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騒がしい朝の日常風景~妹・真冬の面倒な性格~

「ん~~、もう朝かっ・・・」


 外から聞こえてくる車のエンジン音や鳥の鳴き声がする中、セットしていた目覚まし時計に起こされ眠たそうに目を擦っていた。

 現在の時刻は朝の6時20分、(ひいらぎ)真守(まもる)の1日は早朝から始まる。

 真守の家は両親ともに海外出張に出かけているため、朝食の準備などを自分たちでするほかなく、必然的に朝は早く起きないと物理的に学校に間に合わないのだ。

 今日は高校2年生になってから初の登校日ということもあり、遅刻しないためにもこれから朝ご飯の準備をしなければならないので、ベッドから出ようとしたが体に何かが引っ付いている感触と妙な温かみを感じた真守は溜息交じりに布団を捲った。


「すぅぅーー、むにゃにゃ・・・お兄ちゃんっ・・・激しすぎるよ・・・・すぅぅーー」


 そこには猫のように体を丸めた妹の真冬が寝言を言いながら気持ちよさそうに眠っていた。

 訂正しておくが、妹とエッチなことなど一度もしたことはない、断じてないっ!

 真守にとって真冬がベッドに潜り込むことは珍しくなく、週4の割合で忍びこんでくるため、すっかり見慣れた光景になっていた。

 真冬は普段、長い黒髪をツインテールにし、黒のニーソックスを着用して、THE妹キャラのような恰好をしているが、寝ているときは髪を結ばずストレートにして大人びた雰囲気になり、普段とのギャップに少し困ってしまう時がある。

 だが、こうしている間にも朝の貴重な時間が失われつつある現状に焦った真守は真冬を急いで起こした。


「真冬、そろそろ朝ごはんの準備があるから、さっさと起きろー」


 ゆさゆさと真守に体を揺さぶられた真冬は先程の真守と同じように眠たそうに目をこすりながら目を覚ました。


「おふぁよ~~、お兄ちゃん。 ん~~~、今日もお兄ちゃんの体温を感じながらぐっすり寝られたよ~」


 猫のように手の甲で目をこすりながら、布団からのそっと上半身だけを起き上がらせ、両手をバンザイした状態で体をぐーーっと伸ばしながら無防備に挨拶を返してきた。

 自分で言うのもなんだが、真冬はあどけなさが残りつつも年齢を重ねるごとに綺麗かつ可愛くなっていることもあり、こうも無防備に密着されたり近くに寄って来られると、いくら妹とはいえ少し反応に困ってしまう。

 だからと言って、素っ気ない態度を取ることは妹の性格上ぜったいに避けなければならない。

 ましてや自分が真冬のことを少しでも異性として意識していることを悟られるわけにはいかない。

 だからこそ体を伸ばした際に、パジャマに浮かび上がった豊かとはいえないまでも確かな胸の膨らみに目が入ったのは妹には絶対に秘密である。

 そんなことを目を閉じながら考えて動作が止まっている真守を見た真冬は不思議そうにしていたが、八ッと何かに気づいた素振りを見せた後、目を(つむ)り上下の唇をそっと閉じ、真守の唇の位置にゆっくりと近づけていった。


「んーー、んーーー、んーーーーー」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


 真冬が近づいてくる気配を感じ取った真守は目を閉じ迫ってくる真冬の唇を腕を伸ばして手で塞ぎ、唇を塞がれた真冬は唸り声を上げ必死に抗議していた。


「・・・何をするつもりだったんだ、真冬?」

「んぷはぁっ、決まってるでしょ、朝のチューだよ?」


 妹の突然の行動に疑問を投げかけた真守だったが、真冬の方も『何を分かりきったことを聞いてるの?』と不思議そうに首を傾げながら疑問を投げ返されてしまった。

 先程の真守の質問の仕方では真冬には意図が伝わらなかった様なので、再度質問してみることにした。


「聞き方を変えるぞ、真冬。 なんで今日はキスしてきたんだ?」


 そう、真冬の朝のキスのおねだりは今に始まったことではなく、子どもの頃からの兄妹の習慣みたいなものだった。

 だが、あくまで子どもの頃の話だ。

 小学校高学年あたり、正確には思春期に入った頃から真守の方から真冬に『いつまでも兄妹でこういうことをするのは良くないから、これからはしないでおこう』と話を持ち出した。

