第弐拾肆幕:元世の参魔将 元素x分解<ケミストリー>
異世界ファーリアの方で一つ、大きな魔素の気配が弾けた。
「ッ消えちまったか」
「彼女には荷が重かったみたいだね」
「こっちも急がないと勇者に追いつかれるだろうな」
都会の只中、彼らは人間に擬態して潜伏していた。
雑踏に紛れるその姿を見咎める者は一人もいない。
彼らの目的は只一つ。
魔皇妃ロッドノエルの帰還。
その手伝いだった。
カーン、コーン、、、
通学路、二人の女子生徒が仲良く雑談に興じながら一緒に下校していた。
白を基調とした制服はこの学園の気品の高さを表していた。
その制服はこの近郊にある私立ローザリア学園小中学校、この地域で知らないものはいないと言われる共学校だった。
教育方針は「キミよ。自由であれ」である。
自分だけで生きてはいない世の中を教えており、偏差値競争からはやや距離をおいていることでも有名で半ば専門学校のような位置づけでもあった。
「だよねー」
「やっぱさあの二人って」
その学園の生徒の前方を遮るような位置に黒いロングコートの男が一人、頭を垂れて、
「お迎えにあがりました。我が主よ」
俯き加減なその顔は図り知れず怯えた二人は、
「いくよ?」
ガシッ
先に友人の方が正気を取り戻し手をとって、男とは逆の方へ走り出した。
友人に手を引っ張られ男を振り払って走るものの距離は変わらず、
この段になってその違和感に気づいたのは友人只一人。
友人に手を引っ張られていた方が不意に男の方を振り向いた。
しかしどこか目は焦点を結ばない虚ろなもので、、、
髪もいつもの長さではなかった。
_自慢の黒髪が。
そういえば本人から相談されたことがあった。
「真樹ちゃん私ね?実はもう一人いるんだよ?」
何のことだかわからず、その時は何も言えなかった。
だが今ならわかる。
_こういうことだったんだ。
その瞬間、心の奥がチクリとした気がした。
薄い飴色の髪を靡かせるほど長くして、
「久しいなクロムウェル。わざわざ元世くんだりまでの出迎えご苦労だった。
他はどうした?お前一人か?」
「ちょ...どうしたの!?沙耶ったらそんな声出して何かの芝居!?」
突然のことに気持ちが追いついてこなかった。
_違う。あれは沙耶ちゃんが言ってたもう一人なんだ。
「いえ、ですが別件で動いております故に」
「そうか。なら仕方ないな」
「ちょっと!」
「では」
「すまないが、私はまだこの元素体に慣れておらん。故に、、、」
ずっと掴まれたままだった手を捻り上げて、
「お前の元素を頂くとしようか」
と真樹に微笑みかけた。
すると友人の髪の先と捻り上げた手、その爪辺りから光が散り始め、、、
「そこまでよ!」
うわ。こんなん初めて言ったよ。
どうしよう。
それにも構わず元素分解を進める沙耶の姿をした何者かに、、、
「待ていうんがわからんのか!」
「そこで待つ理由がない」
取りつく島もない沙耶。
「勇者が待ったをかけてんだ止まれ!」
あぁあ自分で勇者とか言っちゃったし、ちょーイタい子じゃん私。
「お前が勇者なのはよく知っている。だから急いでいるんだ」
最早沙耶ではなくなった女子中学生を前にやむを得ず、剣を構えたサキ。
「沙希ちゃん。助けて、、、」
表情はそのままに、沙耶の声だけがその口から漏れた。
「えぇい忌々しいガキめ!沙希の魔素を嗅ぎとったとでもいうのか!」
魔皇妃は自分の頭を掻きむしり力で抑え込もうとする。
「逃げてッ!」
沙耶は残った方の手を無理やり動かして友人を突き飛ばした。
沙耶の突然の抵抗にほどけかかっていた手から離れた真樹の体が宙を舞う。
思いがけないほど力が入ってしまった手は真樹の体を何度かバウンドさせてしまった。
「ッ.....」
ほどなくして倒れた真樹の口許から滴り落ちる血に沙耶は
「うぅあぁあぁあ...!!」
「ッいいぞ!これだ!この感情堪らなく心地いい!」
「五月蝿い黙れ!沙耶ちゃんはそんな子やない!」
飴色の髪を揺らして堪えるようにクックッと嘲笑う魔皇妃。
ここで少し解説を。
「五月蝿い黙れ!沙耶ちゃんはそんな子やない!」について。
実はこの二人、沙耶と沙希は直接の面識はありません。初対面です。
ただ沙耶も沙希も友達繋がりの関係です。
その共通の友達が今沙耶ちゃんと一緒に歩いていた子です。
その子から聞いた沙耶ちゃんのイメージで口をついて出た言葉です。
「仲間を殺して喜ぶ悪魔と一緒にするな」という気持ちからです。
「サキの魔素を嗅ぎとったとでもいうのか!」
前述のゆうちゃんの発言通り、魔族にソーマはありません。
そのため概念もなく参魔将や魔皇妃はソーマと魔素を同じものと考えています。
追伸、沙耶ちゃんは演劇部新入生です。
あとロケ地は通学路住宅地近くです。