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妄想オタクの非現実的な日常  作者: 楪 彩郁
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“家族”とあやかし 6

「ねえ、弥宵。慎太郎と喧嘩でもしたの?」

「……喧嘩、なのかな。言い合いはした」

「そんなに? なんか意外なんだけど……」


 翌朝、目を真っ赤に腫れさせて登場した弥宵に、皆は気を遣って何も言わなかった。学校に登校しながら、ようやく実兎が話題を振ってくる。彼なりに心配してくれているらしい。


「進路のことで、もめた?」

「……ううん、進路には賛成してくれてる。それ以外のことで、私が余計なことを言ったから」

「慎太郎も変なところで頑固だよね。弥宵が大事なのは分かるんだけどさ。まあ、ゆっくり仲直りできるでしょ」

「ありがとう、実兎」


 弥宵の心に、じわりと温かさが広がる。彼らを好きにならない方が無理だ。酷い仕打ちをして、寺を追い出すなんてことも、できるはずがない。ただ、慎太郎の言った、魂を道連れにされるという話が心の奥に引っ掛かって、彼らのことを守りたいと思う気持ちに影を落とす。


(私がこんな気持ちでいたら……皆いずれ気付きそうだ)


 特に羊吉は、弥宵の変化に(さと)い。本当によく見ている。今朝も何か言いたそうだったが、昨夜の脱衣所の一件もあってか、口をつぐんでいた。


 それに、弥宵の母・日向が神様だったというのも、一朝一夕(いっちょういっせき)には信じられない。あるのは慎太郎の言葉だけで、証拠はないのだ。もしも母親が神であれば、写真や遺留品の類いが一切ないことに納得はできる。


 だが一方で、弥宵は普通一般の人間と変わりはない。強いて特異点を言えば、妄想が大好きで、もしかしたら変な力があるかも、というくらいだ。神様のような大それた力はない。


 弥宵がぼーっと考え込んでいるうちに、一日は瞬く間に過ぎていった。そして、次なる事件がその日起こったのである。




*****




 放課後、いつも通り、弥宵が実兎と一緒に帰宅した時だった。寺の前の通りに、小さな人だかりができているのが見えた。その中心にいるのは、羊吉と天馬だ。


「あいつら、何してるんだろ?」

「え、もしかして、取り囲まれてる?」


 二十代と思われる女性四人組に、二人は囲まれていた。何かをしつこく頼まれているのか、羊吉も天馬も、手や首を横に振っている。これはただ事ではないと、弥宵は走って近づいた。


「こんにちは! あの、うちの者に、何か御用でしょうか?」

「えっ? あ、いえ。すみません……失礼します」

「やば。行こ」


 彼女たちは、弥宵が話しかけた途端、そそくさと帰って行った。大した用ではなかったのか。


「羊吉、天馬。大丈夫? 何があったの?」

「大丈夫。彼女たち、わざわざ県外から来たらしい。なんか、スマホの……えっと」

「SNSです」

「そう、それ。それで僕たちのことが話題になってるから、一緒に写真を撮ってほしいって頼まれたんだ」

「えっ!?」


 羊吉と天馬によると、SNSで羊吉や天馬がイケメンだと話題になり、それを見た女性たちが実物を見に来た、ということらしい。


「あ、あった。うわ、すごく拡散されてる」


 実兎が早速その投稿内容を見つけ、弥宵に見せてくれた。寺の外観、羊吉と天馬、それから昨日偶然来たはずの鷹臣と直鷹の写真が、そこにまとめられている。寺の住所まで載っており、「イケメンの留学生が集まる寺」として、勝手に広められていた。


「ひどい。なんで、許可もなしにこんなことをするの……」


 投稿したのは、一般人のようだ。だが、載っているのは本名ではなくハンドルネーム。特定しようがない。


 ただ自分が注目を集めたいがために、隠し撮りをした写真を使うなんて、弥宵は許せなかった。撮られた本人たちが許可していないのだから、肖像権の侵害にあたる。すぐ警察に相談するべきなのだろうが、残念なことに、羊吉たちには戸籍がない。悔しいが、原告にはなれないのだ。


「早く記事を削除してもらわないと、これ、大変なことになるかも」

「……そうだね。まず、お父さんに報告してくる!」


 実兎の言葉に、弥宵は走り出した。家の中に上がり、慎太郎を探す。来客中ではなさそうだから、少しくらい話はできるだろう。


(本当は、まだ喋りたくないけど……)


 昨日の今日で、普通に話せるかは分からない。だが、これは一刻を争う事態だ。そうは言っていられなかった。


(鷹臣さんたちまで……なんで?)


 鷹臣と直鷹の二人は、昨日だけしか来ていない。そして、弥宵はその後、“音”を聞いたことを思い出した。カメラのシャッターを切っているような音。昨日のあの時間、誰かが隠れて写真を撮っていたのだ。


 弥宵がもっと注意深く、音の聞こえた方向を探していれば、隠し撮りに気付いて消去させることができたかもしれない。それが悔やまれる。


「お父さん!」

「……ああ、お帰り」

「た、ただいま」


 客間近くの廊下で、慎太郎は外を見ながらぼんやりとしていた。弥宵に気付いて、頬を緩める。普通に話せることを喜んでいるようだ。


「あのね、大変なの!」

「どうした?」


 弥宵は先程の出来事と、SNSで拡散されている内容を慎太郎に伝えた。彼の表情は、みるみるうちに険しくなっていく。


「しまった……あのオカルト系記事のライターだな」

「え、なにそれ」

「昨日、『この町にまつわる神秘的な存在について、取材させてくれ』と、雑誌記者がきていたんだよ。帰ってほしいと言っても聞かず、その人のせいで、来客予定も大幅に狂ってしまって」

「それで、昨日はお仕事が長引いてたの?」

「ああ。私への報復で嫌がらせをしたのか。どこか別のところから取材できるように、仕向けるつもりか……」


 慎太郎がやれやれと頭を振る。こういう身勝手な人間がいるから、あやかしたちが生きづらくなるのだ。弥宵は怒りを覚えながらも、いつか自分がそういう振る舞いをしなくてはならないのかと、心底嫌になった。

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