 真冬も最初の頃はどうしてと駄々をこねていたが、何度も執拗に断り続けた結果、最近ではしないようになっていた。

 だからこそ、真守の方も自分の考えをちゃんと理解してくれたとばかりに思っていたのだが、今回の真冬の行動は真守の考えとは真逆の行動であるため、真守には疑問に思えてならなかったのだ。


「お兄ちゃんが目を閉じたままじっとしてたから、てっきりキスしてもいいよっていう合図かと思ったんだけど・・・違うの?」


 真冬の答えを聞いた真守は年々衰えることなく増し続けるあまりのブラコンぶりに自然とため息が漏れてしまっていた。

 だが真守にはこのままですまされない事情があった。

 それは真冬も今日から真守と同じ高校に1年生として入学してくることだ。

 中学の時は小学校からの知り合いが多く、真冬が極度のブラコンだというのは周知の事実であったため、過度なスキンシップなども特に騒がれたりすることはなかったのだが、現在真守が通っている高校は前の学校よりも遠くにありそれなりの進学校であり、中学の時の友達などは当然いないのである。

 そんな状態で真冬が中学の頃のように学校生活の中で家にいる時のような接し方をしたならば、周りの反応など非を見るよりも明らかであり、自分の平穏な学校生活など破綻しかねない事態になってしまう。

 だからこそ、真守は本当ならばあとあと面倒になるので真冬を突き放すようなことを言いたくはないが、今後の為にも改めて強く言い聞かせることにした。


「真冬、お前も今日から高校生になるんだからこういう周りの人に誤解を招きかねない過度なスキンシップはやめにしよう。 僕は妹のお前とそういったことをする気はないから・・・・分かってくれ」


 真守の考えを聞いた真冬は少し顔を伏せ、少なからずショックを受けているように真守の目には映っていた。

 真守の方も真冬のことが別に嫌いというわけではないので強く言おうとしても、少し言い方が優しくなってしまったが、真冬の様子から真守は自分の考えを改めてしっかりと示したことで少しは考えが伝わったと思っていると、真冬は伏せていた顔を上げ真守の顔を見ながら、


「もぉ~、お兄ちゃんったら照れなくてもいいのに~、本当は嬉しくて嬉しくて仕方ないんでしょっ♪ 恥ずかしがり屋さんなんだからっ♥」


 と身体をくねらせながら嬉しそうに語る妹の姿があった。

 はぁ~、我が妹ながら何故にこんな異常な程のブラコンになってしまったのか―――。

 真守も薄々このような結果になるとは分かっていたものの、さすがにこんな感じで学校でも接しられたら問題が生じる可能性が高くなるので未だに嬉しそうにしている真冬に勘違いを正してもらわなければならなかった。


「あのな真冬、中学の時と違って僕たちの事をよく知らない高校で家にいる時と同じように接されたら僕も周りの人から変な目で見られたりしたら困るんだよ、だから・・・・・」


 僕が高校での平穏な生活を乱されたくないことを訴えていると、先程まで嬉しそうにしていた真冬の雰囲気が一変し、顔を伏せ甲高い声から少し低めの声になって突然質問をしてきた。


「ねぇ、お兄ちゃん・・・・もしかしてお兄ちゃんの高校に私とのスキンシップを見られたくない気になる女の子でもいるの??」

 

 真冬の背後から得体の知れないどす黒いオーラのようものが放たれていた。

 真守は長年の経験上、このパターンはヤバいと思い否定しようとしたが、

 

「なっ、何を言ってるんだ真冬? そんな話これっぽっちもして・・・」


「嘘だッッ!!」


 某アニメの(なた)少女を彷彿とさせるような普段の猫撫で声からは想像もできないような迫力ある声を上げた真冬。

 僕がいきなり大きな声を出されて驚き半分、妹の性格上やっぱり感半分の状態だったが、真冬の勘違いは止まることなく、


「私が高校で中学のときと同じように接して困る原因なんて、お兄ちゃんの高校に私のことを知られたくない特別な人がいるなんでしょっ! そうなんでしょっ、お兄ちゃんっ!」


