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妄想オタクの非現実的な日常  作者: 楪 彩郁
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動物たちの大脱走 3

「真由香ちゃん!?」

「ま……稲葉先生、どうしてここに?」

「すみません。弥宵と昨日の話をするんだろうと思って、後をついてきて、そこで聞いていました」


 真由香は室内へと入ってくると、真由香の隣ではなく、城山の隣にどかっと座った。呆然としている弥宵の顔と、額に手を当てて呆れている城山の顔を交互に見てから、困ったようにはにかんでいる。


「弥宵。私も昨日、城山先生と一緒に見てたの。弥宵が知らない人におんぶされてるところ」

「え!」

「でもお兄ちゃんが迎えに来て、警戒せずに話しかけているところを見て、これは訳ありだって分かった。兄妹揃って、昔から不思議な出来事には慣れてるの。羊はあやかしだったのね?」

「そ、そう! 真由香ちゃんも、あやかしのことを知ってるの?」

「うん。この町はね、昔からそういう生き物が隠れて住んでるのよ」


 もはや“稲葉先生”と呼ぶことはすっかり忘れて、弥宵は真由香の話を必死に聞いていた。あの父の妹なのだ。慎太郎があやかしの存在を認知しているのであれば、真由香がそうであっても何らおかしくはない。


 真由香が自らの経験から話を信じてくれたことで、弥宵が心強い味方を得た一方、城山はまるでこの世の終わりでも見たかのように、顔をしかめている。


「真由香……君まで、何を言って……」

「え、呼び捨て?」

「……あ」


 城山が真由香を下の名前で、敬称もつけずに呼んだ。弥宵は、城山に信じてもらうことよりも、そちらの方が気になってしまったのだ。すかさず疑問を口にすると、城山は口元を手で押さえた。時、既に遅し。真由香はくすくすと笑っている。


「混乱しすぎて、ボロが出ちゃったね。(わたる)くん」

「……からかうな。あー、やってしまった……よりによって生徒の前で」

「も、もしかして!」


 突然二人が親密な雰囲気を纏ったことで、弥宵は気付いてしまった。城山と真由香は、ただならぬ関係である、と。


(確かにお似合いだとは思ったけど。実際にそうだなんて……)


 昨日、弥宵が補習を受けていることを真由香が知ったのは、弥宵の叔母だからではない。二人が恋人同士で、何でも話せる仲だからだったのだ。勝手に結婚の心配をして申し訳ないと思いつつ、弥宵は嬉しかった。


「だ、大丈夫です! 誰にも言いませんし……」

「弥宵なら、口止めしなくても言いふらさないって分かってるわよ。でも、ありがとう」

「うん。真由香ちゃんが、あやかしのことを知ってくれていて、よかった」


 城山が「頼んだ」と呟いたところで、閑話休題。三人で、もう一度状況を整理した。


「羊は元々あやかしだった。それで、人型に戻れたから、自分の意思で小屋を出た。だから、外からは壊されてないということね」

「そう。残りの小屋は、私も本当に知らないの。羊吉は穏やかで優しそうな性格だし、小屋を壊すなんてことしないと思う」

「なるほど……二人がそう言うなら、俺も信じよう」


 城山はもう信じることにしたらしく、それに併せて一人称が“俺”に変わった。随分と砕けた話し方もできるのだ。知らなかった一面に、弥宵は少しだけ目を丸くする。


「弥宵の疑いは晴れたと思うんだけど、犯人が捕まるまでは不安でしょう?」

「それは……うん」

「もし何かあったら、すぐに私か渉くんに相談して」

「分かった。城山先生も、よろしくお願いします」

「あ、ああ」


 話がまとまったところで、予鈴が鳴った。朝のHR(ホームルーム)が始まる五分前だ。城山は未だに混乱しているようだが、準備があるということで、先に職員室へと戻っていった。


「じゃあ、真由香ちゃん……じゃなくて、稲葉先生。本当に助かりました」

「いいのよ。可愛い姪のためだから。それでさ、弥宵に城山先生と付き合ってることバレちゃったし、一つお願いしてもいい?」

「はい。もちろん」


 最初から、真由香の願い事なら喜んで協力するつもりだ。昨日の放課後、真由香が言いかけたのもそのことだったのだろう。承諾の返事はしてみたが、真由香の表情はそれと相反して沈んでいった。


「渉くんね、もしかしたら浮気してるのかも」

「……えっ?」


 ポツリと呟いて、真由香は手で顔を覆った。先程まで仲よさそうにしていた二人が、本当は破局の危機を迎えている、ということだ。小説やゲームだと、このパターンでは大抵二通りの結末が待っている。本当に浮気していて終わりを迎えるか、全くの勘違いで誤解が解けるか。


(あの城山先生が、浮気……?)


 真面目で厳格な先生が、道義に反するようなことをするだろうか。ましてや、人のことを簡単に裏切る性格ではない。恋人の真由香ならなおさらだろう。弥宵は首を傾げた。


「それとなく、渉くんのことを探ってくれないかな? 最近、私との夜のデートも断って、どこかに出掛けてるみたいなの。誰かと会ってる気がして」

「わ、探偵みたい……。できるか分からないけど、やってみるよ」

「本当!? ありがとう! もう弥宵しか相談できないと思ってたから助かる。お兄ちゃんには恥ずかしくて絶対に言えないし……」


 真由香の表情が僅かに晴れた。彼女も、城山を信じたいのだ。弥宵は城山の潔白を証明してあげたくて、協力することにした。かくして、弥宵は城山の浮気調査をすることになったのである。

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