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落とし物を回収




 外から両親の車が帰ってくる音がして、そのことを呟くと俊ちゃんはそそくさと帰っていった。


「なんか悪かった、色々。今度はちゃんと遊ぼうな」


 ハルマキを撫でくりまわした後、私の頭もついでとばかりに撫でて去っていく後ろ姿をハルマキと見送った。大したおもてなしも出来ず申し訳ない。





「あ、あ、あゆちゃん、あの人彼氏?」


「なんだとあゆこら! お兄ちゃんは許さねえぞ!」


 玄関のドアが閉まると同時、背後で妹と兄の声が騒ぎだし、ハルマキが体を震わせた。飼い主がお客さんよりびびられてどうする。


「二人とも、部屋に籠ってたんじゃないんですか」


「だってあゆちゃんが心配で! 男の人と遊ぶなんてふしだらだよ!」


「あんな乱暴な奴と仲良くするなんて許さねえぞ! 今日は何してたんだよ。瑛一はどうした!」


 わんわん喚き散らす二人を置いて、わんわん喚かないハルマキを抱っこしてリビングに向かう。しかし当然のように後をついてくる二人の追及は止まらない。


 心配してくれるのは有り難いけれど、この二人に心配されるとなんだか納得できないのはどうしてだろう。普段の行いかな。


「今日は年下の女の子と二人でカラオケに行きました」


「……え? え? なんで? そのエピソード、さっきの金髪の人掠りもしてないじゃん……」


「不純異性交遊責めようとしたのにど健全な相手とど健全な遊びしてんじゃねえぞあゆ!」


 何故私は怒られているのか。


 溜め息をついたところで両親が帰ってきた。母がドアを開けて第一声、兄を呼び、買い物袋を運ばせようとしている。兄は舌打ちをすると素直に玄関に向かっていったが、舌打ちがバレていたらしく、母からどつかれて痛がる声が聞こえてきた。


 家族の中で母に一番懐いているハルマキが私の手から抜け出し玄関に走り出して、妹と二人、なんとなく目を合わせる。


 彼女はふふ、と可愛らしく笑うと、甘えるように抱きついてきた。肩に額をぐりぐりと押し付けられ、猫みたいだと思った。我が家にはわんこだけでなくにゃんこもいたらしい。


「あゆちゃん、危ない目には遭ったりしないでね」


 心配が滲んだ声は、玄関で騒ぐ家族の声に掻き消されそうなほどか細かったが、私の耳にしっかり届いた。


「……うん、ありがとね」


 髪を優しく撫でてやると、妹がパッと顔をあげる。そして一秒前までのしんみりとした空気を霧散させるように、玄関にドタドタと走っていった。


 突然一人取り残されて、どうしたらいいかわからなくなる。私も空気を読んで玄関に行った方がいいのだろうか。いや、狭いところでそんな大集合しても仕方ないだろうしなあ。


「あゆちゃんがタメ口使った! やっぱりあたしが一番愛されてる!」


 玄関に響き渡る自慢気な甲高い声。


 何を言っているんだあの子は。


「んだとこら! 俺が一番だバーカ!」


 何をキレてるんだあの兄は。


 玄関先で大騒ぎする二人を母が一喝し、精米した米の袋を抱えた父が遅れて入ってきたことで俊ちゃんの話題は完全に流れた。


 今この中で俊ちゃんのことをはっきりと覚えているのは私とハルマキだけに違いない。いや、ハルマキも母の持つ買い物袋に興奮して纏わりついているから、あの小さな脳味噌は俊ちゃんにリソースを割く暇もないのだろう。


 と、そこで、いつものんびりしている父がのんびりと手に持った何かを皆に向けて掲げた。


「なあ、家の前に携帯電話落ちてたんだけど、心当たりあるか?」


 恐らく俊ちゃんのスマートフォンだった。匂いか本能か、ハルマキが父の足元でぴょんぴょん跳ね始めた。


「おっなんだなんだ、こいつはハルマキの携帯電話か」


 それはないと思う、父よ。あとスマートフォンのことをいつまで携帯電話と呼ぶのか。


「それってさっきの人の……? あっそうだよあゆちゃん! 忘れてたけど、なんであの怖い人うちに来てたのっ? あゆちゃんとどういう関係!」


「友人です」


「そういや朝には瑛一もいたんだよな……あいつと瑛一って知り合いなのか……?」


「友人です」


 興奮すると声がでかくなる二人を再び母が黙らせている間に、父がこっそり俊ちゃんのものであろうスマートフォンを私の手に握らせた。


「彼氏に渡しときな」


「友人です……」





 夕飯を食べた後、どうしたものかと右手に自分のスマートフォンを持ちながら、左手に持った黒いカバーのスマートフォンを眺める。とりあえず右手の方でSNSアプリを立ち上げてみた。


『家の前にスマホ忘れていきましたよ』


 ピョロン、と左手のスマートフォンが着信した。


 流石にあほだった。




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