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妄想オタクの非現実的な日常  作者: 楪 彩郁
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もう一人の新参者 6

「えっ! もしかして、城山先生にプロポーズされたの!?」

「そうなの。この前の喧嘩の一件から、渉くんも『言葉が足りなかった』って反省したみたいで。昨日、プロポーズされちゃった」

「わ、わ、おめでとうー!」

「ふふ、ありがとう」


 真由香は満面の笑みを浮かべ、弥宵をぎゅっと抱きしめる。「弥宵のお陰よ」と耳元で言われ、弥宵は嬉しくてたまらなかった。真由香のことだから、いつか結婚するのだろうとは思っていたが、家族の幸せは、自分のことのように嬉しい。


「僕も一役買ってる感じかな? 幸せになりなよ」

「ありがとう。でも、実兎はなんでいつも上から目線なのよ」

「痛いっ。もー、今カメラの設定してるんだから、叩かないで」


 じゃれる二人を見ながら、弥宵は慎太郎の言葉を思い出していた。あやかしたちのことも、弥宵は“家族”として受け入れたつもりだった。しかしそれは、慎太郎の言う『入れ込みすぎてはならない』という言葉に、真っ向から逆らっているようだ。


「弥宵、ぼーっとして、どうしたの?」

「あ……さっき、お父さんにいろいろ言われちゃって……」

「お兄ちゃんは、弥宵を大事に大事に育ててきたからね。何かあったらと思うと不安なんだよ。私の手を殆ど借りずに、一人で寺も切り盛りして。弥宵の親なんだから、心配くらいはさせてあげなさい」


 弥宵は頷いた。真由香も、弥宵と思うことは同じのようだ。あれは慎太郎の過保護ゆえの言葉だったのだ、と。


「……ねえ。真由香ちゃんは、私のお母さんには会ったことないんだよね?」

「日向さんなら、一度もないよ。あなたを産んで失踪するなんて、最初はびっくりしたけど。お兄ちゃんが『日向を悪く言うな』って怒るから、何も聞けなくて。それがどうしたの?」

「最近、お母さんの存在ってどんな感じかなって、よく思うの。なんでかな……」


 真由香は、はっと何かに気付いたように、弥宵の顔を見た。それが何なのかは分からないが、真由香は再び弥宵を抱きしめる。


「真由香ちゃん?」

「弥宵、もしお兄ちゃんに相談できないことがあるなら、私が聞くからね」

「……うん」

「一人で抱え込まないでね?」

「ありがとう」


 弥宵は、気付かぬうちに寂しい顔をしていたのだろうか。真由香の目には、涙が溜まっていた。つられて弥宵が泣きそうになっていると、実兎が「あ!」と叫ぶ。


「来たよ! 大きい鷹!」


 弥宵は慌てて窓際に寄り、目を凝らした。巨大な鳥が空中を旋回し、ゆっくりと下降してくる。それは羊小屋の前に降り立ち、周囲をきょろきょろと見回すと、一瞬だけ発光した。鷹がいたはずのそこに、一人の男が現れる。


「……本当に、来た」


 息を止め、様子を見守る。すると、彼は柵の鍵をがんがんと足で強く蹴り、南京錠と留め具を壊して落とした。


「間違いない。犯人のあやかしだ」

「うっわ。僕もこういうことやっちゃったんだと思うと、なんか罪悪感……」

「実兎は反省したんだから、もういいの」

「はは……弥宵らしいな。よし、映像はばっちりだ。羊吉、天馬、鷹臣、うまくやれよ……」


 男はそっと扉を開け、眠ったふりをしている羊吉に近づいていく。危害を加えられるのではないかと、弥宵はひやひやしていたが、次の瞬間に天馬と鷹臣が転がり出て、彼を背後から取り押さえた。


「あ、無事に捕まえたみたい! 私、行ってくる!」

「待って、弥宵!」

「真由香ちゃん?」

「心を、許しすぎないようにね。いくら人間に似ていても、あやかしとは人間とは違う種族だから……」


 真由香までも、慎太郎と似たようなことを言う。弥宵は驚きつつも、すぐにでも外に出て行きたい思いに支配されていた。数回頷いて、教室を飛び出す。


 羊小屋に着いた弥宵は、天馬がおっかなびっくりしながら彼を取り押さえているのを見て、「もういいよ」と声を掛けてあげた。天馬がほっとして、鷹臣に彼を預けていく。


「なんだよ! これ、罠を仕掛けたってのか!」

「ああ、そうだ。お前が俺の話を聞こうとしないから」


 鷹臣が彼の背中に乗り、腕を捻り上げて頭を押さえつけている。そこまでしなくてもいいのに、と弥宵が顔をしかめていると、羊吉が人の姿に戻った。


「想像よりもうまくいったね、弥宵」

「うん。でも、ここからがまた、勝負……」


 弥宵は男の元へと歩み寄り、「せめて座らせてあげてください」と鷹臣に頼んだ。鷹臣は無言のまま、男の肩を掴んで、その場に正座させる。男は弥宵の顔を見るなり、目を細めて睨みつけた。


「あ? なんだ、お前?」

「この前、あなた逃がそうとした馬の、飼い主です」

「ああ? 知らねーよ。ってか、その羊、あやかしだったのか。お前ら、人間に手を貸すとか、貸してもらうとか、恥ずかしくねえのか?」


 嘲笑を浮かべ、男は羊吉や鷹臣に問いかける。彼らは、返事をせずに黙っていた。弥宵に任せる、と聞こえた気がした。


「少し、私と話しましょう」

「嫌だね。人間と話すことなんてない」

「そこの、あなたの仲間から、あなたがなぜこんなことをするのかを聞きました」

「……は? お前、喋ったのか!」


 弥宵は左の手を右の手で押さえて、震えを止めようと努めた。だが、いざ本物を目の当たりにすると恐怖が上回り、手汗までかいてくる。


「彼を責めないでください。あなたを助けたくてやったことです」

「誰が助けろって頼んだよ! そんなの全部、お前らの自己満足だろうが!」

「ええ、そうです! 私がこうしてあなたに話しかけているのも、私の自己満足です!」


 弥宵は負けじと叫んだ。その甲斐あってか、男は少しだけ怯んだ様子で、弥宵を見つめている。

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