ボディ子、我慢の限界を超える。
ハルト視点です。
「アイシャよ、ナナリーが待っているぞ。勇者との結婚が嫌なら話し合おう。一度、冷静になったほうが良い。こっちに来なさい」
カイル様の目に優しさが宿った気がした。
俺は冷静に、冷静にどうすればアイシャにとって最善かずっと考えている。
俺は俺の中で今までの話を組み合わせて推理していただけなのだが、まだ決定的なものにたどり着いていなかった。要は、自分の方針を決めかねているのだ。
カイル様にわざとカマをかけて、アイシャを動揺させて、何がしたいんだろうな、俺は。
本来、カイル様は俺たちの邪魔をしてきたのだから、敵として見てもいいはずだ。
だけど、カイル様の言い分もわかるんだ。
アイシャの立場を考えれば、無理に結婚はしなくていいんだろうが、こっちの世界にいてはいけないことはなんとなくわかる。
アイシャの魔法は使い方によっては危険だし
王女だし
血筋を残さないと国が滅びてしまうだろう。
でも、俺はここまで考えて、これは全部建前だってことに気づいた。
俺の出したアイシャが帰らなけばならない理由に、アイシャの気持ちは少しも入っていない。
そして、多分、俺次第なんだ。アイシャの気持ちに対して俺はーーー
「先輩、ここで引いたら男じゃないっすよ」
俺より一歩後ろにいたボディ子が爪先で靴を鳴らしながら近づいてきた。
「おい、ボディ子・・・?」
トントン、とリズム良く爪先を鳴らすボディ子。
ボディ子がこれをする時は臨戦態勢の時なのだ。
まさか、カイル様と戦う気か!?
「先輩、アイシャちゃんを頼みますね」
「はい・・・?」
「頼みました。・・・先輩のナヨナヨ具合もアイシャちゃんのお父上様の高圧的な態度もどっちもムカつくんですけど、とりあえず先輩に味方しておきますね」
トントンとリズムを打っていたボディ子の音が止まる。
どうやらボディ子は相当怒っているようである。ボディ子を見ると、首やら額の血管が浮き出ていて今にも血が噴き出しそうだ。
対するカイル様はボディ子が出てきたのが意外だったのか、少し目を大きく開けていたが、すぐにしかめっ面に戻ってしまう。
「そこの女、下がれ。女に手荒な真似はしたくない」
「女扱いしてくれてさんきゅーです。でも今、男とか女とかカンケーナイですよね?」
「下がれと言っている。二度は言わん」
「先輩がもっと頼りになるなら下がれるんですが・・・悲しいことに、大体はこの役目になることが多いんですよ」
「ボディ子さん!?一体何をするんですか!?あっ・・・」
カイル様とボディ子、二人の強烈な圧に当てられて、耐えきれなくなったんだろう。アイシャは力無くしゃがみこんでしまった。
ボディ子の圧に慣れている俺はアイシャのそばに行き、とりあえず抱っこしてボディ子の後ろに下がった。
「先輩、やればできるじゃないですか。判断が早いことは大事なことです。正しい思考や倫理に囚われるより、感情や直感に任せたほうが良い結果になりますよ?あっ、これは先輩にしか通用しないやり方なので、他の人には言わないでくださいね」
「全然褒められた気がしないけど、一応ありがとうって言ったほうがいいか?」
「全然褒めてないので礼を言わないでください。先輩をドMにしたいわけではないので」
そこまで言い終わり、真上に飛び上がったボディ子は縦にクルクルと回転しながらカイル様に近づいていく。
この動きは、あれだ!ムーンサルト!!
「ご挨拶代わりに受け取ってください」
ボディ子の強烈な厚底靴踵落としがカイル様に炸裂した。
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