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妄想オタクの非現実的な日常  作者: 楪 彩郁
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“家族”とあやかし 11

「それと、うさんくさい記者の件だけど。弥宵、相手の名前とか、どこの出版社に務めてるとか、何か分からない?」

「あ、待って。名刺を貰った」

「貸してくれ」


 弥宵は丸岡の名刺をポケットから出し、城山に渡した。彼は出版社の住所を打ち込み検索をかけたが、それは実在しない会社であることが判明した。住所は空き店舗になっており、電話番号も会社名も、何もかもデタラメだ。


「うそ……」

「記者を装った、ブローカーだな。稲葉があやかしたちのことを正直に話さなかったのは、正解だった」

「ブローカー……ってなんですか?」

仲買人(なかがいにん)のことよ。貴重なあやかしがここにいると分かったら、彼らを捕らえて、そういうものを専門に扱う業者に、高値で売ろうと目論んでいたんでしょう」

「な、なにそれ……!? そんな酷いことをする人がいるの!?」


 次々と知らなかったことが明らかになり、弥宵は呆然とした。ならば、今彼らをここから出しては、余計に危ないのではないか。


「じゃあ、その丸岡って人がまた来たら……」

「不審者として警察に通報して問題ない。職務質問をされたら逃げるはずだ」

「分かりました。ああ……本当によかった。ありがとうございます!」


 もう何度目になるか分からない涙を流して、弥宵は壁にもたれた。真由香が座布団から立ち上がり、弥宵を抱きしめる。


「弥宵、頑張れ。ちゃんと思いを伝えなさい」

「……うん」


 背中を励ますように叩かれ、弥宵は泣くのを止めて頷いた。慎太郎に向き合い、一度深呼吸をする。


「お父さん、今からここに、羊吉たちを呼んでいい?」

「……何を話すつもりなんだ?」

「もちろん、出て行かないでってお願いする」

「それはだめだ。彼らはもう気持ちを固めた。それを揺るがすようなことは、許可できない」


 慎太郎は、弥宵からふいっと視線を逸らす。きっと、弥宵の決心を知るのが怖いのだ。ならばもう、強引にでも言うしかない。


「私、皆をもう家族だと思ってるから。皆もきっと、私には心を許してくれてた。実兎は、泣きながら、わざと嫌われるようなことを言ってきたんだよ? それってもう、取り返しのつかないくらい、深いところで繋がってる証拠だと思う」

「……だめだ。あやかしと人間は、本来棲み分けをしなきゃいけないんだ」

「お父さんだって、本心では皆と一緒にいたいんでしょ? 『可愛がるふりをした』なんて言って、ごめんなさい。あれは、家族が増えたみたいで本当に嬉しかったんだって、今なら分かる」

「…………」


 慎太郎の鼻腔が膨らみ、目元に涙が溜まっていく。反論がないということは、図星のようだ。


「魂を持って行かれるくらい、私は全然怖くないよ。むしろ、あっちの世界でも、また一緒にいられるってことでしょ? 素敵な仕組みだと思う」

「……弥宵」

「だから、みんなで一緒に過ごそうよ。いつ最期が来ても、それまでの人生、楽しい方がいいもの」


 慎太郎よりも先に、真由香がもらい泣きする声が聞こえてきた。弥宵はつられそうになったが、ぐっと堪える。慎太郎は、額を手で押さえ、涙を流すところを見られまいとしているようだ。


「そうか……。やっぱり、お前は母さんそっくりだなあ」

「え?」

「お人好しで、いつでも周りを気にして、優しくて涙もろくて。でも、心の強さは弥宵の方が上かもしれない。大きくなったな……」

「……うん」


 弥宵は両頬を叩き、父の了承を得られたことで、羊吉たちを呼びに行こうと客間の襖を開いた。しかしそこには、三人の姿が既にあった。


「きゃっ! えっ、皆いつからそこにいたの?」


 彼らは綺麗に一列に並び、羊吉は照れくさそうに笑い、実兎と天馬は鼻をすすりながら泣いている。


「慎太郎さんに、ここで待っておくように言われて」

「ずっと聞いてたっての。なんだよ、泣けるじゃん……」

「盗み聞きして、すみません……でも俺、とっても……嬉しいです」


 そんな彼らの顔を見てしまえば、弥宵はもう、堪えきれなかった。破顔して彼らに抱きつき、「ということなので、出て行かないでください!」と大声で叫んだ。はっきりとした返事はなかったが、彼らの笑顔と涙が、その答えだった。

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