 そう言って真冬は生気が宿っていない目をして僕の肩をゆさゆさと必死に揺らしていた。

 そう、妹は極度のブラコンでもあり、究極の勘違い系ヤンデレでもあった。

 だからこそ、下手に妹を避けるような発言をしたくなかったのだ、こうなることは目に見えていたから。

 だが、何もしなければ妹の真冬はいつまで経っても兄離れできないままになり困る状況ではあるものの、このヤンデレ状態は真守にとっても面倒なので、ここはまず一旦鎮めることを優先することにした。

 

「少し落ち着け、真冬。お前の言っている事は一方的な誤解だ」


「そんなはずないよっ! 周りの人に見られたくないなんてお兄ちゃんに今まで言われたことなかったもんっ! だから・・・・」


 真守の言葉を聞いても真冬の勘違いは止まる気配はなく、このままでは確実に厄介なことになると思った真守は仕方なくいつものアレを言うことにした。


「なぁ、真冬・・・・」


「・・・・・・・なにっ?」


 真守は真冬の両肩に手をそっと置き、目をまっすぐ見つめる形をとった。

 真冬も僕の行動で少し落ち着いたのか話が聞ける状態になり、無愛想ながらも返事を返してくれたので、真守は努めて優しい口調で話し始めた。


「まず僕にそんな特別な相手はいないよ。 よく考えてごらん、僕が高1の時にそんな相手がいたら放課後に遊びに行ったりして普通の時間に家に帰ってきたりできないし、ましてや休日に真冬と遊ぶ時間なんて作れるはずないだろう?」


「そ、それはそうだけど・・・・でも・・・・」


 それでもまだ疑念が晴れ切れない真冬に対して、真守は真冬の頭に手を乗せて優しく撫でながら、いつもの決め文句を言ったのだった。


「そんなに僕の言うことが信用できないのか? 僕は真冬のことを信用してるし大好きだよ(まぁ、妹としてだけど・・) だから変な勘違いはしないでくれ」


 頭を優しく撫でられ、(はた)から見れば愛の告白めいたことを言われた真冬は、先程のどす黒い雰囲気から一変し、ぱぁっと満開の笑顔を咲かせ僕の胸に飛び込み、顔をすりすりと擦りつけてきた。


「えへへ~、私もお兄ちゃんのことが大大大好きだよ~♪♪ んふふ~♥」


 疑念などどこかに吹き飛んで行ってしまい、まるで猫みたいに真守のことを自分のものだと主張するかのように匂いを擦りつけ、幸せの中に浸っていた。

 

(はぁ~、やっぱり最後はいつもこうなるんだよなぁ・・・・真冬の性格上こうするほうが一番うまく収まる方法なんだけど、ブラコンの方もこれで悪化してどっちにしても板挟み状態っていう・・・・・はぁ~)

 

 真守は案の定の結果に真守は心の中で嘆息を漏らしながらも、勘違いが無くなって僕の言うことなら何でも聞き入れてくれそうな幸せ状態にある真冬に、もう一度念のために高校での接し方について言い聞かせることにした。


「高校ではスキンシップを抑えるっていう僕のお願いもちゃんと聞いてくれるよな、真冬?」


 これで真冬も納得してくれるとは思っていた真守だったが、


「・・・・・・お兄ちゃんとのスキンシップを抑えるなんて無理だけど?」


 と真冬の方は僕とのスキンシップを妥協する考えなど微塵も存在していなかった。

 どうしようもない妹のブラコンに絶望的な気分になりどのようにして分からせようか思案していると、真冬が不思議そうに質問してきた。


「ねぇ、どうしてお兄ちゃんはそんなに私とのスキンシップを見られたくないの?」


「それはさっきから言ってるように、普通の兄妹は僕達みたいな接し方は・・・・」


 真守が先程から述べている理由を説明しようとしたが、真冬はそれを遮る形で自分たちが過度なスキンシップをとっても不自然ではない最大の根拠を述べた。

 

「でも・・・・お兄ちゃんと私は義理の兄妹なんだよ」


 そう真冬の言うとおり僕たちはあくまで義理の兄妹なのである。

 僕が小学1年生の7歳ぐらいの頃にシングルファザーだった父親が同じくシングルマザーだった真冬の母親と再婚し、僕と真冬は兄妹になった。

 僕にとって真冬は赤の他人でもあるが、やはり長年一緒に暮らしてきたことで妹という感情の方がどうしても大きくなり、妹の真冬と違って明らかな恋愛対象として見ることはできないでいた。

