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妄想オタクの非現実的な日常  作者: 楪 彩郁
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浮気騒動と謎の少女と『???』 1

「弥宵?」

「あ、ごめん。気になる子だったなって思って」


 立ち止まって少女に見入っていた弥宵を、羊吉が不思議そうに振り返る。転入生という可能性もあるから、覚えておくだけにしておこう。そう思って、弥宵はなんとなく喫茶店の前を通りかかった。


「……え!」


 弥宵は思わず大声を出してしまい、慌てて口を塞いだ。喫茶店の窓ガラス越しに見えたのは、先程の少女と城山が、向き合ってテーブルに着いているところだったのだ。


 弥宵は、喫茶店前の植え込みへと咄嗟にしゃがみ、身を隠した。大声が聞こえてしまっていたら、城山に気付かれる。先を歩いていた羊吉は、弥宵の行動に驚いて立ち尽くしていた。


「弥宵?」

「しーっ! 羊吉も隠れて!」

「どうしたの?」


 訳が分からないまま、羊吉もその大きな身体を曲げ、弥宵の隣にしゃがみ込んだ。


「知ってる人でもいたの?」

「学校で、私の担任をしている城山先生。話すと長くなるんだけど、いろいろあって、私が先生の浮気調査をすることになったの」

「浮気って、恋人以外の人と恋人になるっていう、あれ?」

「そう、それ!」


 小声で羊吉とやりとりする。二人の後ろを訝しげな眼をして通り過ぎていく人たちがいるが、とにかくここは城山にさえ気付かれなければ問題ない。弥宵はそっと目から上だけを出して、喫茶店内の様子を窺う。


 城山は、テーブルの上で手を組み、少女と話している。その横顔は弥宵たち生徒と面談する時のように真剣で、少女との間に怪しい雰囲気は見られない。城山が何かを必死に訴えているのに、少女は素っ気ない顔で首を横に振るばかりだ。


(それもそうだ。第一、未成年に手を出したら犯罪だもん)


 城山がそんなことをするはずがない、という弥宵の予想は当たっていたようだ。真由香が感じていた不信は、やはり勘違いだったのだ。城山には何らか理由があって、真由香とのデートをキャンセルしてまで、少女のために動いていたのだろう。あとは、その理由さえ分かればいい。


「一応、写真撮っておこう……先生、ごめんなさい。後でちゃんと消すから」


 独り言を呟きつつ、ポケットからスマートフォンを取り出す。弥宵が写真を撮るのは、証拠があれば真由香も話がしやすいだろうという理由からだった。だが一方で、初めて探偵っぽいことができて、舞い上がっている節もある。


 罪悪感を押し殺し、弥宵がカメラを向けて数枚の写真を撮っていると、城山は縦長の茶封筒を鞄から取り出した。手紙や紙幣が入りそうなほどの大きさだ。それを少女に手渡すと、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。そして、ようやく口を開く。


「なんて言ってるんだろう……封筒の中身は、見えないかな?」

「あ、弥宵。先生が席を立った。外に出てくるかも」

「え! 羊吉、逃げよう!」


 城山は自身の携帯電話に着信があったのか、少女に断って立ち上がる。そのまま入り口の扉に向かったように見えたので、弥宵と羊吉は即座に逃げた。数メートル先の建物の陰へと隠れたところで、城山が誰かと電話をしながら出てくる。


「あ、危なかった……羊吉、巻き込んでごめんね」

「いいよ。弥宵も忙しいね。それにしても、あの二人、恋人って感じには見えなかったよ」

「羊吉もそう思う? やっぱり、先生には理由があるんだよ」


 真由香に調査を依頼された当日に、まさかの遭遇だった。弥宵はすぐにメールを作成し、先程の写真を添付して、真由香に送信する。「浮気ではなさそうだよ」と、弥宵はしっかり書き記したのだが、真由香からは早速折り返し電の話が掛かってきた。随分と取り乱している。


「これ、商店街にある喫茶・オレンジでしょ? そこで会ってたの?」

「そ、そう。真由香ちゃん、落ち着いて。私も羊吉も外から様子を見てたけど、浮気って感じでは……」

「でも、私と過ごすはずだった時間を、そういうことに使ってるってことでしょ? しかも、よりによって、あんな可愛い子……!」


 弥宵が静かに話しているというのに、電話先の真由香は次第にヒートアップしていく。弥宵は慌てふためいた。


「真由香ちゃ……」

「封筒も、『浮気がバレそうだから別れて』っていう手切れ金に違いないわ。今から寺に渉くんを呼び出すから、弥宵も帰ってきてくれる?」

「えっ、待って! 私まだ、外でやらなきゃならないことがあって……」

「密会を見てたっていう証人が必要なの。お願い!」


 こうなったら真由香は手がつけられない。困ってしまった。弥宵が羊吉を見上げると、「また明日から探す?」と提案してくれたので、弥宵は仕方なく頷いた。

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