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妄想オタクの非現実的な日常  作者: 楪 彩郁
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もう一人の新参者 3

 実兎と天馬を外に残し、先日真由香が陣取った客間へと、弥宵は入っていった。男は律儀に「お邪魔します」と言って部屋に上がり、中央の机を挟んで弥宵の向かい側に座る。羊吉は、弥宵の後ろの柱に立ったまま寄りかかった。


「それでは、詳しく話を教えてもらえますか?」

「ああ。きっかけは、先日俺とその仲間が、鷹の姿で深夜にこの町の上空を旋回しているときだった。さっきの……お前が実兎と呼んでいたやつが、学校の飼育小屋を壊している現場を見かけたんだ」

「はい。それは本人からも聞いています」

「あいつは中にいたウサギや鶏を、一羽ずつ抱えて山に運び、逃がしていた。それを見た仲間は、何を思ったか……地上に降りて人間の姿になると、あちこちの家で、庭に飼われている動物たちを次々に放していった」

「それって犬たちのこと、ですか?」

「ああ。それに鶏とか、牛や羊、アルパカなんかもだ。一つの集合地が終われば次の場所や他の町に飛んで、あちこち壊して回った。鷹は人間の何倍も目が利く。小さな動物でも見逃さなかった。俺も止めようとしたが、全く聞き入れてくれない」


 弥宵は愕然とした。この町だけでなく、他の場所でも被害に遭った人たちがいるのだ。それは、町の人たちからは聞こえてこなかった。すっかり油断していたようだ。


「そんな……それが、その方の、人間たちへの復讐なんですか?」

「『人間はどこまでも勝手だ』と、あいつは怪我をしてから常に言っていた。人間には、野鳥を狩ることを娯楽として楽しむやつがいるだろう。それが許せない、と」

「確かにそれはそうです。でも中には、動物のことを家族のように大切にしている人たちもいるんです。飼い犬がいなくなって、泣いている人だっていました。全部の人間がそうではないんです」

「それは俺も分かっている。だがあいつは、それすらも人間の傲慢だと言った。だから、大切な動物を奪うことで、悲しませてやりたいと思ったようなんだ。さすがに、それは間違っていると俺も思う」


 男は苦虫を噛み潰したようにな表情を浮かべている。仲間を止めたくてもどうしようもなくて、あやかしと交流のある弥宵を、最後の頼みの綱としたのだ。


(でも、これ……私の手に負えるかな)


 当事者である鷹のあやかしは、仲間の声すら届かなくなる心理状態に陥っているというのに、弥宵にできることがあるのか。話を聞く限り、かなり凶暴で身勝手な相手だ。同じように人間から酷い仕打ちを受けた実兎は、今や弥宵たちのような親しい人間のことは信頼してくれている。とはいえ、それは実兎の性格が比較的温厚だったからだ。


 このまま安易に引き受けていいものか、弥宵は考えを巡らせた。しかし、ここで断れば、また被害が拡大するかもしれない。男の顔を確認してみれば、口を固く結び、深刻そうに俯いていた。


「どうだろう。協力してもらえないだろうか?」


 弥宵が返事を渋っている間に、背後で羊吉の動く気配がした。話を聞いて、何か思うところがあるのだろうか。


「弥宵、どうする?」

「……羊吉は、どう思う? できるかな。私に……」

「できると思う。弥宵なら、大丈夫だよ。僕も手伝う。実兎も天馬も、きっとそう言ってくれる」


 弥宵は座ったまま後ろを振り返り、羊吉を見た。羊吉は、最初からいつでも弥宵を信じてくれる。「弥宵はそのままでいい」「大丈夫だよ」「手伝うよ」――そういう言葉に、弥宵は救われてきた。


(こういうあやかしもいるんだってこと、教えてあげたい)


 弥宵は腹を括った。断ったところで、事態がよくなることはない。ならば、駄目元でもやってみるべきだ。


「分かりました。協力します」

「……! 良かった。ありがとう」


 一見強面で(いか)つい男が、平凡な女子高生である弥宵に頭を下げながら礼を言う姿は、さながら非現実的だ。弥宵は慌てて頭を上げるように伝えた。それほどに、彼も追い詰められていたようだ。


「あの、今から協力し合う仲ですし、自己紹介しておきますね。私は弥宵です。こっちが、羊のあやかしの羊吉。一緒に帰ってきたのが実兎で、あなたの仲間らしき人を目撃したのが天馬です」

「ああ、覚えた」

「それで、あなたの名前は……?」

「いや。知っていると思うが、元々あやかしに名前はない。彼らに名付けたように、好きなように呼んでくれ」


 羊吉、実兎、天馬……ときて、弥宵はまた一人、名付けることになってしまった。彼らの名前には全員、名前に擬態できる動物の漢字を入れてある。ならば、彼もそうしたい。彼をじっと見つめながら、弥宵は考えた。


「“鷹臣(たかおみ)”って、どうですか? “鷹”に、大臣の“臣”で、鷹臣さん」

「……すごいな」

「え?」

「名前を付けられると、存在を認められた気がして、嬉しい。響きも悪くない。気に入った」

「そう、ですか。それなら、よかったです」


 男――鷹臣は、苦々しかった表情を僅かに緩めた。喜んでもらえたようだ。弥宵も、じんわりと心が温かくなった。


「では、これからよろしくお願いします。鷹臣さん」

「ああ、よろしく頼む。弥宵、それに羊吉」


 手を差し出す彼と、弥宵と羊吉は握手を交わした。そして早速、鷹臣の仲間と弥宵をどう引き合わせるか、作戦を練ることになったのだ。

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