 だからこそ、真冬の想いを受け取ることが出来ないことが負い目になり、真冬の過度なスキンシップにも厳しく注意することが今までできずにいたのだ。

 真冬も今日から高校生として真守と同じ高校に通うことを契機に少しずつでも兄離れする方向に持って行きたかったのだが、予想以上にブラコン化が進行してしまい真守にも手の付けられる状態ではもはやなかった。


「はぁっ、それを言われると返す言葉もないんだけど・・・・・・・分かった、なるべくでいいから抑える努力をしてくれると僕としてはありがたいことだけ覚えておいてくれ、真冬」


 真冬が同じ高校に通い始める今日こそは説得しようと考えいてた真守だったが、妹のブラコンの進行具合が真守の予想を遥かに超えていたため、説得は長期にわたって少しずつ理解させていくほかなかった。

 あとは、真冬の兄に対する心遣いに祈るしかなかったが、


「うん分かった、前向きに検討だけはするね、お兄ちゃんっ♪」


 と、真冬は笑顔で全く検討する気がない返事を返し、僕はただ項垂れるしかなかった。


「それよりね、お兄ちゃん」


「どうしたんだ、まだ何かあるのか?」


 真守としてはこれ以上真冬のブラコン関係の事で頭を悩ませたくないと思っていると、真冬は壁に掛けられている時計を一瞥してから僕に話しかけてきた。


「もう6時50分だけど、朝ごはんの準備とかしなくていいの?」


「えっ・・・・・・・・・」


 パッと振り向き時計を確認すると、真冬の言うとおり時計の針は6時50分を指し、すなわち起床から約30分ほど経過していたのだった。

 その事実に気づいた真守は急いでベッドから出た。


「真冬、お前は早く顔を洗ってきて、制服に着替えるんだ。 急がないと学校に間に合わないぞ」


「はぁ~い」


 真冬は気力のない声で返事をした後、ベッドの上で立ち上がり、軽くジャンプするようにして地面に着地し、ドアの方に向かっていった。

 真守の方は、2人そろって遅刻しないために今からすべきことを頭の中でどのようにすれべ効率よく行動できるのかを一生懸命考えていた。

 だが、そんな僕にに対して真冬はドアを開けて部屋を出て行こうとしていた去り際、


「ねぇ、お兄ちゃん・・・・・私はお兄ちゃんが見たいならいつでも見せてあげるからね」


 と、パジャマの上から胸元の部分を軽くつまみながら楽しそうに笑みを浮かべて部屋を出て行ったのだった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 絶対に秘密にして知られまいと考えていただけに、とっくに気づかれていた事実と本人から言われたことで真守の思考は一旦停止し固まってしまっていた。

 女性なので男性の視線には必然的に敏感になっているが、真冬は兄である真守が自分に対して向けてくれる視線には特に敏感になっているため、その視線を見逃すはずなどなかった。

 妹の胸を見ていたことがばれてしまった真守は、今後こんなことが起きないよういかなる時でも不用意に女性の身体を見ないようにしようと心の中に固く誓ったのだった。





 

 真守は制服に着替え、洗面所で顔を洗って、時間があまりないので真守はスクランブルエッグを上に乗せた簡単なトーストを急いで作り、最後に牛乳をレンジで1分ほど温めてテーブル状に2人分の朝ごはんを並べていた。

 この料理の所要時間はわずか10分程度だった。

 普段から2人分の料理を作り、また真守自身も一つ一つの作業を効率化していたため、これくらいの料理ならそれほど時間を要することはなかった。

 真守が朝ごはんを食卓に並べ終えると、真冬が髪形をツインテールにし制服に着替えてリビングに入ってきた。


「じゃじゃ~ん、高校の制服姿も似合ってるでしょっお兄ちゃん?」


 リビングに入ってくるなり真冬は僕の目の前に来ると、クルっと回って見せた。

 僕が通う高校の女子の制服は可愛いと評判がよく、有名な公立進学校ということもありそれなりに人気があった。

 黒色のブレザーには、手首周りと腰回りには細い白い線が、ブレザーのラインに沿っても白い線が入っている、いわゆるプリンセスラインと呼ばれる腰回りを細く見せるためのデザインが施され、胸元には校章である向日葵が描かれており、スカートも白と黒のチェック柄でシンプルなデザインではあるものの、目立つブレザーとうまく相まって全体的にうまくまとまった印象を与えていた。

