もう一人の新参者 4
「えー!? 結局協力することにしたの? しかも名前まで付けちゃって。このお人好し!」
「うっ……だって、放っておけないし」
掃除を終わらせて家に上がってきた実兎と天馬を、弥宵は再度、鷹臣に引き合わせた。だが、実兎は弥宵の身を案じるあまり、「何かあってからじゃ遅いんだよ!」と怒っている。
(実兎の気持ちは嬉しい……けど、引き受けたからには最後までやらなきゃ)
美少年は、怒っていてもやはり美しかった。過去の弥宵なら、すかさず小説のネタにするべく妄想しただろうが、ここ数日はそんな余裕もないほどに慌ただしい。これだけ、何かしらの事件が連続するのは、果たして偶然なのか。
(そういえば、あの既視感が何なのかも解決していない)
実兎と天馬の人型になった姿を見たときに覚えた、昔から彼らを知っているような違和感。鷹臣だけはそれを感じなかったが、羊吉の場合は、弥宵の妄想がそのまま具現化したようだった。その理由については、弥宵もまだ答えを見つけられていない。あやかし全てに違和感を覚えるものではないようだ。
しかし今は、それよりも鷹臣の仲間の暴走を止めることが先決だ。終わってからゆっくりと考えればいい。弥宵は実兎と天馬に、どうか手伝ってほしいと頼んだ。
天馬が恐る恐る鷹臣と握手を交わしたところで、かなり渋々とではあるが、実兎も協力することを承諾してくれた。
「それで、どうやって弥宵をそいつに引き合わせるの?」
「あいつが今どこにいるのか、俺にも分からない。見つけたとしても、素直に俺についてきてくれるとは思えないんだ。だから、敢えてこちらで待って、罠にかけたいと思う」
鷹臣と弥宵とで立てた作戦はこうだ。対象の行動時間は、夕方から深夜にかけて。今でもあちこちを飛び回り、犯行を繰り返している。ならば、“大切に飼われている動物”の風を装って、罠を張る。そこに誘われてやってきた対象を、取り押さえるというわけだ。
「え、その動物役は誰がやるのさ? 猛禽類って肉食でしょ? 僕がウサギになってたら、食べられちゃうんじゃ……」
「いや。確かに肉食だが、あいつは、『動物はあやかしの可能性があるから』と避けている。鷹の姿でいる間は、魚や貝類、昆虫くらいしか食べない」
「じゃあ、動物自身が襲われはしないと考えていいですか?」
「ああ。万が一の時は、俺が身体を張って守るから、安心してくれ」
「えー……それ信用できるの? 怖いなー」
弥宵の質問に鷹臣がきっちりと答えてくれたが、実兎はそれでも囮役をやりたくないようで、まだぶつぶつと文句を言っている。
「囮役をできるとしたら、羊吉か実兎だな。天馬は以前会ってるから、罠だとバレるかもしれない」
「は、はいっ。お役に立てず、すみません……」
「天馬は情報提供っていう素晴らしいことをしたんだから、十分役に立ってるよ。そんな風に謝らなくていいから」
「ありがとう、ございます。弥宵さん、やっぱり優しい……。あの、足の速さなら自信がありますので、もし彼を捕まえる時は言ってください」
天馬は背中を丸くしながら、薄く微笑んだ。彼は小心者だが、感謝の気持ちをいつも忘れない。とてつもなくいい子だ。そんな彼と耳の大きなピアスがあまりにもアンバランスで、弥宵はそれだけが引っ掛かる。
(今度、機会があったら聞いてみよう)
何か思い入れがあるものなのかもしれない。羊吉と天馬は、慎太郎に買ってもらったものを心から大事そうに扱うし、実兎は城山にもらったキーホルダーをストラップ仕様に直して、スマートフォンにつけている。彼らは、人の厚意をとても大切にするのだ。
だから、鷹臣が救いたいと思っている彼も、本来はそういう心を持っていたのだと、弥宵は信じたかった。
「実兎も、人型の時とはいえ目撃されているんだよね? その時に、あやかしだと勘付かれたかもしれない。それなら、一度も会ったことのない僕がやるのが、一番じゃないかな」
羊吉がそう名乗り出た。弥宵もちょうど、羊吉が適任ではないかと思っていたところだ。この周辺で羊を飼っているところは他にないはずなので、『行方不明になっていた羊が戻ってきた』と装って、学校に罠を仕掛けるしかない。
もう二度と羊に戻りたくないと言っていた羊吉には酷なことだが、彼にやってもらうのが一番いいだろう。深夜の学校に忍び込む時は、真由香と城山に手伝ってもらえばいい。城山には嫌な顔をされるかもしれないが。
「羊吉、お願いできる?」
「うん。任せて」
羊吉は頷きつつ、歯を見せて笑った。いつもは眠そうな顔をしているくせに、こういう時はなんと頼もしいことか。気合いが入ったのか、羊吉は被っていたフードを外して、皆に角を見せた。ふわふわの白髪が、今は少し懐かしい。
「あ、久々に見た。って言っても、約一週間ぶりか」
「うん。皆は角がないから、隠す必要がなくて羨ましいよ」
「言われてみればそうだね」
弥宵と羊吉が微笑み合っていると、実兎が大きく咳払いをした。弥宵は、実兎に言われた言葉を思い出す。
『羊吉はかなり弥宵のことが好きだよ』
途端に、弥宵は首から耳まで真っ赤にした。羊吉から視線を外すと、実兎の笑う声がする。からかって楽しんでいるようだ。
「と、とにかく! 役割分担を決めましょう」
弥宵は話題を変えた。話し合いの結果、対象を引きつける囮は羊吉、釣られて現れた彼を捕まえるのが、鷹臣と天馬。実兎は遠くからカメラを構え、彼が動物を逃がす現場を撮る。弥宵は実兎と一緒に隠れて待ち、彼が話を聞いてくれる状態になったら出てくる、ということになった。
「できるだけ早い方がいい。今晩、やろう」
「……分かりました」
全員が頷き、こうして、真犯人の捕獲作戦が決行されることとなった。




