if story もうおまえのことなんて、どうでもいい。だけど
「ごめん、なさい。ほんとに、ごめん。晴人がいなくて、寂しかっただけなの。許して・・・。わたしに意地悪しないで・・・」
言い方にムカついた。
意地悪ってなんだよ。おまえは俺とまだ親しいつもりでいるのか?
「舞、俺おまえのこと、許せねぇわ。浮気だけならまだいい。だけど、靴を転売してたのは、無理だ。俺の魂を込めて作った作品を、嘲笑うかのように利用してさ。悲しいよ、舞」
「そ、それはわたしがやったんじゃないのぉ。確かに、元彼の店だって言ったけど、わたしは転売なんかしてない!」
「放っておいて欲しかった。他人なら他人らしく、関係ない場所にいて欲しかった。で、どうする?浮津と別れてくれたら大事にはしない」
「甘いよ先輩、徹底的に潰しなよ」
ボディ子がそんなことを言ってくる。
だけど、もういいや。
浮津がクソだってわかった時点で、もう俺は大方興味を無くしてる。
別に付き合い続けても構わない。お似合いだからな、クソ人間同士、さ。
まぁ、舞が一人になれるわけないと知ってるから、こんな条件を提示してやってるんだ。
別れて、綺麗になってくれるなら、関わらないけれど、ボディ子に任せてもいい。ボディ子にめちゃくちゃ反対されたけどな。最後の、審判だ。
「なんで、そんな意地悪するの?わたしから、これ以上盗らないでよ」
「別に盗むとか、そんな話じゃないだろ?確かに、俺もあの時、そう思ったさ」
何一つ不自由の無い暮らしがあった。
側にはいずれ結婚するだろう人がいて、お互い仕事をしていて、順風満帆だった。
それが無くなった俺は、まさしく全てを奪われた気持ちになった。
愛する人はいない、ご飯も簡単なものしか食べなくなる。一気に貧乏になったし。俺も、おまえの公務員のブランド力に甘えていた部分があったとわかった。
「違うんだよ、舞。一回、お高く登りすぎた塔を壊そうぜ。話はそこからだ」
「何を言ってるの?あなたたちと同じ、底辺まで落ちろって言うの?」
そこまで言ってないんだが・・・
大丈夫、大丈夫。こいつはそういうやつだった。こいつの家族も、婆ちゃん以外はそういうやつらだった。だから、キレはしない。そうだろうな、としか思わない。
だけど、
隣のアイシャがめちゃくちゃ怒ってるのを誰か止めてッ!?
「あなたは、みじめですね」
アイシャは怒りを目に宿しながら、舞に話しかけた。
「そうよ!だから、助けて!」
「まだ助かろうとしてるんですか?あなたに、幸せになる道は残されていません」
「どうして!?一度間違えただけじゃない!」
「拒絶します。顔を見たくない。声も、心の声も、全部聞きたくない!!!」
「え?・・・あ・・・」
「そのっ!小娘って言うのをやめてください!!!」
「や、め、て?なんで、わたしの心が読める、の?」
「ハルト様は大甘です。あなたに、まだ助かって欲しいと望んでいます。だから、わたしも、あなたに助かって欲しい。・・・・・・ですが!」
「や、やめて・・・もう、やめてよ」
「・・・・・・」
アイシャは俺の顔をチラチラ見ている。
「とりあえず、浮津とは別れろよ?な?」
それが俺のかけられる最後の言葉だろう。女のせいにするやつは最低だ。別れた方がいい。
「先輩、甘いですね。先輩の代わりにわたしがひっぱたいてもいいですか?」
「首の骨が折れそうだからやめようか。一応、こいつとは付き合ってたんだ。信じたい気持ちはある」
「こんな状態でわたしに託すんですか?なかなか鬼畜ですね」
「真人間にしろとは言わないが、頼んでいいか?」
ボディ子は片目をつぶって物凄く嫌そうな顔をする。
だが、盛大にため息をついて、ボディ子が観念した。
「アイシャちゃんのためにやります。舞さんへの社会的制裁は如何程に?」
「浮津次第で変える。ちょっと待ってろ」
「ほんと、激甘ですよ。アイシャちゃんもなんか言ったら?」
「ハルト様は、大学時代全てを黒歴史にしたくないそうです。流星くんや、ボディ子さんとの思い出を、汚したくないから、ですよね?」
「そうだな」
「半年です。半年だけ面倒見ます。このお人好しがっ!!」
「兄貴、甘いよ。今はアイシャちゃん一筋なんだから、別にどうでもいいじゃん」
「リュウ、すまん」
「謝られても困るなー、なぁ、舞さん、俺は一言だけ言いたいことがある」
流星が前に出てくる。舞は頭を下げたまま動かない。
「教師に実際なれてるんだから、あんたはすげーよ。だけど、自分の幸せだけ考えてるあんたは、やっぱり教師に向いてないわ」
「先輩の我儘、これで最後にしてくださいね?」
「助かるよ、ボディ子」
俺は部屋を出て行こうとする。
「ま、待って!!」
舞が叫んでいる。なんだ、まだなんかあるのか?
「わたしから、教師という肩書きを取らないで!わたしが一年棒に振ってまで、一生懸命勉強してたの、晴人は知ってるでしょ?」
「そんな肩書きがあるからおまえはダメになったんだ。諦めろよ」
「あなたも、公務員になれば良かったのよ!そしたら、もっと違う未来があったよ!?」
「そうかもな。釣り合わなくてごめんな。でも、俺はもうアイシャと付き合ってるんだ。そして、おまえと別れてから、おまえとのたらればの話は俺の中で何千回もしてる」
「・・・・・・!」
「だから、もういいよ。じゃあな、舞」
昔の話なんて、出来上がった現在の前では無意味だ。
でも、舞と話せてようやく、前に進めそうだよ。
「ハルト様?」
「アイシャ、俺のこと殴っていいぞ?」
「嫌です。その代わり、今日はいっぱい甘えます」
「その前に、ちょっと寄りたいところがあるんだ。いいか?」
「わかってます。お供しますね」
アイシャ、ごめんな。俺のエゴに付き合わせてさ。
「いいんです。舞さんの心の声が聞けたから、わたしは満足してます」
「そうなのか。どんな声が聞けたかは、聞かない方がいいか?」
「舞さんに味方したハルト様には教えません!」
アイシャの声は怒ってるんだけど、顔は微笑んでる。器用なやつだ。
機嫌が良い理由はわからないけど、不機嫌じゃなくて良かった、と胸を撫で下ろした俺だった。