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ハルト視点に戻ります。
ボディ子にお姫様抱っこで抱えられて帰ってきたアイシャを、お店に着いたタイミングで起こしてみる。
手始めにほっぺをつんつん。
「んむぅ〜」
顔をしかめたのち、ゆっくりと目を開けるアイシャ。
「あれ?ハルトしゃま?」
目をこすりながら、俺にもたれかかってくるアイシャ。無防備すぎる。
寝起き弱いとか反則的に可愛いんですけど!
「アイシャ、良く眠れたかい?」
「はい・・・とても気持ちよかったです」
にっこり笑うアイシャに俺の顔は思わず緩んでしまう。そこに仏頂面のボディ子がチクリ。
「二人だけの空間、作るのやめましょう?」
「さっきはアイシャを大切にしろとか言ってたじゃん」
「このまま店を始めても、先輩はアイシャちゃんに夢中で職務怠慢、公私混同です。小言くらい言わせてください」
「はいはい。じゃあ、始めるか」
「では店長、店前の札を『open』にしてきます」
ボディ子の俺の呼び方が店長に変わるとなんか気が引き締まるな。
「ハルト様、わたしも店長とお呼びした方がいいですか?」
「ああ、頼む」
「わかりました、店長!」
こうして三人での営業がスタートしたのだった。
ーーー
俺はレジ奥の倉庫からまだ値札がついてないやつを引っ張り出してきて、店に出す作業をする。
お客さんがいない店内では俺の持ってきたジャズバンドの音楽が流れており、いつもと変わらない光景だ。
変わったことと言えば、店の入り口のちょっと脇でアイシャが椅子にちょこんと座っていることである。テーブルもあり、とりあえずファッション雑誌を読んでもらっている。
そしてボディ子はアイシャをマネキンの隙間から見守っている。
時間が経つにつれ、通りすがりの男たちが店の前で立ち止まり、集まってくる。アイシャに興味を持っているのがわかる。
「ここの店員さんですかー?」
「お名前なんていうんですか?」
そして野郎どもがナンパを始めるのである。
危機を察知したボディ子がジャンパーを被りながら、アイシャの座っている背もたれに移動する。
俺も心配になってきたから店の入り口に近づく。
だが、決して俺は姿を見せたりはしない。俺が出て行こうものなら、アイシャ狙いの男たちはすぐに退散してしまうからだ。
お店に興味を持ってもらえるように美人なアイシャを外に出したのだが、効果は絶大だった。十人もの男が店の前にいた。
「えっと・・・男の人は足元がビシッと決まってる人がいいなぁ。ブーツ履いてる人はカッコイイなぁ」
絶対アイシャが言わなそうな喋り方である。アイシャの背に隠れているボディ子がアイシャに言わせているのだった。
アイシャの一言で、これは営業なのだと察して離れる男が多数。
残った男三人は学生かな?
「俺、ブーツ履いてるんだけど、どう?」
一人の男がブーツ履いてるアピールをしている。
あとの二人はスニーカーである。
「えっと・・・ここのお店のブーツの方がカッコイイよぉ?」
ここで初めて三人の目が店に向いた。出て行くなら今しかない。
「いらっしゃいませ。ブーツをお探しですか?」
俺が満面の笑みでお出迎えする。
スニーカーの二人が「しまった!」という感じで少し後ずさりする。この二人はあんまり買う気が無いみたいだ。
ブーツを履いたやつだけはやけに強気な表情で俺のところに来る。
「俺、結構いいやつ履いてるんだよね。ここの店にはこれ以上のブーツあるの?」
「うちには絶対に破けないブーツが置いてあります」
「なんだって?」
「ささ、どうぞ中へ」
別に煽ったわけじゃない。俺の靴が破けないのは、趣味で作ったやつを四年履き続けているボディ子が証明しているのだから。
スニーカーの二人組は、どうしようかと立ち往生している。
どうしたもんかと思案していると、アイシャの素の声が聞こえてきた。
「お連れ様がお店を見ている間、わたしとお話ししませんか?」
「は、はいぃぃぃぃ!!」
「是非ぃぃぃぃぃぃ!!」
それまで隠れていたボディ子はすくっと立ち上がると、胸ポケットから紅茶カップとポットを取り出し、優雅に注ぎ始める。それを呆然と見ているスニーカーズ。
「おまえらぁ・・・」
ブーツくんが恨めしそうに連れの二人を見ている。
アイシャと話す目的で来たのに残念だったな。
ま、うちの店に来てくれたら損はさせないよ?




