第弐拾六幕:魔族の系譜
_私、勇者にはなれなかったよ。
「だが、これで道は拓かれた!」
目から、口許からどす黒い血を流して虚ろな目で上空を仰ぐロッドノエル。
空には巨大な円環状の魔法陣が展開されていた。
ロッドノエルの背中から濃密な瘴気が立ち上ぼり、それが魔法陣に吸い込まれていく。
「何してんのソレ!?」
勝った。勇者サキが見たのはそんな表情だった。
「私は何もしていない。やったのはキミだよ。勇者サキ」
_!?
しまった!?
ウチが攻撃を加えたせいでアルヴィスに刺激を与えてしまったんや!
愕然とした表情を俯かせたサキは、
この世界に魔素なんてあっても薄いもんやし、あんなでっかいゲート拓くほどの力は、、、と分析してみて断念する。
_ファーリアにあって、元世にないもの、いや元世にしかないもの。
「ソーマかッ」
ニヤリと嘲笑うロッドノエル。
沙耶ちゃんの全身を染める血と鞄に着けたチャーム、それに真樹ちゃんを、、殺した悲しみ、悔しさ、怒りの涙、そこに大地のソーマを吸い上げて使えば、、ロッドノエルの力がなくても或いは、、、
ならアルヴィスは手遅れでもロッドノエルに止めをさせれば、、って沙耶ちゃん。
あかん。沙耶ちゃんも一緒に死んでしまう。
_?
ところでコイツは何で沙耶ちゃんの体を?
「知りたいか?」
上から見下ろすように沙耶ちゃんは言う。
_違う。沙耶ちゃんはあんな顔しない。
「教えてやろう」
軽く首を振って一蹴している間にロッドノエルは答えを被せてきた。
_はい。お願いします。
まず最初に私と沙耶は直系の一族でな?
ことの発端は太古の昔現在の生き物の祖となる旧人類がいたそうだ。
それが数多の時を経て枝分かれをしたものが、私達魔族とお前達人間だそうだ。
「でもそんなら沙耶ちゃんは関係ないんじゃ、、、」
そうここまでならな?しかし、言ったろ直系の一族だと。
かつて魔族の瘴気に惹かれ魔族を愛した女が人間の姿をしていたと聞く。
どうもそれが元世の人間だったのではないかとな?
「そんなん」
しかし、魔族も次第に熱が冷め女も冷めて、女は元世に帰ったそうだよ。
どこへ帰ったのかまで確認はしていないがな。
大方術でもかけていたんじゃないか。
その女はろくに魔力も持たない子供を連れていたそうだよ。
数ある逸話の中でもこの話だけは絵本にまでなって語り継がれている。
私達の世界ファーリア界全土にな。
元世には恐らく伝わっていないのだろうな。
異世界など存在しないとまで言っているのだからな?
「大方後から生まれたお前達元世人は元世の都合に擦り合わせて歴史を作り変えられているんだろう」
_それ本当なの?
本当だともサーヤ。
話が逸れたな?
「ちょい待ち!今サーヤって」
話は最後まで聞いて貰おうか。
その魔力なしの子供というのが、沙耶の先祖だったと私も後から聞いた。
沙耶の姿で母親からな?
「沙耶、起きてる?話しておきたいことがあるの」
夜中、沙耶の部屋を訪れた母親はリビングで魔族のこと、異世界のことを話した。
沙耶も中でそれを聞かされていた。
「ごめんね。沙耶こんな家系に生まれきて」
母親が力強く抱きしめてくれる腕の中で沙耶はずっと泣いていた。
_変わらなくていいのか?
沙耶にそして母親に聞こえるように尋ねても、二人は揃って首を振り、
「こんなみっともないとこ見せられない」と口を揃えた。
翌日、沙耶は私に相談してきたよ。
「どうしよう。私もう真樹ちゃんと一緒にいられないのかな?」
_大丈夫だ。今まで通りやればいいさ。
「おはよ。サーヤ!誰と話してんの?」
屈託なく首に腕を回して挨拶をしてきたものだから、
「何だ。聞こえていたのか」
_ちょッロディ、ダメだったら!
「この方が話が早いだろう?」
「お?サーヤ?何面白いことしてんの?私も混ぜてよ」
堪えられず含み笑い、
「ッほらな?」
_!
「後悔するぞ?」「望むところだ!」
おかげでサーヤと真樹はかけがえのない親友となった。
後方の既に息の止まった親友を一瞥して、
「サーヤは幸せ者だよ?ありがとう真樹ちゃん」
今の話で沙耶ちゃん自身は認めていたことがわかった。
でも、私は俄には信じ難かった。
もやもやする頭の中を沙耶ちゃんの声が貫いた。
ご丁寧にロッドノエルは沙耶ちゃんの声を使いよった!
それでカチンときたウチは怒りを抑えるのに必死で、
「そんなん知らん!でも色々あって沙耶ちゃんの中にいるいうんはわかった!
でも、借りたもんは返すんが筋やろ!?」
理解が追いついてこなかった。
_こんなことが言いたかったんじゃないのに。
「何を聞いていた?これは借りているのではない。私達の体だ」
覚悟を決めろ。
先程、勇者カナも自分の親友を殺した。
お前も後輩を手にかける覚悟を持て。
_何、、、やて?
「嘘や!!!」
可奈ちゃんに限ってそんなことあらへん!
「実は先頃魔王に謁見を求めた元世人がいてな。
その者が勇者カナの親友であったと聞いている」
血の気の引いていく音が聞こえた気がした。
第弐拾肆~弐拾六までのロケ地は元世の首都近郊通学路です。
沙希ちゃんと沙耶ちゃんは先輩と後輩、一学年間違いましたごめんなさい。
今この場にいるのは敵の幹部と共存するJCと勇者サキ。
そして沙耶と沙希を引き合わせてくれた沙希のクラスメイトの真樹ちゃんは今かなりマズイ状態で横たわっています。
ここでカナちゃんが親友を殺したことを知らされたサキちゃんは、、、
次回、サキ編アルヴィスゲート お楽しみに。