有言実行のチャント
一人でカイル様をどうにかしそうな雰囲気のボディ子だったけど、どうやら何も通じないようで焦っているようだった。
悪いが、ボディ子には構ってられない。ほんとごめん。ほんとごめんってば!と心の中で先に謝っておくことにする。
アイシャは左手にペンダントを握りしめて、胸の前に持っていき、祈り始めた。
「ーーー汝、弱き者に非ず、弱き魂を許さず。
我、血の名乗る宿命にこの身を託す。
謳うは情熱の哀歌。誓うは灼けつく強者の意気。祈るは悠久なる理の隷属。
愛は鋼よりも硬く、契りは唇に溶かされ不変。
光の英霊達よ!誕生を祝福せよ!
我、依代に非ず。抜殻に非ず。
今此処に心の臓を繋ぎて廉なる道を開くーーー!」
「ーーーヒーローリアライズ!!!」
アイシャ、俺、勇者になります!!
俺の体が眩い光の粒に包まれる。その粒子がアイシャも包みこんで、なんだか二人だけの世界になったみたいだ。
「わたし、これが夢だったんです」
純白の肌を朱色に染めて、ちょっと照れているアイシャの頭にそっと手を置く。
「ハルト様に出逢えて良かった」
「俺もだ、アイシャ。なんかすげーな。わくわくが止まらねーよ」
俺の本心だ。今なら誰にも負けない気がする。
「浮気しちゃダメですよ。あっ、でも・・・、家族になれる子が一人いますね」
はい?家族?
「せんぱーい!なんかっ!わたし、わたし・・・小さくなっちゃった!!」
光の中からケモ耳がひょこっと現れる。
ふわふわの耳にきらきらとした銀髪。
身長はアイシャと同じくらい。緋色の瞳の少女がぶかぶかの服を引きずりながらこちらを見ていた。
この子、誰ですか?その服、ボディ子のじゃね?
「ハルト様の一番の理解者であるボディ子さんにも、早速勇者の加護が与えられたんですね」
えっ、嘘・・・この子ボディ子なの?
「せんぱーい!せっかく鍛えたのに・・・鍛えたのにぃぃぃ!!筋肉モリモリだったのに!すっきりしちゃいました!」
「えええええええ!!!!」
こりゃあたまげたぞ。
こんなのはボディ子じゃない!
元の用心棒最強ゴリラを思い出せ!!こんなのボディ子じゃないよ!思い出せ!思い・・・あれぇ?
「こっちのほうが正しい気がする」
「がびーん」
「ボディ子さん、凄く可愛くて嫉妬しちゃいそうです」
「なんだかわかんねーけどいくぞー!!」
「テキ、タオス、ボディコ、カワラナイ」
「ハルト様、ボディ子さんの様子がおかしいです!」
いや、これボディ子の平常運転だなぁ。
よし、こちらの都合で待たせてるお父様に楽しいもの、見せてやらなきゃな!
ーーー
光が収束して、俺たちは今、カイル様の前にいる。
俺というか、まぁどっちかというとボディ子を見て驚愕の表情を浮かべるカイル様。
まぁ俺の見た目は全然変わっちゃいないからな。ボディ子はサイズごと変わったからそりゃあびっくりするでしょ。
カイル様のわざとらしい、ちょっと芝居臭い驚き顔から一転、ニヤリと口角を上げる。
「勇者となったのなら歓迎しよう、そして二人の婚約も許可しよう」
「おいおい、全部カイル様の思惑通りだってことですか?」
「妻はアイシャなら真実の愛を見つけてくる、と言っていた。妻の言葉は疑わない。無論、アイシャもだ」
「家族愛が強いのはよーくわかったよ」
カイル様が怒ってないということは、一応この場は丸く収まった、ということでいいのか?
お父上様にうまく乗せられたのは癪だけど、まぁそこまでされないと俺も動かないしなー。でも、なんかムカつく。
「カイル様、勝負しましょう?」
ちょっとイラッとしたところにボディ子の一声。ボディ子、やる気満々だな。目がキラキラしてる。
「良かろう。アイシャも、三人まとめてかかってきなさい」