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アイシャ視点です。
ーーーただ、愛してほしいだけ。
わたしの婚約者は結婚前夜にわたしを襲いにきたのです。
一年前に決まった婚約の相手は黒髪の勇者でした。世界が救われたらわたしは勇者のものになる。そういう約束だったのです。
別に珍しい話ではありません。わたしのお父様も元勇者なので。そう決まっていたのですから、わたしはその通りになるんだろうとしか思いませんでした。
ただ、勇者は女遊びが激しかったのです。だから彼と結婚しても、わたしは一番ではない。もしかすると、愛してもらえないかもしれない、と少し不安でした。それでも、一番ではなくてもいいから、愛してさえくれれば、と願わずにはいられませんでした。
そして、魔王は勇者に倒され、勇者との結婚式の日が決まったのです。
王族の掟で、未婚の男女は交わってはいけません。ですが、その晩、勇者がわたしの部屋に来ました。
勇者の顔を見たわたしは驚きましたが、それでも、何より嬉しかったのです。掟を破ってでも来てくれたことが、特別扱いされてるような気がして。勇者の周りには他にも綺麗な女性がたくさんいるのに、この夜はわたしを選んでくれた、とわたしの心は舞い上がりました。
だけど、わたしはその時、自分の願望のその先に気づいたのです。一番じゃなくて良いなんて欺瞞だと。
本当は、本当はーーー
一番でなきゃ嫌。
お父様とお母様のように仲良く。死ぬまで愛し合いたい。
結婚式の前夜くらい、そんな夢を見たいじゃないですか。だから、勇者もわたしと同じ気持ちでいてほしい、と希望を抱かずにはいられなかったのです。
同時に不安も大きくなり、確かめたくて、わたしは勇者に魔法を使いました。
『ハートリーダー』は心を読む魔法です。それを勇者にかけました。この魔法は、かかった者はかけられたことに気づけないものです。
ですが、勇者からの愛の言葉を信じていたわたしは、裏切られました。
『結婚式めんどくせー』
え???
『別に王になんてなりたくないわ』
『つーか勝手に呼んで魔王倒させてなんなの?恨みしかねーけど』
『俺のハーレム要員にプリンセスが来たらみんな嫉妬するに決まってんだろ』
あ・・・あ・・・
「結婚式ボイコットするけど、俺のこと好きなんでしょ?だから味見させてくれない?」
わたしは声を枯らして叫び、使用人を呼びました。
それからのことは覚えていません。ひたすら走って、走って。
城の地下にある異世界人召喚の間の魔法陣に飛び込みました。