 うん・・・この制服が人気なのは僕も納得なんだが・・・・・

 真守には二つばかり気になることがあった。

 一つは、短いスカートの丈だ。膝上5センチ以上はあいていて短すぎはしないが真守としては少し心配になってしまう。

 このことについては中学の時から気になり散々言ってきたが、本人曰く、『なま太ももは正義なの! 妹キャラには必須でしょっ!』、と意味の分からないことを繰り返しちっとも言うことを聞いてくれなかったので、気にするだけに留めておくことにした。

 最後の二つ目は、


「はぁ~・・・・真冬、その感想は毎回言わなきゃいけないのか?」


 そう、真冬は高校の制服が届いた2週間前からずっと真守に毎日欠かさず制服を着ては感想を聞いていたのだ。

 さすがに真守としても参ってしまっていて、しかも感想を毎回変えて言わないと真冬が機嫌を損なうので、それも真守を困らせていた。

 だが、そんな真守とは正反対に真冬は、


「お兄ちゃんは可愛い妹である私の事を褒めそやす義務があるのっ! だからお兄ちゃんは何回でも私の事を褒めないといけないのっ!」


 と、真守が妹に対する義務を忘れていることに少し怒りながらも、真守の感想を是が非でも聞きたいと言わんばかりに目を輝かせながら真守の事をじっと見つめていた。

 真冬のあまりに自分に都合のよい義務やルールを持ち出すことに真守も日頃から困っていたが、妹の性格上へたに否定すればまた面倒な事になりかねないのは目に見えていたので、軽く否定しながらも結局は言うことを聞いてきたのだ。

 今回も思うところは多分にあるが、今は時間の方が大事だった真守は妹の言うことに素直に従うことにした。


「はぁっ、仕方ないな真冬は・・・・・・・・・・・・・・・今日からその制服で学校に通う真冬が周りの男子に変なちょっかいを出されないか心配になるくらい似合ってるよ」


 真冬には本心でない言葉はすぐに嘘だとばれてしまうので、真守は敢えて少ししか思っていないことを大袈裟に表現することにした。

 それによって、真冬には嘘を言っていることにはならないし真冬もそれなりに満足するだろうと思っての事だった。

 だが、これを言われた真冬は大喜びして飛びついてくるなり何らかの喜びを表現するだろうと思っていた真守の予想に反して、真冬は少し驚いた顔をした直後、自分の顔を隠すように身体を半回転させ背を向けたのだった。


「・・・・・・・・・・///////////」


 真守がいつものように少し濁したような表現をするものと思っていた真冬だったが、ノーガード状態で予想外のストレートパンチをもらったような驚きと今まで周りの男子が自分に対してアプローチをかけてくることについて心配などしてくれなかっただけにちゃんと一人の女性として心配してくれた事と心配になるくらい凄く似合っている言ってくれた嬉しさで、顔が真っ赤になってしまっていたのだ。

 だからと言って、このまま何も言わずに黙ったまま後ろを向いたままにしていると兄に不自然に思われてしまうので、真冬は一呼吸整えてからまだ少し赤い顔で笑顔を浮かべて真守の方へ向き直った。


「えへへっ、ありがとうお兄ちゃん。 でも、心配しなくてもいいよ。 私が他の男子に言い寄られても絶対にお兄ちゃんから離れたりしないからねっ」


 真冬としてはいつものブラコン発言をすることで真守の言葉に顔を赤くさせるほど不意を突かれたことを悟られないようにしたかったのだ。

 だが、一刻も早く自分以外の異性に対しても興味や関心を抱いてほしいと考えていた真守にとっては逆効果になってしまっていた。


「ほら、急いで朝ごはんを食べるぞ。 初日から遅刻なんて洒落にならないからな」


「はぁ~い♪」


(僕が今の高校に進学して1年間だけ真冬と一緒にいられなかっただけでここまでブラコンが加速するなんて・・・・・・・僕が1年かけてひっそりと築き上げてきた平穏な学校生活が早くも崩れおちそうな予感がしてきたな・・・・・・)


