第拾禄幕:キーワード
「何のこと?」
私は震える声で無理やりシラを切った。
こそっと私は胸元に手を差し込んだ。
「大事な人なんでしょ?」
カマをかけたつもりだろうか。
「残念ね?私とクロエは初対面よ?何とも思ってないわ」
龍は冷めたように鼻でため息を一つ、
「だってさ?可哀想なクロエ」
_?
「そっか。そう簡単にはいかねぇよな?」
その瞬間、ほんのりクロエと私の体が光り始めた。
連携魔法発動
「しまった!この光は!?」
私達はここにくる前に合言葉を決めておいた。
ロケ地:<四合目付近青ガレ>
ロッククライムを終えた後クリューと合流して、テントを張っている時のことだ。
「いいか?こっから先どんなことがあるかわからない。
だから、合言葉を決めておこうと思うんだ」
_合言葉、ですか?
「お前は<初対面>俺は<簡単>だ」
いざとなったらそれを言って紋章に触れろ。
たしか、クロエはそんなことを言っていた気がする。
_実はしっかり覚えてないんだけどね。
正解だったようだ。
地面に捨てられるように伏していたクロエと龍の巨体に向かい合う私の体がほんのりした光から強い輝きに変わり始めた。
「かくなる上は!」
身動きの取れないクロエをグラムフェルトが狙う。
「させるかよ!」
カキンッ
アレ?私!?
いきなりクロエみたいな話し方になってしまった私がクロエの体を庇いに入った。
でもアレは私じゃない。姿形は私だけど。
_アレ?私は?
クロエの体に入ったみたいで体中が痛かった。
痛覚が麻痺寸前までいく程度には。
「ちょっと借りてるゼ?」
ゴォォォォッ
おぃ!そんなイケメン顔すんなよ私の顔で!
「わ。スゴいカナちゃんとクロちゃんの共鳴値上がりっぱなしだよ!」
そんなん測ってないでさっさと逃げなさい!
ガンッ
「やだ。私はここから逃げない!」
別に私は死ぬつもりはない。
_あくまで「つもり」はね?
でも、クリューがそんなこと言ったら私にフラグ立っちゃうじゃん。
ただでさえ入れ替わったせいで死にそうなんだから。
勘弁して下さい。
ッガ
ここはカッコよく撃退するシーンにさせて下さいよ。
「これが紋章の力だというの!?」
忘れてた。
私が無駄口してる間に二人はそれなりに戦っていた。
_首を上げるのもキツイほどの激痛だから。
音と、、よくて声くらい。
二人の勇者から放たれた紋章の光に照らされてグラムフェルトが人間の姿に戻り、さらに弱体化を始める。
具体的には縮み出した。
終いにはクリューくらいまで縮んで、当のクリュー曰く
「数値も縮んでいくよ!?」
紋章は相手を弱体化させるのか。
「斬り裂かれろ!」
_ダメ!
「ダメ!」
クリューと私の心が重なった時、クリューが幼女を庇う形で前に立ちはだかる。
潤んだ瞳でクリューの背中を見つめる幼女と、寸前で刃を止めた私の間でクリューの山吹色の髪がさらさらと舞い散った。
_!
瞬間、その幼女の相貌が誰かと重なった気がした。
「ごめん。ありがとうクリュー」
幼女になったグラムフェルトの体からはソーマの気配を感じなかった。
_たぶん。
グラムフェルトは弱体化に伴ってソーマが制御できなくなったのだろう。
能力を失った人を倒すのは勇者のすることじゃない。
クロエ<?>もそう思ってくれたのか剣を収めてくれた。
「私を倒さないの?」
グラムフェルトの声で幼女は言った。
幼女とは思えない底冷えのする笑みを浮かべながら。
「倒せるかよこんなチビ。もう何の力も持ってないんだろ?」
おもむろに私に近づいてきた私<クロエ>が私を背負って歩き出した。
はい。ちょっとややこしくなっているので解説です。
今カナとクロエが入れ替わっています。
「斬り裂かれろ!」
このセリフはカナちゃん<クロエ>が言いました。
斬りかかっているのもカナちゃん<クロエ>です。
では続きをどうぞ。