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妄想オタクの非現実的な日常  作者: 楪 彩郁
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浮気騒動と謎の少女と『???』 4

「やっぱり。お前、男だったのか」


 真っ先に沈黙を破ったのは、羊吉だった。誰もがその可能性を考えては、頭の中で打ち消していたところだろう。なぜなら、弥宵がそうだったからだ。


(自分のことを“僕”って言ったし、言葉遣い荒いし、男に興味がないって……そういうこと!?)


 ただでさえ色白で華奢で、弥宵よりも断然可愛くて、声も高いし、髪の毛だってツインテールにしているのに。それで、男の子だと見破る方が困難だ。


「せ、先生……さすがに、これは知らなかったんですよね?」

「い、今、初めて知った。なんだ……それなら、最初から変な誤解を招かなくて済んだのに……」


 弥宵の問いに、城山は崩れ落ちるように力を抜き、胸を撫で下ろしていた。真由香は現状が飲み込めていないらしく、未だに固まっている。


「渉、それは偏見だね。世の中には、男のことが好きな男だっているんでしょ? もちろん、その逆もある。今回は、僕が偶然それに当てはまらなかったから、助かっただけだ」

「それ、は……そうだな。悪い、気を付ける」

「あんたも、渉の恋人なら、渉の言葉を信じるくらいしなよ。いつか愛想尽かされるよ? おばさん」

「なっ!? お、おば……!」

「わーっ! わーっ!」


 弥宵が幼い頃から禁句だと思い避けてきた言葉を、少年は、真由香にあっさりと言いのけてしまった。ショックを受けて我に返り、ぷるぷると身体を震わせている真由香を、弥宵はそっと抱きしめる。


「真由香ちゃん、彼に悪気はないはずだから! 許してあげて!」

「くっ……悔しいけど、正論だわ……! 正論なんだけど、腹立つー!」

「分かった! 分かったから、もうこれで信じてあげようよ。先生は浮気なんかしてないって」

「……うん。騒いで、ごめん……」


 涙声で謝る真由香に、弥宵はほっとした。真由香も、ようやく安心できたようだ。


「先生も、真由香ちゃんと、仲直りしてくれますか?」

「ああ、今回は全面的に俺が悪い。本当に、すまなかった。稲葉にも、迷惑を掛けた」

「……私も、渉くんを疑いすぎたわ。最初から信じてあげられなくて、ごめんなさい」

「それなら、よかった。今度はゆっくり話してみて」


 弥宵はすすり泣く真由香の背を押して、城山へと託す。ここからは二人きりで話せるよう、別の部屋に移ってもらうことにしたのだ。


 城山と真由香が部屋を出るのを見送って、弥宵は羊吉と少年を振り返る。これで一つ、問題が解決した。


「羊吉、一緒にいてくれてありがとう。えっと、あなたも協力してくれて助かった。名前は……? あ、言いたくなかったら、無理には……」


 少年は名前も年齢も教えてくれなかったと、城山が言っていた。ある程度の信頼関係を築いていたはずの彼にすら、言わないのだ。今日初めて会った弥宵には絶対に教えてくれないだろうと、思っていた。


「名前は……ない。だから、教えたくても名乗れない」

「……え?」

「せっかくだから、あんたがつけてよ。でも、そこの羊みたいな、ダッサイ名前だけはダメだからね?」

「え? え、ちょっと待って! どうして、私が羊吉に名前をつけたって知ってるの? しかも、羊って……」


 それはまるで、弥宵が羊吉の名付け親であることも、羊吉があやかしであることも、全て見透かしているような発言だった。少年は溜め息をついて冷笑を見せ、やれやれと首を横に振った。


「考えてもみなよ。こんな可愛い身なりの少年が、一ヶ月前にこの町にふらりと現れた。学校にも通っていないし、身元もはっきりしない。怪しさ満載じゃない? まあ、渉はそれでも、僕に親身になってくれたんだけど」


 少年の言葉から、弥宵は推測した。ちょうど一日前、同じように、この町に突然現れた存在がいる。羊吉を見て、弥宵は一つの可能性に辿り着いた。


「えっ、もしかして、あなたもあやかし……!?」

「正解。あんた、ちょっとは頭が働くじゃん」


 少年は、その時初めて笑顔を見せた。先程の冷笑とは違う、人形のように完璧で、晴れやかな表情だ。


「そっちの男、あやかしでしょ? だから、僕があやかしで、しかも男だってすぐに見破った」

「……そうだけど。羊吉、この子があやかしだって、最初から分かってたの?」

「ううん。さっき、そいつの近くに寄るまで分からなかった。けど、あやかしのほとんどは独特の気配がするから、なんとなく……そうかなって」


 喫茶店で気付かずに、ここにきて見破ったのは、そういうことだったらしい。弥宵は口を開けたまま頷いた。


「あやかしが頼っている人間なら、僕も正体を明かして、大丈夫だと思った。あんたと、あのハゲのおっさんは、僕たちのような種族に理解のある人間。違う?」

「せ、正解です……すごい。でも、あの坊主頭は私のお父さんだから。そういう呼び方しないで」

「はいはい。で、どう? 僕の名前、決めた?」


 いつまでも高飛車で居丈高(いたけだか)な態度に、弥宵は珍しくムカッとした。人に物を頼む態度ではない。同じあやかしでも、穏やかで礼儀正しい羊吉と、性格は全く違う。


「そういう頼み方なら、私は考えないから。他の人につけてもらって」

「あ、怒った? ごめん。僕、こういう生意気な性格だから、ウサギとして飼われてた時も、家から追い出されたんだよね」

「……追い出された? 擬態してたのは、ウサギだったの?」


 少年は、再び嘲るような笑みを浮かべる。それは弥宵に対してというより、少年自身に向けてのもののようだった。

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