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妄想オタクの非現実的な日常  作者: 楪 彩郁
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浮気騒動と謎の少女と『???』 9

「弥宵、聞いてる?」


 羊吉の問いかけで、弥宵ははっと正気に返った。


「……あ。羊吉、天馬もあやかしだったって、こと?」

「うん。僕が天馬を探しに寺を出てすぐ、道路脇の茂みの奥でうずくまっている人がいたから、声を掛けたんだ。そしたら、『助けてほしい』ってしがみつかれて。それが天馬だった」

「そう、だったの。でも、天馬まであやかしだったなんて……」

「まあまあ、玄関ではなんだから。中でゆっくり話しなさい」


 慎太郎の一言に、弥宵はぼんやりとしたまま頷いた。天馬が無事であったことを喜ぶべきなのに、もう何が何だか、訳が分からないのだ。羊吉が先に中へ上がり、洗面所から濡れたタオルを持ってくると、甲斐甲斐しく天馬の足を拭いてやっている。


「天馬はもう僕のこと、怖がらないんだね」

「……あ、はい。昼間は知らない人だったから驚いて……羊吉さんもあやかしだったんですね」

「僕も、まさか君が同じ種族だとは予想してなかったよ」


 二人の会話を聞きながら、弥宵は天馬の姿を見つめていた。左耳には、輪状の金色のピアスがついている。馬の状態の時にはもちろん、つけてなどいない。


(天馬だという証拠はなくても、本人がそう言っているのだから信じられるとして……)


 弥宵は、どうしても心に引っ掛かることがあった。それが、どういう違和感なのかが分からない。


(あのピアス……どこかで……)


 弥宵は思い出した。実兎を間近で見たときの既視感、それと同じだ。天馬も、今初めてその姿を見たはずなのに、昔から知っている気がするのだ。それは、世話をしていたから知っているということではない。あくまで、“姿そのもの”の話だった。


「はい。上がっていいよ。知ってると思うけど、弥宵も慎太郎さんも、優しい人だから。怖がらなくていい」

「は、はい……」


 おっかなびっくりしながら、天馬は上がり(かまち)に足を乗せて進み、弥宵のところへとやってきた。心配を掛けたことをかなり反省しているらしく、落ち込んでいるようだ。


「私、怒ってないよ。心配はしたけど、帰ってきてくれてかった」

「そ、そうですか……。夕方は、弥宵さんの元気がなさそうだったので……俺のせいで、余計に元気をなくしていないかと」

「ううん、大丈夫。やっと落ち着いてきたかも」


 天馬はぎこちなく笑った。優しくおとなしいところは、馬であったときの性格と変わらないようだ。夕方、天馬に餌やりをしたときは、弥宵に迷いが生まれていた時間帯だった。そのことを覚えているというだけで、彼が天馬であるという証明になる。


 昨日と同じく、四人は台所前のテーブル席に掛け、天馬の話を聞くことになった。彼もまた、先程突然、人間の姿に戻れるようになったのだと言う。


「弥宵さんに餌をもらって、小屋に戻った後は休んでいました。どのくらい経ってからかは分からないですけど、人の足音がして、目が覚めたんです」

「足音……? 誰か来たの?」

「知らない男性でした。少しつり目で、焦げ茶色の髪で……」


 弥宵は近くにあった棚からメモ帳とペンを取り出し、天馬が語る犯人らしき人物の特徴を書き留めていった。身長は羊吉と同じくらいで高く、つり目、焦げ茶色の髪の男性。色黒の肌をしていて、全身黒のつなぎを着ていたらしい。実兎の外見とは、ほぼ正反対だ。


(やっぱり、実兎とは別に事件を起こしている人がいるんだ……)


 放っておいたら、きっとまた事件が起こる。実兎が疑われるのを避けるためにも、早く解決しなくては。


「天馬は、乱暴なことはされなかった? 怪我とかしてない?」

「いえ、何も。『お前もここにいたら窮屈だろう』って、それだけ言われて。俺がよく分かっていないうちに、その人は去っていったんです。それで、柵の入り口の鍵が壊されているのに気付いて」

「飛び出しちゃったの?」

「はい。寺の中に変な人がいるって、弥宵さんたちにどうにか知らせたかったんです。でも、敷地内のどこにも、誰もいなくて。どうしたらいいか分からなくて、困って……そしたら、急に力が戻って、身体が勝手に人間の姿になっちゃって。俺も混乱してしまって……」


 天馬は、ゆっくりと伝えられることを一つ一つ教えてくれた。つまりは、パニックになって外に出たが、そこからはどうしようもなく、うずくまっていたというわけだ。


「天馬って、子馬の時にうちに来たよね? あの時から今まで、ずっと元の姿に戻れなかったの?」

「はい。慎太郎さんに引き取られる前は、観光地の牧場にいました。そこが閉鎖されて、流れ流れて、ここに。慎太郎さんも弥宵さんも信頼できる人だし、すぐにでも正体を明かしたかったんですけど、その時にはもう力をなくしていて。戻れなかったんです」

「羊吉の話と近いね……。実兎も、一ヶ月前に急に戻れたって言っていたし」

「擬態している時間が長いと、力をなくして元に戻りづらくなるのかもしれないね」


 慎太郎の言葉に、弥宵はなるほどと頷いて、頭の中を整理し始める。力をなくしたあやかしたちが、何かをきっかけにして力を取り戻した。そのきっかけは、一体何か。


(ああもう! さっぱり分からない……!)


 とにかく、今はその犯人を一刻も早く捕まえなければならない。夜の外出は慎太郎が認めてくれないので、ここは大人たちの力を借りるしかないだろう。城山と真由香に連絡しようと、スマートフォンを取り出したところで、羊吉のお腹がぐーっと鳴った。

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