第壱幕:魔龍石採掘場
「とはいうものの」
王宮に用意された豪奢なベッドに横になって一人ごちる。
つい数日前まで自分の部屋でタブレットをいじっていた私に一体何ができるのか、いくら考えてもわからなかった。
_ゲームならヒントくらい出てくるんだけどな。
_誰か攻略本を下さい。
泣きそうになっていると、
トントン
霞むほど遠くにある扉は絨毯のような素材でできていて、くぐもった音はそれでもここまで届いてきた。
「はい」
カナが力なく応えるとバンッと重そうな扉を勢いよく誰かが開き、勝手にコケた。
ドタッ
「何やってんの」
冷めた目でカナはクッションのような枕に顔を半分ほど埋めたまま言った。
この子は数日前私が異世界召喚(?)された時に、王様からお世話役を仰せつかっていた子供だ。
つまり、私が世話をされている方だった。
他の人から聞いた話だとメイド長だとか。
_この国大丈夫か?
不安で頭がいっぱいだった。
「へへ、思いっっっきりやったらコケちった」
テヘペロとでも聞こえてきそうな仕草でその子は言った。
「クリュー」
げんなりしてカナは
「それで?何の用?」
「何だっけ?」
終始この調子だった。
「もういい。私が聞いてくる」
言って手早く身支度を整え部屋から出ようと、
グイッ
クリューはふるふると首を振っていた。
_?
思い出したらしい。
聞きに行けば間違いなく捕まる。
捕まると二度と会えなくなる。
そう感じたクリューは焦燥感にかられて、一目散にここまできた。と話した。
「詳しく聞かせて」
カナはクリューの目の高さまでしゃがみ込んでそう言うと、
少しだけ目線を上にズラした。
目を見て話すのは威圧感がある。
しかし、安心させるには視線を合わせる必要がある。
ではと間をとったのがカナ独自のこれだった。
カナは今クリューの眉下を見ている。
クリューが落ち着くように優しく両肩に手を添える。
ゆっくりと息が整っていくのを感じながら、
1
2
3
と心でゆっくり唱える。
「あ、あの」
クリューの語った内容は心苦しいものだった。
_そりゃ言いにくいわ。
慌てて言いにくるのも頷けた。
クリューはまだ子供だ。
残念なところも沢山残っている。
そのクリューがこんな内容を聞いたら、、、
廊下を歩いているとうっすら開いた扉から若い男の怒声が聞こえてきた。
「バカな!あんな小娘に何ができるというんですか!」
はじめは自分のことで新人と揉めているとクリューは思ったそうで、
「人を見た目で判断するな」
しゃがれた声は聞き覚えのある声で、いつも自分をフォローしてくれる老獪騎士長。この国一番の古参だという。
彼によると魔龍石採掘場へ私を向かわせるという話が議会で持ち上がり、新人くんはそれに納得がいかず騎士長に食ってかかっていた模様。
それにしても、私の知らないとこで知らない話がすっかり決まっていた。
「それで?私はそこでどうするって?」
ふるふる
_やっぱりかぁ。
怖くなってそこからは逃げ出したらしかった。
「じゃあ、魔龍石採掘場って?」
「そ、その」
まずは魔龍の説明からだった。
魔龍というのは正確ではない。とクリューは言う。
「 」
余計な口は挟まずにクリューのペースに任せる。
魔龍は元々12石龍という守護龍だった。
それが魔王の強い魔力に負けてその殆どがここ数百年の間に次々に悪に染まっていったという。
それが魔龍。
「じゃあ、魔龍石は?」
敢えて質問を挟んでみた。
それは一種のパワーストーンのようなものだと言う。
特定の条件が揃えばそれで結界、要するにバリアのようなものが作れるらしい。
_それスゲー。
とりあえずメモメモ。
「12石龍は?」
大昔からいるキレイな石のドラゴン!
ここだけはつらつと話されてもなぁ。
うん。
12体いる守護龍だということがわかった。
それがもう殆ど存在しないかもしれないことも。
「わかった。ありがと」
くしゅくしゅと頭を撫でると嬉しそうにする犬、、、じゃないやクリュー。
ふわふわの毛並みは触れているこっちまで気持ちいい。
_ホントに犬みたい。