第弐拾参幕:グラムフェルトの正体
開戦、一回戦目とは違って圧倒的な強さだった。
私もいくらかレベルが上がっているはずだが、全然比較にならない。
_これは。
マズい。負けるかもしれない。
足りない分を補える何かもないし、ホントに根性とか勇気とかそんな曖昧なもので何とかしなきゃいけないかも。
_奇跡ってのもある。
それに頼るのは正直あり得ない。
あり得ないから奇跡なんだし。
「随分饒舌ね?まだ余裕があるのかしら?」
はは、全然?
あるワケないじゃん。
肆魔将の本気なんて受け止められる器じゃないのよ私は。
_クァァァァァ!
ボクを出せ?
ごめん。すっかり忘れてた。
早速暗唱に入るものの攻勢を避けながらの旋基暗唱はやっぱキツい。
シャッ
こんなことならストックしときゃ良かったよ。
ダンッ
爪、足、ブレス、、、を持ち前の運動神経で避わし、と危ない!
ゴォォォォォッ
あと少しバックステップが遅れていたらヤバかった。
相手も苦労しているみたいだけど、こっちは掠りでもしたら終わりだ。
でも、暗唱は終わったよ。
「おいで」
やっと出れたというように勢いよく、グラムフェルトの巨大な顎に突撃する不死鳥。
氷の妃将なので相性はよくないはず。
突然のことに対応できなかったグラムフェルトはまともにアッパーを食らってしまう。
「ッ....!」
流石の肆魔将もこれには堪らず、またも変身が解けてしまう。
ドサッ
高空から強かに打ち付けられた体が私の目の前を転がる。
それでも立ち上がる彼女の姿に思わず、
「ホントは人間なんでしょ!?もういいじゃない」
私は今一度説得しようとするが、急に温度の下がった声でグラムフェルトは、
「何それ?その言い方好きじゃない」
ベリーショートの黒髪をかきむしりながら、
大体こっちの事情も知らないで無責任よ貴女?
私は絶対に負けたりしない。
特に貴女には負けられない!
龍の姿を失ってなお、向かってくるグラムフェルトに躊躇っている私を、、、
「闘え勇者カナ!この私と!」
焚き付ける声が響いた。
それで私は正気を取り戻した。
彼女のどこにそんなソーマが残っているのか、グラムフェルトは龍の時よりも速く動いた。
終いには私の呪紋も切れて、成す術がなくなった。
その瞬間、グラムフェルトの姿が消えたように霞み、ギリギリの攻防を余儀なくされる。
わかるのは近くをすり抜ける風と、正面に寄った時の姿がチラ見できる程度だ。
避けられるのが自分でも不思議なぐらいだった。
不死鳥にはその姿が見えているらしく、的確に攻撃を当てていく。
私よりずっと見えていた。
野生の勘みたいなものもあるのかもしれない。
或いは見えるとかは関係ないのかも。
_龍脈を辿って?
今まではレベルによる力押しだった。
ここらで真剣に龍脈とか意識していかないとこれからの敵には勝てないかもしれない。
不死鳥が牽制してくれているおかげで、何とか視認できるそれを辿ってまずは大まかなルートを描き、目を閉じて龍脈に集中する。
不思議と風の流れが視えはじめた。
敵の魔素、その動き。
_レベルだけじゃやっぱダメなんだね?クロエ。
_これ覚えとかねぇとレベルだけじゃ新しい技閃かねぇぞ?
闇雲にレベルだけを上げていた私は身につけている技が殆どなく、こういうことでもないとなかなか覚えない状況にあった。
視える。
近づいてきたグラムフェルトの腕を、、、とうとう掴んだ。
「やるじゃない」
泥だらけのその顔はどこか満足そうで、
「圧倒したまま殺すのは正直ないなと思ってね」
掴んだんでしょ?
動きの視方。目で追えない相手の捕らえ方。
何で剣でトドメを刺さなかったの?
「それは違うと思ったから」
後悔するわよ?
言って彼女の姿が消えた。
さらにスピードが上がった。
だが、今度は視える。
だから余計にその速さが実感できた。
視えているのは殆ど彼女の残した軌跡。
それを断つことで何とかなるのかこれは?
ならないかもしれない。
ならないなら、ならせるしかない!
パキィィィィンッ
凄まじい火花が散り流石に剣も折れたんじゃないかと思った。
「クァァァァァ!!」
不死鳥の色が白熱化して黄色くなっていった。
思いっっっきりグラムフェルトに突撃をかける!
ドンッ
焰が剣に燃え移り、まるで最初からそういう剣だったみたいに剣は焰を噴き上げた。
「らぁぁぁぁぁ...ッ!」
気合い一閃。
両側から挟み撃ちにされたグラムフェルトは、咄嗟に周囲の魔素を集めて防御壁を展開するが間に合わず力負けしてしまう。
その唇はソーマを口にして気を失った。
_可奈ちゃん。やればできるじゃん。
今、何か懐かしい匂いがした。
リペア前に読んだことのある方には申し訳ありませんが、今後の展開のため一部書き直させて頂いております。