オレには理解できないとあるマヨラーの言い分
ある日、実家から山ほどキャベツが送られてきた。
大学へ通うため上京しているオレへの仕送りらしい。
オレの実家は農家でキャベツも作っているからな。
たまにこういうこともある。
だけど、これを全部オレ一人で食べろと?
いや、同封されていた手紙には、隣近所におすそ分けしなさいって書いてある。
でもな、お袋よ。
都会じゃそういうことはあまりしないもんなんだよ。
田舎とは違うのだよ、田舎とは!
……なかには、マメにそういうことするヤツもいるだろうけどさ。
仕方ないので、おれはアイツを呼んだ。
とりあえず、今夜は千切りキャベツを山ほど食べさせてやるって。
「おまたせー。とりあえずスーパーでレトルトのハンバーグを買って来た。あと総菜で鶏カラも」
「お、いいじゃん。もうご飯は炊いてあるぜ。キャベツの千切りも、ほら!」
「うわっ、何この量。山盛りじゃん」
「これでも一玉だよ。まだ二十個以上あるぜ。よかったら、帰りにいくつか持ってけよ」
「そりゃ助かる」
レトルトのハンバーグをお湯で温め、鶏カラと一緒に二つの皿に盛りつけ、ご飯もよそって、テーブルに運ぶ。
オレは冷蔵庫から胡麻ドレッシングを取り出した。
「オレはいつもの胡麻ドレッシングだが、お前は?」
「ふっふっふ。ちゃんと持参してあるって。ほら!」
そう言ってコイツはバッグからマヨネーズを取り出した。
マイマヨネーズというやつだ。
たまにオレのウチで、こうやって一緒にご飯食べることがあるんだが、オレのウチには胡麻ドレッシングしかないって分かっているからな。
コイツはいつもマヨネーズを持参してくる。
マヨネーズこそ至高の食品と言って憚らない。
いわゆるマヨラーってやつだ。
いつものことなんで、オレは頷いてテーブルの前に座った。
「んじゃ、いただきまーす」
「いただきまーす」
一つの皿に山盛りになっているキャベツを箸でつかみ、自分の皿に持ってきて胡麻ドレッシングを少しかけた。
オレはドレッシングの中じゃ、これが一番好きなんだよね。
でも、コイツは違う。
オレと同じようにキャベツを自分の皿に載せ、そしてマヨネーズをかけ……
あれ? かけない?
「って、何やってんだ! お前!」
「ん?」
コイツ、マヨネーズをかけて食べず、キャベツを口に入れてからマヨネーズを吸いだした。
「何が?」
「何がじゃねぇ。なんでマヨネーズをかけないで直接吸っているんだ!」
「ああ、この食べ方? 最近気付いたんだよ。マヨネーズをかけて食べるとさ、どうしても皿に残ったりしちゃうだろ? マヨネーズが。それはとっても勿体ないことなんじゃないかと」
何言ってんだ、コイツ?
「だからね。マヨネーズは直接吸うことにしたんだ。皿も汚れずに済んで一石二鳥じゃないか!」
ホント、何言ってんだ、コイツは!
「あ、別に既得権を主張するつもりはないよ? いくらでもマネしてくれちゃっていいよ?」
――するか!
っていうか、頭痛ぇ……
なんでオレはコイツと……
「あ、そうそう! 一つだけ忠告しておくと、異性の前では止めといた方がいいね。ボクは気にしないけど、やっぱ嫌がる人は多いから。モテなくなっちゃうよ?」
――お前が言うな!
お前、女だろ!
オレは男だろ!
そして、お前はオレの彼女だろ!