第拾八幕:クリュー!?
山頂、龍の形をした祭壇の姿が一歩ごとに見えてくる。
各所にくぼみがある特徴的な形。
そこに一つずつ輝石をはめていく。
カコ、カコ、カコ、、、
暫く、、結論から言って何も起きなかった。
龍の各所に輝石を設置して、すぐ何か起きるワケでもなく私達は少し待った。
_アレ?
何の音もしない静かな時間、、、
「おぃ!聞いてんのか!?」
え?
「そっから逃げろって言ってんだよ!?」
何の音もしなくなってたのは私だけだったようで、時間も音も普通にあったようだ。
五つの輝石の成せる業なのか、二人の勇者に誤差を生んでくれたらしい。
時間が二人の間で大幅にズレた。
おかげで私は逃げ遅れてクロエはそれを助けることもできずに、クリューだけを引き寄せるに留まったらしい。
私は大きな樹木が倒れてくるのをただ黙って見ているしかできなくて、、、
_お前はここで死んではならない。
_しゃーねぇな。
_今回だけね?
目の前に三色の精霊が現れて樹木を砕いてくれた。
_あれは?
「仲間、なの?」
「カナちゃん!」
呆けた私を精霊としか言い様のないものが守ってくれた。
「大丈夫?」
「なかなかやるな」
クロエが私を労った。
_?
どうも私が大樹を潰したと思っているらしい。
「う、うぅん。私じゃない」
しっかりと首を振って否定した私はことの顛末を話した。
突然、誰かの声が頭の中に響いたこと、その後三色の精霊の姿を視たこと。
蝙蝠を大きくしたような鳥に、お茶目な光る毛玉?
それに煙るほどの雪に肌を覆われた九尾の狐、でいいのかな?
その精霊が樹木を砕いて消えたこと。
_アレは私が召喚したワケじゃない。
第一、三人とも見覚えがない。
私は「火」と「風」しか使えなかった。
数も合わない。
_まだ見ぬ誰かなのか。
これから仲間になるかもしれない誰かなのか。
「そうかもな」
軽く私の肩を叩いて同意してくれるクロエ。
助かったんだし良かったじゃねぇか。とクリューがクロエの口マネ。
_妙なスキル覚えたな。
おかげで少し気が晴れた。
「それにしても」
輝石を置いてそれで終わりとはな。
祭壇の変化にためつすがめつチェックを入れながらクロエは言った。
「ちょっと待て」
祭壇に、、、
何か見つけたらしい。
その部分を擦って読みやすいようにしていく。
輝石の、、、れ、、、祭、、封、、、
「輝石の勇者現れし時、祭壇の封印は再び解かれることを余儀なくされる」
_クリュー!?
クリューのいた方向から聞こえたそれはしかし、クリューのものではなかった。
クリューに瓜二つの誰かがそこにいた。
_髪の色が違う。
当のクリューは見たことのないほど怖い形相で女性を睨んでいた。
_あんなクリューは初めて見る。
この世界に来て初めて私は人を怖いと思った。
「お姉ちゃんッ」
噛み締めるような怨みいっっっぱいの声でクリューは言った。
実の姉と何があったらクリュー<山吹>がこんな顔をできるんだろうか。
「それより」
クロエが進みでる。
「輝石の勇者についてね?」
クリュー<赤毛>はクロエの言葉を遮るように言った。
「ちょっと貴女さっきから失礼ね?私はクリューじゃないわよ?
トラットリア家にはもう籍をおいていないもの」
そうよね?クリュー?
ギリギリと砕くほど歯を強く噛み締めるクリュー<山吹>。
どうやらその件とクリューがこれほど彼女を怨む理由は密接に関係しているらしい。
「私たちはトラットリア家代々のしきたりに嫌気がさして出ていったの」
それから三人目のクリュー<萌木>が続きを言う。
「本名は名乗れない。王家に仕えるのは当たり前。
家に帰っても毎日勉強ばかり、、、目も覚めるってもんでしょ?」
何言ってんのこの人達。大体どこもそんなもんでしょ?
本名名乗れないのはどうかと思うけど、少なからず人は誰かの言うことを聞いて生きている。
やることないよりマシじゃん。
ムカつくヤツがいてもそれもたまのことだし。
「ふぅ」
ため息をついたのは私の隣にいるクリューだ。
「バカヤロウ!」
!?
「アンタたちは自分の都合で勝手に出ていっただけじゃねぇか!
嫌気なんてそんなキレイなもんじゃねぇだろ!」
クリュー!?
クロエも目を丸くしている。
「王家の皆さんはよくしてくれるよ。
アンタたちが考えているようなちゃちな関係なんて一つもない!
それを確かめもしないで、ただ出ていくなんて何考えてんだ!」
どうせ門を潜ったこともないんだろうとか、籍を戻す気もないんだろうとか、込み入った話もしばしば、、、
「大体、、、」
「そんくらいにしとけよ?」
クロエが敢えて止めに入った。
それくらい耳に痛い話もあったし、何より相手も沈痛な面持ちだったからだ。
「わかった。でもこれだけは」
最後にクリューは、
王様は今でもアンタたちを待ってる。謁見くらいはしにきてあげて。と締めた。
「輝石の勇者について聞かせてもらえるか?」
クロエが仕切り直した。
「そう、ね」
流石にバツが悪いのか、俯いたままの赤毛はとつとつと話し始めた。
三色の精霊については今のところ予定してません。
クロエとクリューには見えていないので、「拳」あるいは「剣」でカナちゃんが潰したように見えています。
クリューがいっぱい。そしてクリューがキレた。
末っ子が噛みつく構図になっています。
苦手な方はごめんなさい。
次回輝石の始まり
トラットリア家しきたりを軽く説明していきます。
そんなにがっつりはいきません。
今回は輝石の勇者にスポットを当てます。
ではどうぞ。