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なぜ少女が犬小屋に?と思う前に、まず目の前の子の格好がおかしい。スマホの光を悉く跳ね返すような純白のドレスを着ていたからだ。おかげでこっちも眩しい。
これはこれは、なんとまぁこんな夜中に超ゴリゴリに凝ったコスプレイヤーに出会ったもんだ。
「いや、そんなところにいたら汚れるよ?ほら、犬の毛とか土とかで台無しになるよ?」
犬小屋の中で何をしていたのだろう?もしかしたら、ラッキーがこの子のアクセサリーかなんかを奪ってこの小屋に隠したのかもしれない。それを取り戻そうとして仕方なく入ったとか・・・かな?
俺は少女に手を伸ばした。引っ張り出そうとしたのだ。
しかし、彼女は怯えたように俺の手を見て動かない。
「あなたは、良い人ですか?」
「え?」
「あなたは、信用できる人ですか?」
ん?何を言ってるんだ?この人は。
彼女にとって俺は確かに怪しい人に見えるだろうが、ここ一応会社の敷地内だし、どちらかというと君が悪い感じというか、まぁラッキーが悪いんだったらこっちの落ち度だから仕方ないとは思うけど・・・
そう思案しているうちに、彼女はじっと俺の目を見ている。どうやら答えてくれるまで俺の手を取ってくれないらしい。
「わかった。とりあえず悪いようにはしないから出てきてくれないか?」
ビクッと彼女の肩が動くのがわかった。今にも泣きそうな顔になっている。どうやら余計に怖がらせたらしい。
困ったな、まず出てきてくれないと何も進まないんだけど。もしかしてこの子はお姫様になりきっている人なのかもしれない。そうだな、それだったらさっきのセリフでは不合格だ。
はぁ・・・と一息溜息をついて、呼吸を整える。これ、あれか?やんなきゃダメなのか?
自分の記憶の引き出しから、どこかの童話にありそうなセリフを頭に思い浮かべる。そして、こういうのは形が大事だから片膝をついた。
恥ずかしくて自分の顔に熱を帯びるのを感じながら、声を絞り出した。
「姫、王子がお助けに参りました」
俺は今どんな顔をしてるんだろう?自分で言いながら笑いを堪えるのに必死だ。悪ノリにも程がある。彼女の目を見るのをすぐにでも止めたいくらいだ。
きょとん、としていた彼女だったが、俺の言葉というか悪ノリが通じたようで、涙目からのホッとしたような優しい微笑みに変わった。
「助けてください、王子様」
触れた彼女の手は温かく、艶やかだった。