 笑顔で答える真冬と正反対に、今までとは違い騒がしくなりそうな学校生活に憂鬱になりながら、真守自身も遅刻しないように急いで朝ごはんを食べ始めたのだった。




「お兄ちゃんっ、まだ~~~?」


 一足先に準備のできた真冬が玄関前から真守の部屋に向かって声を出していた。

 妹を待たせている真守は自分の部屋で学校に持っていく本を棚から選んでいたのだった。


「よしっ、今日は気分を明るくしたいからファンタジー系の小説を持っていくかな」


 そういうと棚から『異世界にて奔走する転生魔導師』というタイトルのラノベを取りだし、ブックカバーをして鞄に入れたのだった。

 真守は大のラノベ好きであり、学校でもラノベを読んで休み時間などもそれで時間を使っていた。

 もともと騒がしいのが苦手だったので、中学の頃のように妹と一緒にいると必然的に周りがうるさくなってしまって落ち着いて小説を読む時間などがなかっただけに、妹のいなかった高校1年のときは休み時間なども大好きな趣味であるラノベ読書にひたすら時間を費やしていた。

 それが功を奏したのか、穏やかに学校生活を送りたいと中学の時から思っていた真守の夢は見事に叶い、今では一人の男子生徒を除いてしゃべりかけてくることもなく、非常に静かな学校生活を送れていた。

 

(はぁっ、休み時間にラノベをじっくりと読めるのも今日が最後になるんだろうな・・・・)


 新入生である真冬は在校生の真守とは違い、入学式の後はクラス毎に分かれ生徒の自己紹介やこれからの学校の時間割やカリキュラムなどの説明などしかなく、昼休みまでには帰れることになっていた。

 そのため、真冬が昼休みに一緒にお昼を食べる口実に教室に来ることはないので、明日から普通に授業を開始する真冬が昼休みに来ないのは、必然的に今日だけなのである。

 だからこそ、最後の平穏な休み時間を精一杯過ごそうと密かに心の中で思いながら、机の上に置いていた伊達眼鏡をかけて玄関に向かった。


「悪い、本を選ぶのに少し時間が掛かっちゃって」


「いいよ、全然気にしてないから・・・・・・今日も伊達眼鏡していくの?」


「まぁ、高1の時からずっとしてるし、これを掛けてないと今は落ち着かないからね。 変かな?」


「ううん、そうじゃないけど。 眼鏡してない方がカッコいいから少し勿体無いなぁ~と思っただけだよ」


 自分でいうのもなんだけど、自分の容姿は普通よりかはいい方だと思う。

 中学の時も真冬のせいで変に注目されて何かと目立つ存在だったため、周囲にも僕の存在が知られていたし、そのおかげか分からないが何人かの女子に告白された事もあった。

 真守はあまり物事を、ましてや恋愛関係のことなどは即決するタイプではなく、じっくりと相手の事を考えたいタイプなので、その場ですぐ返事をすることをせずに少し時間を貰うことにしていた。

 だが、返事をする前にいつも相手の女の子からやっぱり前の告白の件は白紙にしてほしいといつも言われてしまい、それからというもの恋愛事にはあまり良い印象を持てなくなっていたのだ。

 だからこそ、真守は容姿を少しでも地味にすることで、恋愛的なイベントをなるべく避けたくて高校では伊達眼鏡をするようになった。

 真守も掛けているうちに段々と馴染んできてしまっていて、今では無いと自分の中で違和感を感じるほどになってしまい、両方の意味でもなくてはならない存在になってしまっていた。


「いいんだよ、それで。 地味にしてた方が僕的にも面倒事が減って助かるんだから」


「お兄ちゃんがいいならいいけど、真冬的にはカッコいいお兄ちゃんの方が嬉しいかな。 でも、どんなお兄ちゃんでも私は大好きだからねっ♪」


「はいはい、それはありがとう。 じゃあ、そろそろ行くぞ」


「ぞんざいに扱うなんて酷いよ、お兄ちゃん」


 真冬は自分の大好きアピールが真守に軽くあしらわれたことに不満を漏らしながらも、真守と一緒に玄関を出て一緒の学校に向かったのだった。


最後までお読みいただきありがとうございます。


出来る限りでいいので、この作品の感想などもらえたら幸いです。


今後の小説活動の参考にしたいと考えているので、出来るだけ多くの感想をお待ちしております。


それでは、次話にて。



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