく。
「だめ!」
だめ!嫌だゆうちゃん!いかないで!
「ありがとう」ゆうちゃんの唇は動いたが語ることはなかった。
冷たい手が最後に頬を撫でた。
_最後くらい一緒に遊びに行きたかったなぁ。
どくん どくん どくん
「あぁあぁあぁあぁ...ッ!」
紅い、瘴気と見違うばかりの魔素を翼のように噴き上げてカナは魔族のような姿になりかけていた。
洞窟内部に激震が走る。
目の前の封印さえも砕くほどの勢いでカナのソーマが暴発する。
「...ッぐぅ」
根性、気合だとかそういったもので抑え込めるほど生易しいものではなく、真っ赤に血走った目もそれを物語っていた。
仲間、がいれば少しは変わったのかもしれないが、クロエもクリューもここにはいない。
自らの最早魔力と言って差し支えないものがその身を内側から焦がす。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
それに合わせて遺跡そのものが揺れ始める。
遺跡自体の振動とカナの意力。その双方の力が重なり古い遺跡は朽ち始めた。
_止まって!
漸く意識らしいものが働いた。
だが、そんなものでは止まらない。
それだけ高崎可奈にとって風浪祐奈は大切な存在だった。
二人でなら何でもできる。
そう錯覚する程度には。
_このままじゃいけない。
何とか体を動かしてこの状態を、、、
その時になって初めて遠く、そして近くに二つの力を感じた。
第弐拾壱イベント介入~参拾幕フォーメーション<VS輝石の勇者覚醒>まではロケ地輝石の龍の内部になります。
弐拾九幕はクロエ捜索になります。
次回VS輝石の勇者