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妄想オタクの非現実的な日常  作者: 楪 彩郁
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浮気騒動と謎の少女と『???』 3

「彼女に出会ったのは、今から一ヶ月くらい前だ。夜、商店街を見回りしているときに、公園の中で見つけた」

「見回り、ですか?」

「学校の指示ではなくて、俺が自主的にやっている。うちの生徒は素直で真面目なやつが多いが、何人かが夜中に出歩いているという目撃情報があってな。その途中、生徒ではないが一人でふらふらしている彼女を見つけて、警察署に連れて行こうとしたところで、『それは嫌だ』と暴れられた」


 城山が、最近は夜のデートを断るようになったと真由香は言っていた。それなら辻褄が合う。弥宵が真由香の表情を確認すると、彼女は発言の真偽を見定めるかのように目を細め、城山を凝視していた。


(こ、怖い……)


 昔から、真由香を怒らせることを避けてきた。普段がさばさばとしていて優しいので、その分、怖さは半端ではないのだ。


「理由を聞くと、家庭内の暴力が原因で、この町の外から逃げてきたらしい。どこの出身なのかも、名前も年齢も、一切教えてくれない。ただ、誰かに助けてもらいたがっている」

「それで? 渉くんがその子の面倒を見てたってこと?」

「ああ。数日に一回、風呂を貸したり、着替えを貸してやったり……あとは僅かだが食費も渡したり、だ。俺の家には泊まりたくないらしくて、いつも公園の遊具の中で寝ている。児童養護施設に相談すると何度も提案しているんだが、絶対に首を縦に振らない」


 あの美少女に、そんな事情があったとは。城山が手渡した封筒には、彼女の命を繋ぐためのお金が入っていたのだ。弥宵は言葉を紡ぐことができず、俯く。城山の疑惑が晴れただけでなく、彼の必死の思いが伝わってきて、泣きそうになってしまった。


「どうにか彼女を保護するところまで終わってから、真由香には話そうと思っていた。不安にさせてしまったら、すまない」

「まったくよ……でも、その話が本当だという証拠もないわよね?」

「いや、常識的に考えて、分かるだろう? 教師の俺が、よりによって未成年に……」

「分かるわよ! 私だって渉くんを信じたいけど、実際私より、その子の方が大事だってことでしょ!?」

「……なに? 俺がいつそんなことを言った!?」


 城山が、遂に真由香を睨みつける。真由香は反射的に立ち上がり、両目からぼろぼろと涙を零していた。真由香も、一ヶ月の間、誰にも相談できずに不安だったのだ。やっとの思いで、恥を忍んで姪の弥宵に話した矢先に、これだ。どちらの気持ちも理解できるからこそ、弥宵の胸が痛む。


「やめて! 喧嘩しないで! 二人がお互いを大切に思ってるって、私にも分かるから……ちゃんと話し合いましょう?」


 弥宵の代わりに羊吉が立ち上がり、真由香の肩をぽんぽんっと叩いた。真由香は涙を拭い、頷いて、再び座り直す。城山も後ろめたい気持ちはあるのか、弥宵の言葉に対し、小さく「すまない」と謝った。


(ひる)むな自分……! 破局なんか絶対にさせないって決めたんだから)


 弥宵は考えた。どうしたら、城山の話が本当だと証明できるか。ふと羊吉を見上げると、彼は意味ありげに頷く。彼は、既に解決策が分かっているのだ。その瞬間、弥宵は(ひらめ)いた。


「あ……連れてくればいいんだ!」

「弥宵、一緒に行くよ。もうすぐ暗くなるし、一人は危ない」

「うん!」

「え? 弥宵?」

「真由香ちゃん、先生、ここで待っててください! その女の子、ここに連れてきます!」


 弥宵と羊吉は、バタバタと部屋を出て、玄関への廊下を走った。しかし途中で、慎太郎が別の客間から現れ、道を遮られる。


「お父さん! ごめん、急いでるの!」

「探しに行く必要はないよ。もう、来ている」

「え?」


 慎太郎の言葉の意味が、弥宵は分からなかった。どういうことかと彼の出てきた客間を覗き込むと、そこにはあの美少女がいたのだ。彼女は表情一つ変えず、口をあんぐりと開けている弥宵の顔を凝視した。


「……あほ面」

「えっ……ひどい! あ、それよりも、どうしてここに?」

「渉が急に、『帰る』って言い出すから。何かあったかと思って、後をつけてきた。そしたら、このハゲのおっさんに捕まった」

「……せめて坊主頭って言ってくれるかな」


 慎太郎が悲しそうに笑う。美しい顔から過激な言葉遣いが出てくることもあるのだ。だが、そんなことは、今は重要ではない。まじまじと彼女の顔を観察しながら、弥宵はどこか既視感を覚えた。


(あれ……? 昔、この子に会ったことがある?)


 こんな美少女であれば、過去に会ったことがあれば覚えているはずだ。それに、城山は町の外から来たと言っていた。きっと、見たことのある誰かに似ているだけだ。弥宵はそう結論づけ、彼女に例の頼み事をすることにした。


「その城山先生が、今、恋人にあなたとの浮気を疑われているんです。そういうやましいことはなかったって、証言してくれませんか?」

「……いいよ。渉には、世話になってるから」


 凛とした声で、彼女は答えた。弥宵は喜んで頭を下げ、すぐに元来た方へと戻る。彼女がついてきていることを確認するために振り返ると、羊吉は不思議そうに彼女を見つめていた。


(羊吉も、何か違和感があるのかな……?)


 それは後で聞いてみよう、と気を取り直し、弥宵は真由香たちのところに彼女を連れて行った。あまりにも早い弥宵の帰還に、二人が同時に「早っ!」と叫ぶ。何が何だか分かっていない二人を前に、美少女は大きく溜め息をついて、言い放った。


「浮気を疑うとか、キモいからやめてくれない? 僕、男には興味ないし。渉のことも、そういう目で見たことないから」

「へっ……」


 弥宵の気の抜けた声を最後に、場が凍りついた。部屋の中はしーんと静まり返り、弥宵だけでなく、真由香も城山も、目を丸くして“彼女”を見つめている。

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