浮気騒動と謎の少女と『???』 10
「あっ……ご飯、まだ作ってなかった! ごめんね!」
「僕こそ、大事な話をしてるときに……ごめん」
「いいんだよ。お父さん、真由香ちゃんに電話して、犯人の情報を伝えてくれる? これ、さっきのメモ」
「分かった」
羊吉は恥ずかしそうに鼻の頭を掻いている。真由香への連絡は慎太郎に頼み、弥宵は調理の続きへと戻った。羊吉も「手伝う」と言って、弥宵の隣にやってくる。彼は相変わらず、気遣い上手で優しい。
「ありがとう、羊吉。包丁は握れる?」
「うーん、やったことないから怖いかな。今日は、それを使う以外のことで」
「そしたら、玉葱の皮を剥いてもらっていい?」
まだ皮むきの途中だった玉葱を三個、羊吉に手渡した。目をしぱしぱさせながら、羊吉は一つ一つ丁寧に剥いていく。その様子に弥宵はくすっと笑いながら、人参とジャガイモの皮を包丁で手早く処理して、一口大に切った。
「あの……弥宵さん」
「ん? あ、天馬の分も作るけど、いる?」
「あ、はい。俺は少しで大丈夫です。それよりも、俺は……これからどうしたら?」
「え?」
鍋に牛肉の細切れを投入し、油で炒め始めたところで、弥宵は手を止めて天馬を振り返った。慎太郎はまだ真由香と電話をしていて、天馬はどう行動したらいいのか聞けなかったようだ。
「小屋に戻った方がいいですか? それすらも迷惑なら、出て行きますけど……」
「何言ってるの? こっちで寝泊まりすればいいじゃない。無理に小屋に行く必要ないよ」
「えっ、でも。ご迷惑では……」
「天馬は昔から私たちの家族だよ! 迷惑なんかじゃない!」
天馬がひどく遠慮するので、弥宵はぴしゃりと言った。これは、慎太郎の許可が必要なことでは無い。家族なのだから、一緒にいることが当たり前なのだ。
「弥宵も言うようになったなあ」
慎太郎は電話をしながら会話を聞いていたらしい。娘の成長を見られて嬉しいのか、豪快に笑っている。
「あ、お父さん。真由香ちゃんには無事伝わった?」
「ああ、問題ない。学校の方でも、校区内を夜に巡回できる人員を増やすそうだ。それともうすぐ、実兎くんをここに送ってくるって」
「分かった、ありがとう。天馬のことだけど、もちろんいいよね?」
天馬は、びくびくしながら椅子に座り直した。慎太郎はそれを見ながら、「ああ」と言って頷く。
「あ、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて……」
「うん。後でもう一人、ウサギに擬態できるあやかしが帰ってくるけど、彼とも仲良くしてね」
「ええっ!? まだあやかしがいるんですか?」
天馬の反応に、皆が一斉に笑う。二人どころか三人に増えてしまったが、これはこれで賑やかで楽しいかもしれない。
(事件が解決したら、皆で穏やかに過ごしたいな)
弥宵は母の顔も、その温もりも知らない。でも、慎太郎がずっと育ててくれて、傍にいてくれて、真由香だっていつも気に掛けてくれる。そこに、不思議な存在ではあるが、あやかしたちが三人も増えたのだ。ここはきっと、家族のように温かい空間になる。弥宵はそう信じてやまなかった。
そして、シチューが出来上がる頃には、お腹を空かせた実兎が帰ってきて、全員で夕食を済ませることとなった。




