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私を回収





 兄の回収と妹の回収は、割と私の日常的な習慣である。


 弱いくせに喧嘩っ早い兄と、男子にちやほやされることを生き甲斐とした奔放な妹。


 彼らはいつもいつもどこかで問題を起こしているから、私はいつもいつも回収に行く。


 自業自得な面もあるから放っておけばいい、と両親は心配しつつも私を止めてくれるのだが、兄と妹はピンチになると何故か私にだけSOSを出すものだから、ついつい回収作業に向かってしまう。


 ということで私はSOSを受ける側であり、SOSを出したことはない。


「あんた名前は」


 だから、初SOSの出番なのか悩みながら結局動けない。


 妹回収時に彼に出くわしたのは昨日のことだ。


 次の日の昼休み、飲み物でも買いに行こうと教室を出たところで金髪の彼に見つかり連行された。


高槻(たかつき)(あゆみ)です」


 どこに連れていかれるのだろうと内心ひやひやしたが、彼のクラスに連れていかれただけだった。


 同じ学年だが、そのクラスは所謂素行不良の生徒が多いクラスで、そういう生徒ばかりの中に突然放り込まれて戸惑う。彼は誰かの席に私を座らせると隣の席にどっかりと腰掛けた。


「歩、俺の名前はわかるか?」


「え? いえ、知りません」


 いきなり名前呼びなんだ。距離の詰め方えぐいなあ。


 私がぼんやり驚いていると、周囲の派手な生徒たちがけらけらと笑って盛り上がっている。


「おいおい(しゅん)ちゃん、俊ちゃんの認知度もまだまだだな!」


「そんなくそ派手なパツキンしてるくせにな」


 確かにここまで堂々と派手な金髪に染めている生徒はこの学校にはそういない。多くの生徒が認知しているような有名な人物なのは確かなのだろう。


 世間知らずぶりを思い知らされて少し恥ずかしい。最近他校の兄と下級生の妹に気をとられ過ぎているなあ。


「えと、俊ちゃんさん?」


「……さん要らねえだろ」


「俊ちゃん?」


「ああ」


 どうしよう。ちゃん付けは少しふざけただけだったのに、呼び方が確定してしまう。


「それで、どうして私はここに連れてこられたんでしょうか」


 呼び方は保留として、首を傾げて尋ねれば、彼はぐっと言葉を詰まらせた。じっと見つめて返事を待つも、彼の目が泳いだあたりでなんとなく予想ついた。


「特に意味はないんですね?」


「う、……ああ。ちょっと、気になったから話してみたかった、だけで」


 うっわ中学生男子かよ、と誰かが呟いたが、彼がその誰かを睨み付けたことですっかり周囲は静まり返った。うん、居心地悪い。


「……そんな気になることしました? 兄と妹を回収しただけですよ?」


「だってあんた、俺が喧嘩してるとこ見てたんだろ」


「ああ、はい」


 心なし、彼の声がぼそぼそと聞き取りづらくなっていく。つい身を乗り出してしまって、彼が硬直するのを見て動きを止めた。大人しく言葉を待とう。


「……その、俺が喧嘩してるとこ見て、あんなに平然としてる奴ってなかなかいないから」


「俊ちゃんの喧嘩ってめっちゃこええもんな! 鬼気迫るっていうかさ、俺らも最初ちょっと怖かったもん」


 赤茶色の髪の男子生徒の発言に同意するように他の人たちも声をあげて笑うから、いや私もあのときちゃんと怖かったんですけど、とは言えなかった。


「……きっとあの喧嘩は兄たちが仕掛けたものだろうとわかっていましたし、兄自身の怪我もそう後に引くようなものでもありませんでした。だから、大袈裟なまでに怖がる必要がなかっただけです」


「……や、普通ならそんな冷静に判断できねえし、そもそもここ連れてこられた時点でもっと怯える、だろ」


 わかっているなら何故連れてきた。他クラスの真面目生徒に興味津々な周囲の視線にどれだけ居心地の悪さを感じていると思っている。しかも今の私はちゃんと怯えている。


 などは言えなかったが、昼休み終了のチャイムが鳴った。


「あ。じゃ、教室帰ります」


「え、あ、ああ」


 そして私は自分をしっかり無事に回収したのだった。






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