表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想オタクの非現実的な日常  作者: 楪 彩郁
43/47

人間とあやかしの恋 1

 稲葉弥宵は、たまに思う。


 今、目の当たりにしているこの現実は、もしかしたら自分が妄想した世界なのではないか、と。あまりにも非現実的なことが続きすぎたのと、弥宵がこうだと願えば、だいたいその通りに叶ってしまうことが、その疑問を膨らませていた。


(いつか、目が覚めて……長い夢を見ていたって気付くのかな)


 ならば、夢から覚めずに、この楽しく心温まる世界でずっと過ごしていたい。そう思うのだが、残酷にも目前に迫ってくる大学入試が、これが現実だと教えてくれていた。


 羊吉も実兎も天馬も、寺に残ることを喜んで選んでくれた。実兎には名前を再び返還してあげて、また一緒に学校に通っている。羊吉と天馬を来訪の目的としていた客は徐々に減り、今、寺は以前の穏やかさを取り戻しつつある。


 そして、丸岡という記者のフリをしたブローカーは、弥宵が呼んだ警察官により連行されていった。


「天馬、そっちの掃除、終わりそう?」

「あ、はい! 弥宵さんは先に上がってください。お勉強があるんですよね」

「うん、ありがとう」


 秋晴れの下、休日の掃除を終えた弥宵は、道具を片付けて家に上がることにした。その背後で、足音がする。


「結局、皆出て行かなかったのか?」

「なんだよ。つまんねー」

「あ、鷹臣さんと直鷹さん!」


 本堂に繋がる通路を、二人が肩を並べてやってくる。彼らの台詞に、弥宵は笑った。


「二人が撃退してくれた人、先日警察に御用になったようです。その節は大変お世話になりました」

「そうか。弥宵も、顔が晴れやかになったな」

「へへっ。今、毎日が楽しいですよ。あの時は見苦しいところをお目にかけてしまって……」

「まったくだ。あいつらがいなくなって、お前がさぞかし寂しがってるだろうと思って、来てやったのに」

「そうなんですか? 直鷹さん、ありがとうございます! あの、いつでも会いに来てくれたら、それだけで嬉しいですよ」


 弥宵が礼を述べると、直鷹は鼻の頭を掻いた。照れくさかったようだ。


「おや? おやおや? 直鷹……お前」

「な、なんだよ」

「……惚れたのか?」

「ばっ! 違う! だって、こいつは……」

「弥宵ーっ!」


 名前を呼ばれ、弥宵は声のした方を振り返る。この声は――弥宵の大好きな声だ。


「羊吉、どうしたのー?」

「お昼ご飯できたー! 天馬も連れてきてー!」

「はーい! じゃあ、呼ばれたので、また」

「ああ、また……」


 直鷹はまだ何かを話したがっている様子だったが、弥宵はそこで切り上げて家の中に戻ることにした。ちょうど片付けを終えた天馬を伴って、台所前の食事スペースと向かう。


「あ、秋刀魚(さんま)の塩焼きだー! おいしそう!」

「味付けされてあったのを焼いただけだけどね」

「カボチャの煮付けもある!」

「こっちは弥宵に習った通りに作ったよ」


 羊吉は日々の料理の手伝いから学び続け、今では包丁を扱えるし、一人でもある程度作れるようになった。レパートリーは増やしている最中だ。


「うん、おいしい。ね、天馬」

「はい。すごいです。俺も作れるようになりたい」

「よかった。おかわりもあるから、たくさん食べてね」


 背の高い彼にはいささか窮屈で可愛すぎるエプロンを着けて、羊吉はせっせと食事の世話をしてくれている。


(これは……いい旦那さんになりそう)


 掃除、洗濯、炊事はどれを任せても問題ない。加えて、たくさんの女性たちを虜にしたあの容姿なのだから、弥宵が骨抜きになるのも仕方がない。じっと見つめていると、視線に気付いた羊吉が笑いかけてくるので、弥宵は慌てて食事に集中した。


 今日は、実兎がクラスの友達と出かけており、慎太郎も檀家への挨拶に出ているので、寺にいるのはこの三人だけだ。手分けして作業すればすぐに家事を終えられたため、この後、弥宵は自室で受験勉強をすることになっている。


「ごちそうさまでした。おいしかった!」

「うん。お粗末様でした。調味料のみりんと醤油がなくなりかけだから、僕が後で買ってきておくね」

「ありがとう、助かる。夜は私も一緒に作るから。それじゃ、部屋に籠もるね」

「頑張ってください、弥宵さん」


 羊吉と天馬を残し、弥宵は自室へと向かった。本やテレビゲームの類いは、全て段ボール箱の中に入れ、簡単には取り出せないよう、ガムテープで何重にも封印してある。今までの勉強量が圧倒的に足りなかったため、城山からは面談で「一日あたり、あと三~四時間は増やすように」との指示があったのだ。


(来年もここから通いたいから……第一志望、合格するぞ!)


 今までなら、誘惑に負けて逃げていたかもしれない。だが、今の弥宵には確固たる目標がある。一人暮らしになろうものなら、羊吉たちと過ごせなくなってしまうからだ。そしてもう一つ、第一志望に合格したら、羊吉に告白すると決めていた。だから、何が何でも受からなければならないのだ。


 気合いを入れて取り組むこと、約二時間。外も静かで集中していると、廊下をバタバタと走る音が聞こえて、弥宵は我に返った。直後、部屋のドアがノックされる。


「や、弥宵さん!」

「天馬、どうしたの?」


 顔を青ざめさせた天馬が、駆け込んでくる。


「た、大変です! 羊吉さんが倒れました!」

「……えっ」


 それはまさに、青天の霹靂(へきれき)。今までで一番、想定していなかった事態だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