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連絡先を回収

ブックマークがめためた増えてらっしゃる……!

ありがとうございます!




 私が公園で拾っただて眼鏡さん、もとい、瑛一くんは、兄に気に入られたらしい。よく兄もああやってボコボコにボロボロにされているからきっと親近感がわいたのだろう。


 また、私が公園で拾っただて眼鏡は、あまりにも壊れていたため妹が捨てた。ボコボコにボロボロになっていてゴミにしか見えなかったのだろう。瑛一くんも気にした様子はなかった。


 瑛一くんは兄のジャージを借りて一晩泊まっていくと、次の日にはしっかり動ける程度には回復して自分の足で帰っていった。うちの兄並みの回復力だ。


 しかしまさか、その次の日に学校に登校するほどに回復が早いとは驚いた。


「歩ちゃん、おはよう」


「……、……? ……あ。瑛一くん、おはようございます」


 昇降口付近で見覚えのない人に声をかけられたと思えば、傷や痣は残ってはいるものの顔の腫れはすっかり癒えた瑛一くんだったのだ。驚いて瞬きを繰り返す私を、彼はにこにこと笑って見下ろしていた。治りの早さもだけれど、存外、甘い顔立ちをしていたことにも驚いた。


 彼をリンチした人たち、よくこんな綺麗な顔を執拗に殴ったなあ。それともこんな綺麗な顔だったから執拗に殴ったのかなあ。


「これ借りたジャージ。ありがとうね。お兄さんにも伝えておいて」


「これはどうもご丁寧に」


 受け取った紙袋には洗濯された兄のジャージと洋菓子屋のクッキーが入っていた。兄と妹がはしゃぎそうだ。


 靴を上履きに履き替えてからもなんとなく彼と並んで歩いていると、突然後ろから腕が引かれ、抵抗する間もなく私の体はバランスを崩した。


「っ!」


 咄嗟に強張る体はぽすん、と柔らかく受け止められ、一秒前まで横を歩いていた瑛一くんが前方で驚いた顔をしているのが目に入る。


 背後の人物の腕が腰に回り、強引に引き寄せられた私は高めの体温を背中で感じながらじたばたと暴れてみるが、解放される様子はない。


「え、え、な、なに、」


「うわー俊ちゃんのくせに登校早くね?」


 呆れたような顔で肩を竦める瑛一くんの言葉に、暴れる動作を取り止めた。


「……俊ちゃん?」


「なんでこいつと一緒にいるんだよ、歩」


 不機嫌そうな低い声は確かに聞き覚えのあるもので、安心して一気に力が抜ける。知らない人にいきなりセクハラされたのかと思った。私の抵抗がなくなったのを感じてか、俊ちゃんの腕の力も弱まった。


「先日の雨の日に公園で拾いまして」


「は? いや、捨て猫じゃねえんだから」


「雨の日に公園で怪我しているところを拾ってもらったんだよね」


「捨て猫かよ……」


 腕の中から上を見上げると、俊ちゃんは納得いかないような難しい顔をして瑛一くんを睨み付けていた。俊ちゃんこそ、雨の中、捨て猫を拾うタイプじゃないかなあ。


 じいと見つめていれば視線に気がついた俊ちゃんと目が合い、彼の気まずそうに目を泳がせる表情を最後に写したところで私の視界は塞がれた。俊ちゃんの大きな手で目元を覆われたようだ。


「瑛一、説明しろ」


 視覚を制限されると喋ることも動くことも出来なくなる気がする。説明はこのまま瑛一くんに任せ、ぴたりと動きを止めて大人しく解放を待ってみることにした。


「あーはいはい。んな睨むなよ……。数日前に北校の奴らに囲まれてさ」


「人数は」


「八くらい。もう遠慮なくボッコボコにされたわけよ。俺の自慢の顔がひでーことになってさあ」


「雑魚かよ」


 俊ちゃんは瑛一くんを鼻で笑ったけれど、私に拾われて家に泊まった話をすると途端に雰囲気が剣呑とし始めた。


「歩ちゃん、俺を背負って平然と家まで歩くからマジびびったわ。俺そんな小柄でもねえのにさー。すげぇ力持ち?」


「なんでお前が歩に背負われて歩の家に泊まってんだよ」


「不可抗力不可抗力」


 軽い謝罪を受けてなにやら俊ちゃんがプルプルしているが、目元を塞ぐ手の力が弱まるのを感じて、両手で引き剥がした。その際手の大きさの違いを目の当たりにして内心驚いた。そりゃあこれだけ大きな手なら片手で私の世界に容易く闇をもたらすわけだ。ペタペタと彼の手に触れてしまいながら、ハッと我に返る。


「そういえば俊ちゃん」


「あ、おう、何」


 今なお至近距離の俊ちゃんに向き直れば彼はややたじろいだが、構わず続けた。数日前に考えたことを。


「俊ちゃんの連絡先教えてもらってもいいですか」


「…………!」


 彼は何も答えなかったけれど、代わりにこくこくと何度も何度も頷いてくれた。


 今回みたいなことがまたあると思いたくはないけれど、何かあったときに連絡をとれる方がいいだろう。それに、実はなんだか仲の良い友達みたいで、私が個人的に少し嬉しい。


 私と俊ちゃんがスマートフォンを突き合わせて連絡先を交換している間、何故か瑛一くんは無音で笑っていた。最新の家電ばりに静かに笑うんだなあこの人。




回収という単語に翻弄されている。

今後もなにかしらを回収できるように頑張ります。

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