if story 決戦 ⑥
大変お待たせしました。
続きもまたがんばります。
対峙した時、どういう態度でいくかは決めていた。社長に絶対舐められるなよ、とだけ言われたのを思い出す。
別れた瞬間のことは二度と思い出したくない。
だけど、怒りに変えられるなら、
思い出したくないけど、思い出せ。
俺がどんな思いで別れた後、必死に靴を作ったのかを!
あいつはそれを転売しただと!?
許さねぇ!
怒りのまま、ゆっくりバーの扉を開けると、全員がこちらを向いた。
「アイシャ、もういい。ありがとな」
「な、なんで、きみが・・・」
浮津は狼狽えて席を立ち、後退り。壁に寄りかかって、そのままズルズルと尻餅をついてしまう。
「ハルト様。こいつです」
「わかってる」
俺はそのまま浮津のところに近づく。
しゃがみ込むと、浮津は恐怖を目に宿した。
ちっ、ーーー張り合いがねーな。
「はじめまして、でいいか?俺は笠井晴人。
舞とはいつから付き合ってる?」
「お、俺からじゃねぇ!」
「いつから付き合ってるかって聞いてるんだ!」
どっちから来たとか、心底どうでもいい。
思い出したくもない。ほんとはこいつとも喋りたく無い。
「ま、舞がバド部の副顧問になったからだ。顧問の俺は、あいつを飲みに誘ったんだ」
微かに覚えている。あいつに職場の飲み会があったことを。サシ飲みだったのかよ。
「きっかけはおまえで、すり寄ってきたのがあいつか」
「そうだ!あいつは彼氏なんかいないって言ってたぞ」
俺は拳に力が入る。
だが、アイシャが俺に抱きついて止めてくれた。
ふわっとした良い香りが、俺に冷静さを取り戻させる。
はー、危なかった。アイシャ、ナイスだ。
「ハルト様、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。もう大丈夫だ」
この怒りはあいつの分にとっておこう。
「じゃあ、4月中には付き合ってたんだな。それで、なぜ俺のことを知ってるんだ?」
「舞が僕にくれた靴が、きみの店のやつだったからだよ。元彼の店だって教えてくれたんだ」
「で?結果的におまえが俺から寝取ったんだとわかったのはいつだ?」
「し、知らない!」
「ハルト様、こいつ嘘をついています」
「ーーーー!!」
そんなわかりやすい顔しないでくれよ。おまえは敵なんだろ?徹底的に悪いんだろ?もっとボロを出してくれよ。
「ーーーハルト様、
初めて泊まりがけで性行為をしていた時、ハルト様からの連絡を元カノが無視した時に気づいたようです」
「・・・そっか」
想像するのを、やめた。
罵倒するのも、やめた。
気持ち悪い。
耐えられなくて、アイシャを抱きしめた。
「ハルト様、お願いです。わたしにこいつを始末させてください」
「もう、いいや。あとは舞のところに行く」
一発殴ってやりたかったけど、ダメだ。さっき堪えた意味がない。
謝罪も受け取りたくない。
こんなやつに、俺は負けたのかよ。
「いいんですか?ほんとに?」
「あとはウェルさんに任せよう」
扉が開く音がする。バーの入り口から、弟とウェルさんがこっちを見ていた。
「マスター、邪魔したな。うちの姫を丁重にもてなしてくれてありがとう」
カウンターに一万円札を置いた。
俺はそのまま店を出ようとする。アイシャもついてくる。
すれ違いざまに、ウェルさんにわざと英語で話しかける。
「I left the rest to you.」
「Rest?HAHAHA.Good luck」
もうここに用はない。
「兄貴、よく我慢したなー」
「俺が暴行して捕まったら、アイシャが悲しむ。それはダメだ」
「ハルト様・・・」
アイシャ、大丈夫だ。ようやく俺は吹っ切れた。
最初から、悪いのはあいつだったんだ。