無言の彼を回収
頷かなかった私を、花菜ちゃんは責めたりはしなかった。「そう」と小さく答えて、グミを買ってコンビニを出た。入った店から手ぶらで出られないタイプのようだ。
キョロキョロと素早くあたりを見渡して俊ちゃんと瑛一くんの姿がないことを確認すると、花菜ちゃんはまた私の手を引いて歩き出す。
「あゆみ」
「え?」
「歩っていうんでしょ、あんた。歩は、俊くんのこと怖くないの?」
少し前に俊ちゃんの怒りを間近で受け止めてしまった花菜ちゃんが、心なし小さくなった歩幅で私の斜め前を歩いている。落ち込んで見えて、好きな人にああも冷たく拒絶されれば落ち込んで当然か、と気がついた。
「そうですね、喧嘩していたり怒ったりしている俊ちゃんは確かに怖いです」
初めて彼を見たときの人を殴り付ける姿や、先程の冷たい目を思い出せば、恐怖は覚える。結局私は暴力と縁のない世界を生きてきた平和な人間なわけで、ここで強がっても仕方がない。
「怖いのに友達なの?」
花菜ちゃんはやや驚いたように瞬きを繰り返した。長い睫毛がパサパサと上下する。
「そりゃあ、いつも喧嘩して怒ってるような人だったなら友達にはなれなかったかもしれないですけど、俊ちゃんは優しい人ですから。一つの側面だけを見て否定しようとは思えないです」
「……どんな風に優しいの?」
「んー、どんな風に……、一番最近だとこれ買ってくれました。あと、私の家の飼い犬と仲良しで、」
飲みかけのミルクティーを振りながら、これでは俊ちゃんに好意を寄せているこの子に仲の良さを見せつけているようではないか、と気がつきハッとした。
「ふーん。俊くん、動物好きなんだ。意外」
幸い気にした様子はなく、興味があるんだかないんだかわからない調子で相槌を打ちながら近くの建物に入っていく。手を引かれている私も当然その後をついていった。
「なんですか、ここ」
「カラオケよ」
エレベーターでカラオケのある階に上がると、花菜ちゃんが手慣れた様子で受付を済ませ、あれよあれよという間に私は部屋でマイクを持たされていた。
「な、何故カラオケに?」
「……なんとなく。……あたしのせいで遊園地流れたのはごめん。ここ奢るから付き合ってよ」
しょんぼりとされては何も言えない。年下に奢らせる気はないけど、部屋まで入ったからには彼女に付き合うべきだろう。
彼女がとりあえず、と一曲目を歌うのを聞きつつ、機械で曲を選びながらこっそりスマートフォンの画面をつけると、不在着信通知とメッセージが何通も届いていた。
『今どこ?』『大丈夫?』『連絡して』というような、ほぼ同じような内容だ。送り主は当然俊ちゃんと瑛一くんだった。強引に立ち去ってしまったからなあ。
『花菜ちゃんと遊んで帰ります。心配はいりません。遊園地はまた今度ですね』
返事を送りながら、カラオケのランキングから適当に歌えるものを選んだ。
「しんっじらんない! なんであんなに歌上手いの!?」
「いやはははー」
「意外すぎる! めちゃくちゃファンなるー! ねえねえ次行ったら歌ってほしい曲あるんだけど」
大興奮した花菜ちゃんを連れて、建物を出た。
彼女は奢ると言い張ったが、強引に割り勘にして会計を済ませた。納得いかないようだったけれど、年上としての威厳だってあるのだ。
私の兄と妹はカラオケに行くのが好きなのだが、一人で行くのは好きではないらしく、友人がつかまらないときは私をお供にすることが多い。二人に付き合って数をこなしているうちに自分で思っていたよりも歌が得意になっていたようだ。
私が一曲目を歌った時点で彼女は目を輝かせていて、その後はあれ歌って、これ歌って、の嵐で酷く焦った。褒められるのは素直に嬉しいけれど、そこまで気に入られるとは思わない。
「歩がお姉ちゃんだったらいいのになー。えーちより優しいし、歌上手いし!」
歌は兄姉の必須条件なのだろうか。
カラオケに入る前のように手を掴んで引っ張るのと違い、腕にきゅうとしがみつかれてこっそり戸惑う。随分と懐いてくれたようだ。
「あたしそろそろ帰るね。またカラオケ行こうね! 約束だから!」
「はい。楽しみにしてます」
「うん!」
私に懐く云々はともかく、歌いまくることで色々と発散できたらしい。すっきりした顔で帰っていった。
俊ちゃんについて、どうしたらいいのか、と思わなくもないけど。
そして、自分の家に帰ると、前で俊ちゃんが待っていた。
「……もしかして、ずっと待ってたんですか?」
「……」
沈黙は肯定とみなす、ということで、家に押し込んだ。待つならもう少し快適な場所を選んでほしい。フリータイムでがっつり歌ってきてしまったじゃないか。
「顔色悪いですよ。少し休んでいってください」
「……」
第二次、沈黙は肯定とみなす。




