動物たちの大脱走 4
昼休み中、弥宵は飼育小屋に行き、本当に動物たちがいなくなったことを確認した。小屋自体は木製で、頑丈かと聞かれれば疑問は残るが、外側から蹴破られた跡がある。
「ひどい……。みんな、びっくりしただろうな」
それこそ、弥宵が気絶したときのように。彼らは今、どうしているのだろうか。心ない人に連れて行かれたのではないかと、弥宵は肩を落とした。今朝は緊急で全校集会が開かれ、教頭からこの事件について説明があったため、生徒全員が知っている。部外者の犯行かは分からないが、不審者等にはくれぐれも気を付け、全員早めに下校するようにと通達された。
早く帰って、羊吉と慎太郎に相談したい。羊吉は、何か知っているかもしれない。弥宵は焦れていた。その時、スカートのポケットで、スマートフォンが震えた。メールの通知だ。
「ん? 誰だろう」
アドレス帳に登録のなかった送信元からのメールを開くと、なんとそれは羊吉からだった。
『羊吉です。慎太郎さんに、手伝い頑張ったご褒美でスマホを買ってもらった。あと、服もいくつか買ってもらったよ。使い方を教えてもらいながら、メールを送ってます。弥宵、ちゃんと届いた? 僕がいなくなって、弥宵が疑われてない?』
その文面があまりにも可愛くて、弥宵は思わずくすっと笑った。慎太郎も、居候のあやかしに対して、随分と面倒見がいいものだ。返信の文面を書きながら、やはり羊吉は犯人ではないと、弥宵は確信した。
『大丈夫、届いてるよ。いろいろ買ってもらえてよかったね。それとね、私の疑いは晴れたけど、誰かに小屋が壊されて動物たちが逃げ出したみたいで、大変なことになってる。羊吉は、何か心当たりない? 些細なことでも、なんでもいいの』
送信後、アドレス帳に羊吉の名前を登録した。犯人を見つけ出せたら、とは思うのだが、それは先生たちと警察がやってしまうだろう。弥宵は無力だ。できるのは、動物たちを探すことくらいだ。
(動物たちを探しつつ、城山先生の浮気も調査をする……本当に探偵みたい!)
弥宵は、小説の中の主人公になったように感じて、俄然やる気を出した。動物たちの居場所をどう検討つけていくのかも、浮気調査の仕方についても全くの無知だが、自分なりにやってみようと思ったのだ。
数分の間待っていると、再びスマートフォンが震えた。羊吉の返事だ。
『よかった、とは言えない状況だね。昨日は、弥宵を背負ってすぐに帰ったから、僕は何も知らない。慎太郎さんにも伝えたけど、僕もいなくなった動物たちを探す手伝いをするよ』
それを見て、弥宵は胸を撫で下ろした。羊吉のことを信じてはいたが、本人の口から聞くまでどこか不安だったのだ。手がかりはないが、行動あるのみ。羊吉も手伝ってくれるのなら、心強い。
感謝の意を伝える返信をして、弥宵はもう一度小屋の中と周辺を見回った。昨日はなかったはずの、犯人に繋がるだろう何かが残っていないか。とはいえ、午前中に警察が来ていたから、怪しい物があれば見つけて持って行っただろうが。
「やっぱり、ないよね……ん?」
靴の裏に違和感を覚えて、弥宵は足をどけた。ちょうどウサギ小屋を出たところだ。踏んだのは、ぬいぐるみ仕様のキーホルダーだった。本体は人間の親指くらいの大きさで、首に赤いリボンを付けたピンク色のウサギ。チェーンが切れてしまっている。誰かが落としたのだろう。可愛らしいデザインからして、持ち主と考えられるのは女の子だ。
「飼育係の誰かのかな? 警察が持って行かなかったんだから、きっと関係ないよね」
事件との関わりは薄そうだと思い、弥宵はそれを拾った。砂と泥で汚れてしまっていたので、踏んでしまった詫びも含めて、ハンカチを水で湿らせて拭き上げる。そのまま、他の飼育係の女の子たち三人を訪ねたが、意外にも誰の物でもなかった。
「芽衣ちゃんのでもないの?」
「はい。稲葉先輩、それもしかしたら……犯人のじゃないですか?」
「え?」
二年二組の教室で、飼育係最後の一人、芽衣がそう言った。女子の力で、あそこまで壁が壊せるだろうか。弥宵にはとてもそうは思えなかった。
「どうかな。女の子が力技でどうにかできるとは思えないんだけど……蹴破ってる感じだったし」
「何か道具とか使ったのかもしれませんよ。それ、大事な手がかりかも」
「うーん。分からないけど、とりあえず持っておくね。落とした人が大切にしてた物かもしれないし」
「先輩、優しいなぁ。それにしても、心配ですね、動物たち」
「……そうだね。早く見つかるといいね」
彼女たちも念のため教頭に呼び出され、普段の世話の時に変わったことがなかったか、聞かれたらしい。芽衣を含め、全員が動物のことを心配していた。彼女たちも犯人とは違う。やはり、全く知らない外部の者の仕業なのか。
午後の授業を終えて、城山の様子を観察しながらも、弥宵は落ち着かなかった。家に帰ったら、外が暗くなるまで、動物探しと情報収集をしようと決めていたのだ。
(早く帰りたい……)
小説の続きを書くことも、妄想することも忘れて、弥宵の頭の中はそれでいっぱいだ。その思いが伝わったのか、放課後すぐに校門を駆け抜けると、近くには羊吉が待っていた。




